本症は, 病原性レプトスピラを保有するネズミや家畜などの尿で汚染された水や土壌に存在する病原性レプトスピラが口や傷ついた皮膚から体内に侵入し, 感染する。感染してから5~14日の潜伏期を経て症状が出現する1)。
国内では, 河川でのレジャーの他, 台風や大雨による汚染水曝露が原因と推定された感染事例が報告されている2-4)。このため, 本症は水害等の災害が発生した際に注意すべき感染症の一つとしても示されている5)。
今回, レプトスピラ症が4類感染症に指定されて以来, 本県では2例目となる感染事例が, 2019年10月に発生した台風第19号による大規模災害後, 郡山市保健所管内から報告されたので, その概要について報告する。
症 例
患者は40代男性で, 2019年10月X日に全身倦怠感, 発熱(37.5℃)を呈した。翌日には, 39℃以上の高熱となったため, Day(X+2)に近医を受診した。対症療法がなされたが回復せず, Day(X+3)には全身の筋肉痛も出現した。Day(X+6)に届出病院を受診し, 敗血症性ショックとして入院となった。入院時, 黄疸や眼球結膜充血もみられた。
また, 血液検査所見より肝機能異常, 腎機能異常を認めた。
抗菌薬メロペネムの投薬治療等により回復し, Day(X+20)に退院した。
実験室診断
行動歴, 臨床症状, 血液所見等によりレプトスピラ症が疑われ, 患者尿, 血液検体について当所経由で国立感染症研究所細菌第一部へ検査を依頼した。
病原性レプトスピラflaB遺伝子を標的にしたPCRにより, 第6病日に採取した尿からflaB遺伝子が検出され, レプトスピラ感染が確定された。なお, 同日採取した血液からは検出されなかった。
また, 第6病日と第19病日のペア血清において, 国内で報告のある15血清型生菌を用いた顕微鏡下凝集試験法(MAT)による抗体測定の結果, 血清型Rachmati他複数の血清型に対して抗体陽転が認められ, 患者のレプトスピラ感染が血清学的にも証明された。
考 察
発症の15日前となるが, 患者は, 2019年10月12日に本県を襲った台風第19号により自宅が浸水し, 首まで水に浸かっていたこと, その際, 瓦礫により腕や足に切り傷を負ったこと, 自宅等の復旧作業時当初は, マスクの着用がなかったことが判明している。
これらのことから, 今回, レプトスピラを含む汚染水に曝露されたことが感染の要因であったと推察された。
今回, レプトスピラ症の可能性が疑われるまでに患者は複数の医療機関を受診していた。
適切な治療が行われない場合の致命率は20-30%に及ぶ1)ことから, 淡水曝露の有無などの情報を診察時に確認することは早期診断につながる重要な手がかりとなる。本症の致命率を考慮しても, このような危機管理事例には迅速に対応できるような検査体制の構築が必要であると考える。
郡山市保健所では, 感染症の情報提供について, その重要性を認識しており, 衛生研究所感染症情報センターへ迅速に本事例の発生情報が提供された。このため, 感染症情報センターではレプトスピラ症に関するリーフレットやQ&Aを作成し, ホームページへの掲載, 保健所への周知等, 速やかに情報の共有, 啓発対応等を行うことができた。
レプトスピラ症は, 水害等の災害環境下において発生しうる感染症として注意すべき疾患であることを改めて認識した事例であった。今後も自然災害が発生する可能性は十分にあり得る。こうした感染症発生, 拡大防止, 早期診断のため, 今後もより一層, 県民や医療機関に対し情報発信に努めていきたい。
参考文献
- 岡部信彦ら, 感染症予防必携 第3版
- IASR 32: 368-369, 2011
- IASR 33: 14-15, 2012
- IASR 38: 42-43, 2017
- 国立感染症研究所, リスクアセスメントに基づく注意すべき感染症(台風第18号による大雨等被害関連)2015.9.24