国内外の家畜関連MRSA(LA-MRSA)の状況について
(IASR Vol. 45 p42-43: 2024年3月号)海外における家畜関連MRSA(LA-MRSA)の状況
海外では, 2003年にオランダの養豚従業者の家族である4歳の少女から, ヒトの医療において問題となっている医療関連型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(healthcare-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus: HA-MRSA), 市中獲得型MRSA(community-acquired MRSA: CA-MRSA)とは, 遺伝子的性状などが異なるMRSAが分離され, 家畜関連MRSA(livestock-associated MRSA: LA-MRSA)として注目された。その後LA-MRSAは, オランダ(2021年;76%: MARAN20211)), デンマーク(2019年;95%: DANMAP20192))の豚農場から高率に検出された。また, 2013年の欧州の調査では, LA-MRSAは欧州では, ヒトのMRSA分離株の3.9%を占めており, 5カ国(ベルギー, デンマーク, スペイン, オランダ, スロベニア)では10%を超えていた3)。LA-MRSAが検出された当初, その遺伝子的性状はMLST型が主にST398または近縁のCC398であり, spa型はt011またはt034, SCCmecはⅣ型またはⅤ型であり, 従来のヒト由来MRSAと明確に区別されていた。その後, 世界各地よりLA-MRSAが分離され, その遺伝子型は多様であることが報告されている(表)4)。またLA-MRSAは, テトラサイクリンを含む多くの抗菌薬と, 亜鉛に対する耐性遺伝子を高率に保有していることが報告されている。
国内におけるLA-MRSAの状況
日本の豚では2012年の豚農場の調査において, 初めて, MRSA ST398が分離された。その後, 2018年に開始したと畜場に搬入された豚のMRSA調査において, 農場陽性率は欧州と比べて低いものの〔30%未満(2022年)〕, ST398は毎年分離されている。ST398はspa型t011またはt034, SCCmecはⅣ型またはⅤ型で, アミノグリコシド, マクロライド, テトラサイクリン系等の多くの抗菌薬と亜鉛に対する耐性遺伝子を保有する株が優勢であり, 海外の豚のMRSA ST398の遺伝子型と類似している。一方, いずれの株もヒトのCA-MRSAで多くが保有するPanton-Valentine leukocidin(PVL)遺伝子は保有していない。また, ST398が優勢であるが, ST5, ST380, ST3980等, ST398以外のST型のMRSAも分離されている5)。
欧州とは異なり, 日本ではヒトからのST398に関する報告は少なく, これまで, 2015年に日本在住の中国人患者からST398が, 2017年に渡航歴がない重度の膿皮症患者から近縁のCC398(ST1232)の分離がそれぞれ報告されている。いずれも, PVL遺伝子を保有しており, 豚由来のLA-MRSAとは異なる遺伝子的性状を示している6)。
おわりに
現在のところ日本では, 豚農場のMRSA陽性率は欧州のように高い状況ではなく, 豚由来のMRSAがヒトに伝播・感染し, 医療上の問題になっている状況ではないと考えられるが, MRSA保菌豚を増やさない対策が必要である。LA-MRSAは, 多くの系統の抗菌薬に対する耐性遺伝子や亜鉛耐性遺伝子を高率に保有していることから, 抗菌薬と亜鉛による選択圧を下げるために, 抗菌薬のより一層の慎重使用の徹底や, 亜鉛の使用は, 飼料安全法に基づく飼料添加物(飼料の栄養成分の補給)に限定し, 量についても必要最小限とすること, を引き続き生産者に呼びかけていく。また, 海外の事例も踏まえ, 豚から生産者等へ, また生産者等から豚へのMRSAの直接伝播を防ぐために, 手洗い等の基本的な衛生対策の徹底を周知することもあわせて行っていく。農林水産省では, これらの取り組みを実施するとともに, 今後も豚におけるMRSAの薬剤耐性の変化や拡大の予兆を的確に把握するための調査, 解析を実施していく。
参考文献
- MARAN2021
https://rivm.openrepository.com/handle/10029/625006?show=full - DANMAP2019
https://backend.orbit.dtu.dk/ws/files/235092204/DANMAP_2019.pdf - Kinross P, et al., Euro Surveill 22: 16-00696, 2017
- Silva V, et al., Microorganisms 11: 124, 2023
- Ozawa M, et al., Vet Microbiol 273: 109523, 2022
- Nakaminami H, et al., Emerg Infect Dis 26: 795-797, 2020