国立感染症研究所

 

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MRSA血流感染症の臨床・治療について

(IASR Vol. 45 p38-39: 2024年3月号)
 
臨床像

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA)は, 院内感染を起こす代表的な耐性菌である。厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)検査部門2020年年報のデータでは, 依然としてMRSAは院内で分離される耐性菌として最も分離頻度が高い1)

S. aureusが血液培養から1本でも陽性になった場合, contamination(検体採取時の汚染)ではなく, 真の菌血症として扱う必要がある2)。MRSAはmecAまたはmecC遺伝子を保持するS. aureusであり, MRSA菌血症の病態はS. aureus菌血症と変わらない。S. aureus菌血症の頻度の高い感染巣は, カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection: CRBSI), 感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE), 皮膚軟部組織感染症, 骨・関節感染症, 呼吸器感染症である3)。しかし, 感染巣がはっきりしないことも~25%程度あると報告されている3)

S. aureusは人工物感染や膿瘍形成を起こしやすく, 抗菌薬治療だけでなく人工物抜去やドレナージなどの感染巣コントロールが治療上重要となるため, 詳細な問診, 身体診察, 画像検査などを組み合わせて感染巣を評価することが重要である。

S. aureus菌血症では, 10-30%程度がIEを合併するため, 心エコー検査が必要である4,5)

まず経胸壁心エコーを行い, IE所見が陰性の場合でも疑いが強い場合には経食道心エコーを行う。S. aureus菌血症患者においてIEを予測するスコア(VIRSTA score)の報告がある(表1)。VIRSTA studyは, S. aureus菌血症患者2,008人を対象としたIEのリスク評価の研究である。表1に示すスコアが3点以上であれば, 経食道心エコーを行うことが推奨され, 2点以下であれば, IEの陰性的中率98.8%(95%信頼区間: 98.4-99.4)と報告されている6)。また, 診療方針の決定や患者予後予測のために48~72時間ごとに血液培養再検を行って, 血液培養陰性化を確認する。

MRSA血流感染症の治療

MRSA血流感染症は, 膿瘍ドレナージや人工物抜去などの感染巣コントロールおよび適切な抗菌薬の投与を行う。抗菌薬治療では, バンコマイシンとダプトマイシンが第一選択である7,8)。バンコマイシンは, 血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring: TDM)を実施する9,10)。TDMは, 薬物の血中濃度を測定し, 投与設計を見直すことにより, 安全で有効な治療を行うこと, と定義される9)。従来は投与直前の最低血中薬物濃度であるトラフ値15-20μg/mLをガイドとした投与設計が行われてきたが, 臨床効果および腎機能障害予防の観点からarea under the concentration time curve/minimum inhibitory concentration(AUC/MIC)400-600の目標値が推奨されている9,10)。初回のみ25-30mg/kg(実測体重)の負荷投与を行う(ただし, 3gを超えない)。その後, 腎機能正常であれば15-20mg/kg(実測体重)を8~12時間ごとに投与し, 4-5回投与直前(3日目, トラフ値)に初回TDMを実施する。なお, 重症例や腎機能低下例では, 3回投与前後(トラフ値, ピーク値)での初回TDM実施を考慮する9,10)。急速投与するとヒスタミン遊離によるレッドネック症候群(顔面や頸部の発赤や掻痒感)や血圧低下を起こすため, 1g当たり60分以上かけて投与する必要がある9)。テイコプラニンは, バンコマイシンと同じグリコペプチド系薬であり, バンコマイシンよりも腎機能障害の頻度が低い11)。重症例では, 目標トラフ値20-40μg/mLに設定する9)

ダプトマイシンは, 濃度依存性の薬剤であり, 通常6mg/kgを1日1回30分で投与する。高用量(8-10mg/kg)での使用を勧める専門家がいるものの, 添付文書上の推奨からはずれる8)。肺サーファクタントに結合し不活性化されるため, 肺炎には適応がない点には注意が必要である12)

治療開始後は臨床効果判定が必要である。48~72時間後も菌血症が持続する, 発熱が持続する, 臨床症状の改善が認められない場合には, 身体診察と画像検査により同定されている感染巣のコントロールが十分であるか, 同定されていない感染巣がないか, の評価が必要である。また, 抗菌薬投与量が適切であるか, 分離菌の薬剤感受性検査を確認し, 治療薬に感性であるかを確認する必要がある。

治療期間

MRSA菌血症の治療期間は, 感染巣によって異なる。通常, MRSAを含むS. aureus菌血症の治療期間は, 血液培養陰性化から4~6週間である5,8)。しかし, 表2のような条件をすべて満たせば非複雑性菌血症と呼ばれ, 治療期間を2週間まで短縮できる可能性が報告されている5,8)

 

参考文献
  1. 公開情報 JANIS検査部門 2020年年報【入院検体】
    https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2020/3/1/ken_Open_Report_202000.pdf
  2. Go JR, et al., Open Forum Infect Dis 9: ofab642, 2022
  3. Tong SYC, et al., Clin Microbiol Rev 28: 603-661, 2015
  4. Palraj BR, et al., Clin Infect Dis 61: 18-28, 2015
  5. Holland TL, et al., JAMA 312: 1330-1341, 2014
  6. Tubiana S, et al., J Infect 72: 544, 2016
  7. 日本感染症学会, 日本化学療法学会, MRSA感染症の治療ガイドライン作成委員会(編): MRSA感染症の治療ガイドライン-改訂版-2019, 2019
  8. Liu C, et al., Clin Infect Dis 52: e18-55, 2011
  9. 日本化学療法学会, 日本 TDM 学会, 抗菌薬 TDM ガイドライン作成委員会/TDM ガイドライン策定委員会抗菌薬小委員会(編): 抗菌薬 TDM 臨床実践ガイドライン 2022, 2022
  10. Rybak MJ, et al., Am J Health Syst Pharm 77: 835, 2020
  11. Cavalcanti AB, et al., Cochrane Database Syst 6: CD007022, 2010
  12. Silverman JA, et al., J Infect Dis 191: 2149-2152, 2005
広島大学病院感染症科
 北川浩樹

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