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麻疹・風疹同時検査が可能なマルチプレックスreal-time RT-PCR法の評価

(IASR Vol. 44 p50-51: 2023年4月号)
 

麻疹および風疹は症状の類似した発熱発疹性の感染症であり, 検査による鑑別が求められる1-3)。今回, 両者の同時検査が可能なマルチプレックスreal-time RT-PCR法(MR-Multiplex RT-qPCR法)の開発を行い, 国立感染症研究所(感染研)・病原体検出マニュアル<麻疹・風疹同時検査法>第1版において公開した4)。本稿では本法の概要を紹介する。

麻疹ウイルス遺伝子および風疹ウイルス遺伝子の単独検出法5,6)では, いずれも検出用蛍光色素として5’末端にFAMを標識したプローブを使用している。MR-Multiplex RT-qPCR法では, 麻疹ウイルス遺伝子単独検出用プローブMVNP1163Pを元に, 5’末端の蛍光色素および3’末端のクエンチャーをそれぞれVICおよびQSYに変更したMVNP1163P-VQを用いることとした。これ以外の試薬類(風疹ウイルス遺伝子検出用プローブ, プライマーならびに酵素等)は単独検出法で使用されているものをそのまま流用している。予備的な検討として感染研ウイルス第三部から配布している麻疹参照RNA, 風疹参照RNAおよび各遺伝子型のウイルス株(麻疹ウイルス遺伝子型A, B3, D8および風疹ウイルス遺伝子型1a, 1E, 2B)を用いて感度, 特異度ならびに増幅効率の検討を行ったところ, 各単独検出法と同等であることが確認された(データを示さず)。

麻疹風疹レファレンスセンター7施設において, 過去の行政検査の残臨床検体を用いてMR-Multiplex RT-qPCR法の性能評価を行った。各単独検出法により麻疹ウイルス遺伝子陽性(n=35), 風疹ウイルス遺伝子陽性(n=32)あるいは両陰性(n=15)であることが確認された検体についてMR-Multiplex RT-qPCR法を行ったところ, 各ウイルス遺伝子を正確に検出することができた()。各単独検出法とMR-Multiplex RT-qPCR法のCt値を比較したところ, 麻疹ウイルス遺伝子検出では両法のCt値は同等であったが, 風疹ウイルス遺伝子検出では単独検出法よりMR-Multiplex RT-qPCR法においてCt値が0.61±0.53(平均±標準偏差)大きくなった()。しかしながら, 判定への影響は非常に限定的であり, 十分に実用に耐えるものと考えられた。

MR-Multiplex RT-qPCR法は, これまでの各単独検出法から既存の試薬や機器を大きく変更することなく導入が可能で, かつ, 性能も各単独検出法とおおむね遜色ないことが示された。本法は簡便かつ効率的に麻疹および風疹検査を実施できることから, 麻疹・風疹の病原体サーベイランスへの応用が期待される。

 

参考文献

山形県衛生研究所
 駒林賢一 青木洋子
千葉県衛生研究所
 佐藤重紀
愛知県衛生研究所
 齋藤典子 諏訪優希
富山県衛生研究所
 板持雅恵
大阪健康安全基盤研究所
 改田祐子 上林大起 倉田貴子
鳥取県衛生環境研究所
 上田 豊
沖縄県衛生環境研究所
 眞榮城徳之
国立感染症研究所ウイルス第三部
 森 嘉生 永井美智 大槻紀之 梁 明秀

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