国立感染症研究所

 

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都内飲食店を原因施設とする腸管出血性大腸菌による食中毒事例

(IASR Vol. 44 p75-76: 2023年5月号)
 

2022(令和4)年7月19日に都内X保健所に腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症発生届(患者a)が提出された。保健所が調査を実施したところ, 患者aは, 7月12日から発熱, 下痢, 腹痛等の症状を呈して受診し, 医療機関での検便でO157 VT1を検出したとされた。患者aは7月10日に家族4名で東京都Y区内のM飲食店を利用しており, 患者以外の家族2名(患者b, c)も7月13日に発症していた。2名の糞便を東京都健康安全研究センターで検査したところ, 患者bからはO157 VT1&2を検出した。

また, 同年7月22日にZ県内の保健所にEHEC感染症発生届(患者d)が提出された。患者dは, 7月13日から腹痛, 下痢, 発熱等の症状を呈して受診し, 医療機関の検便でO157 VT1を検出したとされた。管轄の保健所が調査を実施したところ, 7月10日に友人と2名で東京都Y区内のM飲食店を利用しており, 友人も発症していた。友人についても管轄保健所が調査および検便を実施したが, O157は検出されなかった。

東京都健康安全研究センターで患者a, b由来の菌株を分子疫学解析したところ, 血清型はO157: H- VT1&2産生性で一致する結果となった。multiplelocus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA)typeは2株とも22m0135であった。患者d由来株について, Z県の地方衛生検査所でMLVA法による検査を実施した結果, 22m0135(O157 VT1&2産生)で3株すべてのMLVA typeが一致した。また, 同店の従業員検便を管轄保健所が実施した結果, 1名からO157:H- VT1&2, MLVA type 22m0135を検出し患者と一致した()。この従業員は接客担当で無症状であり, 喫食調査の結果, 7月10日に店で賄い料理を喫食していた。

同時期に分離された22m0135型のO157は, 全国で2株(いずれも大阪府)が報告されており, 大阪府内の飲食店が関連していたが, 本件との関連性は認められなかった。

飲食店の施設調査

保健所による喫食調査の結果, 患者の共通食はM飲食店での食事以外になかった。同店での共通食は, カルビとサラダであったが, 肉を焼くための専用トングを1人1個提供し, 店内には加熱を十分に行うよう, 注意表示も行っていた。

サラダに使用する野菜について調べたところ, 同店はチェーン店であり, サラダに使用する野菜を系列の配送センターより仕入れていたが, 他の系列店では食中毒が発生していなかったことから, 生産から流通の過程で野菜が汚染されていたとは考えにくかった。

同店での食材の取り扱い状況を確認したところ, 野菜と食肉を扱うシンクや作業台, 調理器具類等は分けていた。シンクは野菜用作業台と一体となっており, 2槽シンクの1槽を野菜用, もう1槽を食肉用としていた。しかし, 野菜用シンクでは食肉以外に使用した調理器具類等の洗浄もしており, 洗浄用具の使い分けは明確ではなかった。また, 食肉用シンクでは, 冷凍ホルモンの解凍と洗浄, 水切りを行っていたが, シンクの洗浄・消毒は行っていなかった。ホルモンは, 水切り後, 冷蔵庫に保管し, 注文のつど, 盛り付けて提供していたが, 仕込み済みのものが少なくなると, そのつど解凍していた。なお, 本件が発生した時期は, 同店の繁忙期であり, 1日に何度もホルモンの解凍・洗浄作業があったと推測され, 野菜用シンクが食肉の仕込み作業や調理器具類を洗浄した際の水跳ねによりO157に汚染された可能性が示唆された。

サラダ用野菜は流水で洗浄後, 次亜塩素酸ナトリウム(100ppm)で殺菌していたが, 浸漬時間を決めておらず, 確実に消毒されたかは不明であった。

本件では, 食肉用および野菜用の2つのシンクが隣接していること, シンクがサラダを調理する作業台と一体になっていたこと, 賄い料理(メニューは不明)を食べていた接客担当従業員も同店でO157に感染したと推定されたことから, 調理中に食肉に付着していたO157によりサラダやそれ以外の食品も二次汚染を受け, 食中毒を発生させたと考えられた。

まとめ

本件は, 2グループ5名の患者のうち3名および従業員1名から検出したO157のMLVA typeが一致したこと, 共通食が同店での食事しかなかったこと等から, 同店での食事を原因とする食中毒と断定した。同店は, 本部が作成した衛生管理マニュアルを使用していたが, マニュアルの内容に店舗の状況等によって一律に適用できない部分があるにもかかわらず, 店舗の規模や構造等に合うように見直しを行っていなかったうえ, 従業員にもマニュアルの内容が浸透していなかった。今までは, 監視時に衛生管理計画を作成しているか確認することに重きを置いていたが, 各店舗でマニュアルの内容を見直し, 実態と合っているか点検・確認を行うことで, より実効性のある衛生管理になると考えられた。今後は, 定期的なマニュアルの見直しや, 従業員への周知が事故を防ぐためには重要であることを営業者に啓発していく必要がある。

 
江東区保健所生活衛生課食品衛生第一係
 佐伯亜也子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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