IASR-logo

新型コロナウイルス感染症死亡例の疫学像と死因, 重症化に関連する因子の検討

(IASR Vol. 44 p106-107: 2023年7月号) (2023年8月18日黄色部分修正)
 
背 景

日本ではこれまでに74,694例の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)死亡例が報告されている(2023年5月9日時点)。新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)1)はCOVID-19のサーベイランスとして活用されてきた。届出時点の重症度については届出に必須であり把握されている一方で, 最終的な転帰や重症度の入力は必須ではなく, 網羅的な把握が困難であった。このため, それまでと比べて大きく新規感染報告数が増加した2021年12月以降のオミクロンによる流行での重症例や死亡例を把握するため, 厚生労働省(厚労省)より自治体に対してHER-SYSとは別に重症例および死亡例に関する自治体における把握情報の提供依頼が発出された2)。本検討は, 厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の依頼で実施され, これまで中間解析結果を厚労省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで報告を行ってきた。今回, 自治体から情報提供されたCOVID-19死亡例について, 特に死因およびこれまでに知られている重症化に関連する因子を中心に記述する。

なお制限として, 報告された症例は必ずしも各自治体の当該報告期間に確認された全死亡例とは限らないこと, COVID-19が死亡に直接関係した要因であるかは検討できなかったこと, に注意が必要である。

方 法

COVID-19と診断され, 2021年12月1日~2023年5月7日までに自治体から厚労省に報告された死亡例を対象とする。診断日, 年齢, 性別, 届出時点での重症度はHER-SYSの情報を用いた。本検討では, HER-SYSと連結できなかった症例は除外した。自治体からの報告またはHER-SYSにおいてCOVID-19が死因と記載されている症例のみをCOVID-19が死因であるとした。

結 果

43自治体から5,573例の死亡例が報告された。報告された死亡例の年齢層は70歳以上が約9割を占めていたが, 小児・若年層の症例も含まれていた中の項目名を赤字にて修正しました)。性別は, 男性が55%を占めていた。届出時点は軽症とされていた症例が最も多く, 続いて中等症Ⅱ, 中等症Ⅰ, 重症の順となっており, 死因がCOVID-19の症例のみでも同様であった。COVID-19が死因と記載のあった症例は1,069例(19%), COVID-19を含む複数の死因(3.6%), その他の死因(7.4%), 不明(3.1%)であり, 67%は未記載または分類不可であった。その他の死因として細菌性・真菌性・ウイルス性を含む肺炎(症例数72), 悪性腫瘍(65), 正常な機能が失われた状態である心不全(62)・腎不全(31)・呼吸不全(16), 誤嚥性肺炎(57), 全身状態にかかわる老衰(47)や敗血症(24), 多臓器不全(10)等がみられた。また, 溺死(5), 外傷(1), 自殺(1)等が死因として記載されていた例もあった。また, 97%で何らかの重症化に関連する因子中の項目名を赤字にて修正しました)が報告されており, 「65歳以上」, 「高血圧」, 「糖尿病」, 「悪性腫瘍」, 「慢性閉塞性肺疾患」の順に多かった。重症化に関連する因子のうち疾患にあたるもの(65歳以上, 肥満, 喫煙, 妊娠を除くいずれか)に限ると63%, 死因がCOVID-19の症例では68%であった。

考 察

死亡例のうち, COVID-19が直接的な死因ではない症例(事故, 自殺等)が一定数含まれていた。COVID-19を死因とする症例では, 68%で重症化に関連すると考えられる基礎疾患があった。海外での研究でも, COVID-19で死亡した症例の多くが基礎疾患を有していることや3,4), 基礎疾患がある人では重症化後には罹患前の身体機能に戻る可能性が低いこと5)が知られている。COVID-19の急性期以降に様々な基礎疾患が悪化する可能性があり, 本検討に含まれた死亡例には, COVID-19が死因であった例のみならず, COVID-19が間接的な影響を与えている例が含まれていると考えられる。自治体から報告された死亡例は, 高齢者, 重症化に関連する因子がある症例が9割以上を占めていたが, 自治体からの情報提供によって明らかとなった死亡例にはHER-SYSでは死亡例と確認できない症例もみられた。また, 届出時点の重症度は軽症であった割合が最も高かった。本検討により, 届出時点の情報に加えて療養後の情報をあわせて検討していくことが重要であることが示唆された。

謝辞: 疫学調査や情報収集にかかわられた全国の保健所, 医療機関, 自治体, 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部の皆様に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. 厚生労働省, 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00129.html
  2. 令和3(2021)年11月30日付〔令和4(2022)年1月14日一部改正〕事務連絡
    https://www.mhlw.go.jp/content/000881572.pdf
  3. Lundberg CE, et al., Eur J Public Health, ckad086, 2023
  4. Watkins LKF, et al., Clin Infect Dis 75: e645-e652, 2022
  5. Russell CD, et al., Nat Med 29: 334-343, 2023
国立感染症研究所感染症疫学センター
 大谷可菜子 北村則子 山内祐人(現・国際協力機構)
 滝沢木綿 閻 芳域 木村哲也 神垣太郎 鈴木 基

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan