2022年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況(2023年4月現在)
(IASR Vol. 44 p176-179: 2023年11月号)はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課が実施主体となり, 毎年度, 健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施している予防接種法に基づいた事業である1)。本稿では, インフルエンザ流行シーズン前におけるワクチン株に対するインフルエンザ予防接種状況と抗体保有状況の2022年度調査結果について報告する。
方 法
2022年度の感染症流行予測調査は, 46都道府県の参加で計画された。そのうちインフルエンザ感受性調査は, 16都道県(北海道, 山形県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 愛媛県, 高知県)で実施された。2022年7~9月(2022/23インフルエンザ流行シーズン前かつワクチン接種前)の期間に採取された血清(3,565検体)を用いて, 各都道県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により測定が行われた。2022年度の調査株は下記に示した2022/23シーズンのインフルエンザワクチン株で, 各インフルエンザウイルスの卵増殖株由来のHA抗原を測定抗原として用いた。
2022/23シーズンのインフルエンザワクチン株
・A/ビクトリア(Victoria)/1/2020(IVR-217)[A(H1N1)pdm09亜型]
・A/ダーウィン(Darwin)/9/2021(SAN-010)[A(H3N2)亜型]
・B/プーケット(Phuket)/3073/2013[B型(山形系統)]
・B/オーストリア(Austria)/1359417/2021(BVR-26)[B型(Victoria系統)]
予防接種歴調査は上記の16都道県に富山県, 大阪府, 山口県を加えた19都道府県において, 前シーズン(2021/22シーズン)における接種状況を調査した。
結 果
I. 2021/22シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況(図1, 上段: 接種歴不明者を含まない, 下段: 接種歴不明者を含む)
4,928名の予防接種歴が得られた。ほとんどの年齢群で接種歴不明者が10-40%程度の割合で存在した。1回以上接種者の割合は接種歴不明を含む全体で37.2%, 1歳未満児で3.5%(85名中3名), 1歳児で20.1%(134名中27名), 2~12歳では47.6%(720名中343名, 各年齢37.7-59.6%), 13~64歳では36.1%(3,799名中1,373名, 各年齢群13.2-49.2%), 65歳以上は44.7%(190名中85名)であった。2回接種が推奨されている13歳未満の年齢群では, 接種者の74%(373名中276名)が2回接種者であった。
II. インフルエンザ抗体保有状況(図2-1: A型および図2-2: B型)
3,565名についてHI抗体価の測定が実施された(暫定結果)。対象者数はそれぞれ0~4歳312名, 5~9歳194名, 10~14歳242名, 15~19歳297名, 20~24歳264名, 25~29歳348名, 30~34歳371名, 35~39歳269名, 40~44歳206名, 45~49歳243名, 50~54歳255名, 55~59歳243名, 60~64歳163名, 65~69歳80名, 70歳以上78名であった。本稿では感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有割合について, 2022年度の調査結果と過去3年度の合計4年度の状況を示す。B型(山形系統)は2015年度の調査から同一調査株であり, A型(H1N1)pdm09は前年度と同じ株であった。A型(H3N2)は過去4年度のワクチン株が異なるため, 各年のワクチン株を用いた調査結果である。
A(H1N1)pdm09亜型に対する抗体保有割合(図2-1上段)は前年と同様の傾向を示し, 60歳以上の年齢群での低下が著しかった。最も保有割合の高い年齢群は10~14歳で38.0%, それ以上の年齢群では50~54歳まで右肩下がりで減少した。最も保有割合が低かったのは70歳以上で, 3.8%であった。
A(H3N2)亜型に対する抗体保有割合(図2-1下段)は, 過去3年間では10代後半~20代後半にピークを示していたのに対し, 2022年度は5~29歳の年齢群で40%未満とほぼ横ばいで, この年齢群の低い抗体保有割合が示された。最も高い保有割合は40~44歳の年齢群で観察された(40.8%)。
B型(山形系統)に対する抗体保有割合(図2-2上段)は過去3年間と同様の傾向を示したが, 全体的に若干低い傾向にあった。年齢群別では30~34歳(72.5%)と55~59歳(41.6%)の二峰性のピークを示した。
B型(Victoria系統)に対する抗体保有割合(図2-2下段)は過去3年間と比較して低い傾向にあり, 特に40~49歳では前年度から30ポイント以上の低下が認められた。49歳以下では約10%以下の保有割合で推移しており, 最も保有割合が高かった55~59歳でも23.9%であった。60歳以上の保有割合は過去3年間と同等であったが, 約20%以下と低い保有割合であった。
まとめと考察
インフルエンザワクチンは, 2001年から65歳以上の高齢者等*を対象に定期接種(毎シーズン1回)が実施されている。また, 生後6か月から任意接種として接種が可能で, 13歳未満の小児においては2~4週間の間隔をおいて毎シーズン2回の接種が推奨されている。
接種歴調査の結果では, 2~12歳の接種割合が他の年齢群に比べて高く, かつ2回接種の割合が高かった。これは過去の各シーズンと同様の傾向であった。一方, 13~64歳の1回以上接種割合は36.1%, 65歳以上では44.7%であり, 2021/22シーズンに比べやや高かった2)。
インフルエンザ抗体保有割合は, それぞれの亜型・系統でピークの年齢層が異なり, A(H1N1)pdm09亜型では10~14歳, A(H3N2)亜型では40~44歳, B型(山形系統)では30~34歳および55~59歳, B型(Victoria系統)では55~59歳でピークを示した。一方で, 0~4歳群における抗体保有割合はすべての亜型に対して10-20%前後で推移し, また, 65歳以上でも約30%以下と低い傾向であった。過去3年間と比較すると, A(H3N2)亜型では, 10代もしくは若年成人にみられる抗体保有のピークが確認されず, 5~9歳群から55~59歳群までの間で20-40%の低い保有状況であった。また, B型(Victoria系統)においては, 50~59歳群に20%台の保有割合が認められたが, 40~45歳群以下では10%以下の保有割合で抗体保有割合の低下が顕著であった。
感染症サーベイランスシステム病原体検出情報のインフルエンザウイルス検出によると, 抗体保有調査を行った直前のシーズン(2020/21シーズン)のインフルエンザウイルスの流行状況は非常に抑制されており, 分離・検出された亜型別報告数は, シーズンを通して6株〔A(H1N1)pdm09亜型(1株), A(H3N2)亜型(5株)〕で, B型においては分離・検出の報告はなかった3)。例年, インフルエンザの流行にともなう自然罹患による抗体保有者も抗体保有割合にある程度影響をしていると考えられるが, 2021/22シーズン前の調査ではこの影響が非常に小さかったと推測される。また, インフルエンザ様疾患発生報告(学校サーベイランス)によると, 2021/22シーズンの休業施設数は1件のみで, 過去10シーズン中最も低いシーズンであった3)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に対する対応等が, 小児~若年層における抗体保有割合の低下につながったと考えられる。
謝辞: 本調査にご協力いただいた都道府県, 保健所, 医療機関等, 関係者皆様に深謝いたします。
参考文献
- 厚生労働省健康局結核感染症課, 令和4(2022)年度感染症流行予測調査実施要領
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/AnnReport/2022/2022-99.pdf - 国立感染症研究所感染症疫学センター, 感染症流行予測調査グラフ, 予防接種状況
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/667-yosoku-graph.html - 国立感染症研究所, 厚生労働省健康局結核感染症課, 今冬のインフルエンザについて(2021/22シーズン)
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2022.pdf