国立感染症研究所

logo

麻疹疑い症例からの風疹ウイルス検出と遺伝子型解析-愛知県

(IASR Vol. 33 p. 167-168: 2012年6月号)

 

愛知県においては、2011(平成23)年度より麻疹疑い検体のうち麻疹ウイルス(MeV)PCRが陰性であったすべての検体について、パルボウイルスB19および風疹ウイルスPCR検査を行っている。MeV陰性例より風疹ウイルスを検出し、遺伝子型別を行ったので報告する。

症例1:麻疹疑い37歳男性、2011年6月18日発病(38.8℃の発熱、結膜炎、紅斑、バラ疹)、22日検体採取(咽頭ぬぐい液、尿、全血)。ワクチン接種歴は麻疹無し、風疹は不明。発症前1カ月以内の海外渡航歴は無い。

症例2:麻疹疑い38歳男性、2012年1月23日発病(38℃台の発熱、発疹、コプリック斑)、26日検体採取(尿、全血)。麻疹および風疹ワクチン接種歴は不明。発症前1カ月以内の海外渡航歴は無い。

症例1、2ともに麻疹遺伝子検査は陰性であったため、国立感染症研究所(感染研)・病原体検出マニュアルのRT-nested PCR法(プライマーA~D;方法1)1) もしくは感染研より推奨されたNS遺伝子を検出するRT-nested PCR法(方法2)により、風疹ウイルス遺伝子の検出を試みた結果、症例1の咽頭ぬぐい液検体から方法1によりE1遺伝子を、症例2の尿検体から方法2によりNS遺伝子を検出した(方法1では不検出)。これらの検体RNAよりE1遺伝子の型別領域を増幅して遺伝子型別を試みた。感染研より推奨されているOne-Step RT-PCR法によってE1内2領域の増幅を試みたが、PCR産物は得られなかった(図1A)ため、ランダムプライマーを用いた逆転写反応(麻疹検査マニュアル第2版と同じ)に引き続いて、nested PCR(各30サイクル)を行ったところ、上記E1領域が増幅された(図1B)。増幅されたE1遺伝子領域739bpを用いた遺伝子型別解析の結果、症例1は1E型、症例2は2B型に型別された(図2)。いずれの遺伝子型も中国や東南アジアを中心に世界で流行の報告があり、2010年以来日本からも報告がある2) 。

わが国における麻疹の遺伝子型は、2010年5月を最後に常在型は姿を消し、本県3-5) を含む各地で輸入例からの感染拡大を示唆する結果となっている。今後は、風疹においても麻疹同様に遺伝子型別結果に基づいて輸入関連症例か否かを知る必要があるため、E1遺伝子領域の検出および遺伝子型解析は不可欠である。しかし、PCR陽性(NSおよびE1)検体からウイルスの遺伝子型が決定できたのは2割程度という報告もある6) 。ウイルス量が少ない検体の場合、E1領域の検出において逆転写反応にランダムプライマーを用いることも選択肢の1つになると思われる。

 

参考文献
1) 病原体検出マニュアル、国立感染症研究所・全国地方衛生研究所全国協議会編
2) IASR 32: 252-259, 2011(5編)
3) IASR 31: 271-272, 2010
4) IASR 32: 45-46, 2011
5) IASR 33: 66, 2012
6) IASR 32: 255-257, 2011

 

愛知県衛生研究所
安井善宏 小林慎一 山下照夫 平松礼司 皆川洋子
国立感染症研究所ウイルス第三部 森 嘉生

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version