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2022~2023年に発生した馬刺しによる腸管出血性大腸菌食中毒―山形県

(IASR Vol. 45 p76-77: 2024年5月号)
 

2023年8月に山形県内の食肉処理業者(以下, 施設A)が販売した馬刺しによる腸管出血性大腸菌(EHEC)O157大規模食中毒(患者74人)1)が発生した。今回, 反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA), 全ゲノム配列(WGS)解析および食品保健総合情報処理システム(NESFD)データを用いたさかのぼり調査を組み合わせた検討により, 2023年の食中毒発生の要因が2022年以降の施設Aの継続的なO157汚染にあったと示唆された点を報告する。

MLVA

2023年の食中毒の原因となったO157: H7のMLVA typeは, 2022年に新たに検出された22m0027が大半を占めた。このタイプを含むMLVA complexである2022年の22c025は24都府県で88株(主にVT1&2), 2023年の23c017は13都府県で76株(主にVT2)が分離されていた〔令和5(2023)年12月26日現在〕。

全ゲノム配列(WGS)解析

MLVA complex 22c025/23c017のうち, 本県で分離された10株のWGS解析を国立感染症研究所が行い, 同所が所有する約10,000株のEHECゲノムデータと比較した。結果, これら10株を含む46株が単一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)10カ所以内の近縁株2)として抽出され, 6株の患者に施設Aの馬刺し喫食歴が確認された(図1)。また, 上記MLVA complexに属さない2株が新たに見出された。

さかのぼり調査

MLVAおよびWGS解析により見出された患者166人のうち, 山形県内の61人中47人に施設Aの馬刺し喫食歴が認められた(図2)。山形県外の患者105人についてはNESFDデータ(匿名加工情報)を活用して25都府県(42自治体)に照会し, 8人に施設Aの馬刺し喫食歴が認められた。

立ち入り調査等

施設Aには2022年の段階で他県からの依頼により管轄保健所が立ち入りし, 衛生管理が不十分であったため, 主に厚生省生活衛生局長通知「生食用食肉等の安全性確保について」〔平成10(1998)年9月11日付生衛発第1358号, 最終改正: 平成13(2001)年5月24日〕に基づき指導した。2023年に大規模食中毒が発生した後は, 保健所指導のもと精力的な衛生管理の改善がなされた。2024年2月現在, 食肉処理が衛生的に行われていること, および危害分析重要管理点(HACCP)に沿った記録等が実施されていることを確認している。なお, 施設A(牛肉の取り扱いなし)の2022年以降の馬刺し検体および2023年のふきとり検体からはO157は分離されず, 汚染経路は不明であった。

大規模食中毒に至った経緯に関する考察

2022年にMLVA complex 22c025の全国的な拡散があった中, 施設Aは馬刺しを喫食した患者が初めて見出された同年7月にはO157に汚染されていたと推察された(図2)。その後発生した2023年の食中毒のO157と, 2022年の施設Aの馬刺し喫食歴がある患者のO157が, 同一ゲノム配列を含む近縁株であった点を踏まえると(図1), 当該菌は2022年以降, 施設Aの冷蔵室等の菌が増殖しない(ゲノム変異が蓄積しない)環境に潜伏しており, 2023年のお盆の繁忙期に衛生管理の不徹底により増殖し, 大規模食中毒を招いたと推察された。

おわりに

馬刺しによる食中毒は過去にも発生している3,4)。今後の「馬刺し」をキーワードに含めた疫学調査の実施および分子疫学解析結果との突合により, 馬刺しによるEHEC食中毒の実態解明を進めていく必要がある。

謝辞: 疫学調査にご協力いただいた全国自治体の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
  1. 山形県, 腸管出血性大腸菌O157食中毒の発生について〔令和5(2023)年8月22日〕
    https://www.pref.yamagata.jp/documents/35600/050822o157pures.pdf
  2. Schürch AC, et al., Clin Microbiol Infect 24: 350-354, 2018
  3. 菊地理慧ら, IASR 36: 76-77, 2015
  4. 厚生労働省, 違反食品の発見について〔令和5(2023)年2月26日〕
    https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001063670.pdf
山形県衛生研究所         
 的場洋平 瀬戸順次 池田辰也 水田克巳            
山形県置賜保健所         
 五十嵐浩幸 木幡慎太郎 山田敬子
山形県食品安全衛生課       
 惠山歩美 木口紀子 大貫典子  
山形県健康福祉企画課       
 西塔晃奈            
国立感染症研究所細菌第一部    
 李 謙一 泉谷秀昌 伊豫田 淳 明田幸宏

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