2月4日「風疹の日」に関する活動について
(IASR Vol. 44 p58-59: 2023年4月号)2012~2013年, 2018~2019年の風疹の全国流行では, 多数の成人が風疹を発症し〔感染症発生動向調査に基づく風疹届出数16,730人(2012~2013年), 5,239人(2018~2019年)〕, この流行によりそれぞれ45人, 6人の小児が先天性風疹症候群(CRS)と診断された。
風疹の国内流行を抑制し, それにともなうCRSの発症を防ぐため, 日本産婦人科医会, 日本産科婦人科学会, 日本周産期・新生児医学会, 日本小児科学会, 日本小児科医会, 国立感染症研究所からなる「“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員会(代表:日本産婦人科医会会長)」は, 2017年に「2(ふう)月4(しん)日」を“風疹の日”と定めて, 2018年から風疹抗体保有率の低い1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性を対象に, 厚生労働省(厚労省)ならびに多数の関係者*とともに, わが国の風疹排除に向けて企業, 自治体とともに予防啓発活動を続けている(https://www.jaog.or.jp/rubella/)。1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性は, 同じ生年月日の女性が定期接種として学校で風しんワクチンの集団接種を受けていたことから, 風疹に罹患する可能性が減少したうえに, 自らは風しん含有ワクチンを公的に受ける機会がなかったことから, 風疹抗体保有率が低いことが知られている。
2023年2月4日は行動経済学者である大竹が中心となり, 「“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員会(代表:日本産婦人科医会:石渡 勇会長)」ならびに厚労省は, 風疹対策啓発イベント「アイデア募集!風しん抗体検査」を東京都内のスタジオで開催し, 大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)のYouTubeチャンネルからライブ配信した。現在, 1年間の予定でアーカイブ配信(https://youtu.be/HKIb1KiPi_o)を実施している。
2023年のイベントでは, イラストエッセイストの犬山紙子氏, 起業家の椎木里佳氏, 男子400mハードルの日本記録保持者である為末 大氏をゲストにお迎えして, 視聴者, 医師, 行動経済学者とともに, 風疹抗体保有率の低い43~60歳の男性にメッセージを届けるにはどのような方法が適切か, どのように風疹予防の重要性を伝えていくか, 抗体検査を受けてもらうための効果的なメッセージは何か等, 日本から風疹をなくすためのアイデアを考えていく対談が開催され, 会の最後に“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員会代表から総括がなされた。
さらに, 大竹らは, 風疹抗体検査受診促進ドラマ動画として, ウエディング篇(https://youtu.be/JE3FTVkKLxw)とオフィス篇(https://youtu.be/3ERXIr885lA)の各2分半のビデオを作成し, YouTube配信を実施している。公開2カ月半で動画の視聴回数の合計が200万回を超えた。風疹抗体検査受検のきっかけにしていただきたいと考えている。
また, 対談の途中には, 千葉県保険医協会・千葉市に事務局を置き, 風疹をなくすために国や県および自治体, 関係団体, 企業等と連携して風疹排除に向けた取り組みを推進している「風しんをなくす会」の主催で, クラウドファンディングにより開催された舞台「遙かなる甲子園」(1964年に沖縄で風疹の大流行があり, その流行による影響で聴覚障害となった子どもたちのために1978~1983年の6年間限定で設立されたろう学校で甲子園を目指す高校生を描いた実話をもとにした戸部良也の作品, 1997年から関西芸術座が全国で500回以上上演している)のVTRが放映された。さらに, 日本で再び風疹が流行しないようにするための情報発信, 流行によって影響を受ける女性, 子ども, 家族のサポートをするために集まった妊娠中に風疹に罹って出産した母親とCRSの当事者グループである, 「風しんをなくそうの会『hand in hand』」(https://stopfuushin.jimdofree.com/)の可児佳代氏, 大畑茂子氏, 吉川恵子氏らの風疹排除に向けたメッセージが届けられた。企業の取り組みとしては, 「株式会社キャタラー」で実施された, 風疹抗体保有率100%を目指した従業員教育と, 風しん含有ワクチン接種勧奨のために, 企業が取り組む風疹対策についてメッセージが放映された。スタジオ出演者のみならず, 視聴者のコメント欄への書き込みも含め参加者全員でアイデアを出し合って, わが国からの風疹排除を目指した活動となった。「毎月24日を風疹の日に」, 「健康診断における風疹抗体検査を必須項目に」等, 実現可能な画期的なアイデアが出てきた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で, 2020~2022年は国内外の人の移動が制限されていたが, COVID-19の感染症法上の位置付けが5月8日から5類感染症に変更されることもあり, 今後は制限がなくなっていく。海外には風疹が流行している国が多数残っていることから, 次の3つのことが特に重要である。第1に, 風疹定期予防接種〔1歳と小学校就学前1年間の幼児を対象とした麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)〕の2回接種の徹底である。第2に, 風疹抗体保有率の低い1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性への風疹抗体検査と, 抗体価が低かった男性に対するMRワクチン接種の促進である。第3に, 妊娠中はMRワクチンの接種を受けられないことから, 女性が妊娠前に風しん含有ワクチンの2回接種の記録を各自で確認しておくことである。もう二度と国内で風疹の流行を発生させないために, 自分が感染しないという利己的なメッセージだけでなく, 妊婦さんに感染させない, 胎児に影響を与えないという利他的なメッセージを届けていく必要があると考えている。