国立感染症研究所

 

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風しん含有ワクチンの第1期・第2期・第5期定期予防接種の現状と課題

(IASR Vol. 44 p53-55: 2023年4月号)
 

風疹の定期予防接種(以下, 定期接種)は, 2022年度現在, 第1期(1歳児)および第2期(5歳以上7歳未満: 小学校就学前1年間)の2回接種に加えて, これまで風疹の定期接種を受ける機会が一度もなかった1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日生まれの男性を対象に, 2019年度より第5期定期接種が実施されている。定期接種に用いるワクチンは, 原則, 麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)である。第5期対象者には全国共通の無料のクーポン券が市区町村より配布され, 風疹抗体検査を受けたうえでHI抗体価1:8相当以下であった場合, 定期接種としてMRワクチンを1回接種する。

定期接種率を迅速に公表し, 積極的な勧奨につなげていくことが重要として, 厚生労働省(厚労省)は, 第1期, 第2期について全国の都道府県・市区町村の協力により, 2008年度からMRワクチンの定期接種率調査を実施している。第5期については, 抗体検査, ワクチン費用の請求・支払いを担っている国民健康保険中央会の実績をもとに, 2019年度から実施状況の把握を行っている。調査結果は, 国立感染症研究所(感染研)感染症疫学センターで集計後, 厚労省(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html)と感染研(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles/221-infectious-diseases/disease-based/ma/measles/550-measles-vac.html, https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/2145-rubella-related/8278-rubella1808.html)のホームページに公表されている。

本稿では2021年度の第1期, 第2期風しん含有ワクチン接種率の概要と, 2022年11月までに実施された第5期定期接種の現状と課題について述べる。

1)第1期: 接種率は, 分母を当該年度の10月1日現在の1歳児の数, 分子を当該年度の4月1日~翌年3月31日までの定期接種実施合計人数として算出した。2021年度の接種率は前年と比較して全国的に低下し, 前年度の98.5%から93.5%と5ポイントの低下を認め, 2008年の調査開始以降最も低い結果となった。風疹排除に向けた目標値とされる接種率95%以上を達成した自治体は7県のみであった(図1)。

2)第2期: 接種率は, 分母を当該年度の4月1日~翌年3月31日までの間に6歳となった者の数, 分子は第1期と同様にして算出した。2021年度の接種率は93.8%であり, 前年度の94.7%から0.9ポイントの低下であった。95%以上の接種率を達成した自治体は12県であった(図2)。

3)第5期: 対象者数は2019年度開始時点で15,374,162人であった。うち2022年11月までに抗体検査を受けた人が4,397,353人(対象人口の28.6%), 予防接種を受けた人が947,904人(対象人口の6.2%)であった。各都道府県別のクーポン券使用抗体検査実施者割合を図3に示す。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による行動制限や医療体制の逼迫, 集団接種キャンペーンの未実施などにより, 世界的に定期接種の接種率低下が認められており, 世界保健機関(WHO)は2021年の麻しん含有ワクチン1回目の接種率が81%であり, 未接種児が2019年に比して約500万人増加したと報告している1)。本調査における2021年度の第1期, 第2期の風しん含有ワクチンの接種率はともに95%を下回り, 特に第1期において低下が顕著であった。COVID-19流行初期より, 厚労省2)や, 日本小児科学会3)から, 適時の予防接種実施の重要性が注意喚起されているが, 1歳6か月児健康診査や就学時健康診断時などの接種勧奨や各都道府県における風疹対策会議の開催など, 接種率向上に資する活動の実施が重要と考えられる。

風疹第5期定期接種は, MRワクチンの需給バランスを維持し, 小児の定期接種に支障をきたさないよう, 抗体検査を前提とした制度設計となっている。COVID-19流行下の外出制限等もともない, 2021年度の抗体検査実施者は2020年度の約半分で, 累積実施者数も厚労省が当初目標とした約920万人4)の半数以下にとどまっている。この原因として, 検査結果が得られるまで数日程度を要すること, 検査・結果説明・ワクチン接種のために2-3回の医療機関受診が求められるため, 働く世代の第5期対象者に利用しづらいこと, が指摘されてきた。今後は, 企業における職場健診活用を一層促すとともに, 抗体検査および予防接種を休日・夜間に実施するなど, 医療機関で受けやすくする体制の整備が重要と考えられる。

過去の予防接種制度, コロナ禍の接種率低下等により, 風疹感受性者が蓄積している中, 感染症対策全般の緩和や海外との交流再開にともなって, 輸入例を起点とした風疹集団発生が危惧される。風疹, 先天性風疹症候群の排除を目標とする日本において, 高い第1期, 第2期, 第5期の風疹定期接種率を達成し, 維持していく努力が必要である。

 

参考文献
  1. World Health Organization, Progress and Challenges with Achieving Universal Immunization Coverage
    https://www.who.int/publications/m/item/progress-and-challenges(accessed 2023年2月13日)
  2. 厚生労働省, 遅らせないで!子どもの予防接種と乳幼児健診
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11592.html (accessed 2023年2月10日)
  3. 公益社団法人日本小児科学会, 新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について
    http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=345(accessed 2023年2月10日)
  4. 賀登浩章, 2018年の風疹の感染拡大を受けた第5期定期接種のこれまでとこれから
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-iasrd/10985-504d01.html(accessed 2023年2月12日)
国立感染症研究所感染症疫学センター 
厚生労働省健康局予防接種担当参事官室
厚生労働省健康局結核感染症課

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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