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黄色ブドウ球菌(MRSA含む)が産生する病原因子について

(IASR Vol. 45 p35-36: 2024年3月号)
 

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の病原因子には毒素, 付着因子および免疫回避因子等があり, その遺伝子の多くは外来性に獲得され, その機能により多様な疾患の病態形成にかかわることが知られている1)。この稿では, 臨床との関連性で病態形成に重要と考えられる主な病原因子について述べる。

黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原毒素(superantigens: SAgs)には, 毒素性ショック症候群毒素(TSST-1)やブドウ球菌性エンテロトキシン(staphylococcal enterotoxins: SEs)ファミリーがあり, 現在26種類のSAgsが知られている1,2)。TSST-1やSEB等のSAgsは肺炎や菌血症などの重症感染症のほか, 毒素性ショック症候群(TSS)や新生児TSS様発疹症に関与していると考えられている2-4)。SAgsは, 抗原提示細胞とT細胞のレセプターを直接架橋することで, サイトカインストームを誘導し, ショックや多臓器不全などを引き起こす2)

国内のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant S. aureus: MRSA)系統における毒素遺伝子の保有状況をみると, ST5-MRSA-SCCmecⅡ(New York/Japan clone)では, seg, sei, sem, sen, seo遺伝子を含むenterotoxin gene cluster(egc), tst-1, sec, sel遺伝子を含むstaphylococcal pathogenicity island(SaPI)を保有する株が多い。ST764-MRSA-SCCmecⅡはseb遺伝子, アルギニン代謝系可動性遺伝因子(arginine catabolic mobile element: ACME)を保有し, 高病原性クローンと考えられている5)。ACMEは黄色ブドウ球菌の皮膚定着や生存性にかかわる因子として, 高病原性のUSA300 clone(ST8-SCCmecⅣa)で見出された6)

Panton-Valentine leukocidin(PVL)は二成分性膜孔形成毒素ファミリーに属するヒト白血球殺滅毒素であり, 膿瘍など皮膚軟部組織感染症や壊死性肺炎等の侵襲性感染症に関連すると考えられている7)。PVL遺伝子は溶原化ファージのゲノム上にコードされており(), ファージの感染, 溶原化によって水平伝播する。TSST-1陽性MRSAおよびPVL陽性MRSAの系統については本号4ページを参照されたい。

表皮剥脱毒素(exfoliative toxin: ET)は水疱性伝染性膿痂疹やブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome: SSSS)の水疱形成の原因毒素である8)。ETはセリンプロテアーゼ活性を有し, 表皮にある有棘細胞間のデスモグレイン1を切断し, 角質層下の顆粒層内に水疱を形成する。ETは血清学的にETA, ETBおよびETDの3つがあり, eta遺伝子は染色体上の溶原化ファージ領域に, etb遺伝子はプラスミド上に, etd遺伝子はSaPIにそれぞれ存在する(9)。主な系統株として, ETA産生菌はST121-MSSA, ST15-MSSA, そして, ST88-MRSA-SCCmecⅣ, ETB産生菌はST89-MRSA-SCCmecⅡ, ETD産生菌はST25-MSSAである10)

最後に, 病原性や薬剤抵抗性にもかかわるバイオフィルムについても紹介したい。一部のバイオフィルム形成黄色ブドウ球菌は, カテーテル血流感染症, 骨髄炎や心内膜炎等の起因となり, 臨床上, 難治化することがある11)。稀なケースであるが, 粉瘤から分離された高度バイオフィルム(super-biofilm)形成株も報告されている12)。黄色ブドウ球菌のバイオフィルムは, 主に表層に分泌された高分子多糖であるポリ-N-アセチルグルコサミン(PNAG)から構成されるが, 菌によっては表層タンパク質, 細胞外核酸等が主成分であるものもある。PNAGの合成と菌体表面への蓄積には, icaオペロンが関与している。本菌のバイオフィルム形態の全体像は複雑であり, いまだ不明な点も多く残されている。

 

参考文献
  1. Jiang J-H, et al., Clin Microbiol Rev 36: e0014822, 2023
  2. Tuffs SW, et al., Proc Natl Acad Sci USA 22: e2115987119, 2022
  3. Spaulding AR, et al., Clin Microbiol Rev 26: 422-447, 2013
  4. Takahashi N, et al., Microbiol Immunol 57: 737-745, 2013
  5. Xiao Y, et al., Emerg Microbes Infect 12: 2165969, 2023
  6. Diep BA, et al., Trends Microbiol 16: 361-369, 2008
  7. Spaan AN, et al., Nat Rev Microbiol 15: 435-447, 2017
  8. Nishifuji K, et al., J Dermatol Sci 49: 21-31, 2008
  9. Yamaguchi T, et al., Infect Immun 70: 5835-5845, 2002
  10. Shi D, et al., J Clin Microbiol 49: 1972-1974, 2011
  11. Otto M, Microbiol Spectr, DOI: 10.1128/microbiolspec. GPP3-0023-20182018, 2018
  12. Yu L, et al., mBio 8: e02282-16, 2017
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
 岩尾泰久 沓野祥子 久恒順三 菅井基行

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