茨城県の観光果樹園(りんご園)で発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒事例
(IASR Vol. 45 p77-79: 2024年5月号)2023年11月, 茨城県内観光果樹園において, 来園者に提供する試食用りんごの喫食が原因と考えられる腸管出血性大腸菌(EHEC)O157 VT2による食中毒事例が発生した。その概要を報告する。
探 知
2023年11月13~16日にかけて, 県内の複数保健所へEHEC感染症発生届が相次いで提出された。管轄保健所が調査を実施したところ, 患者らは11月5日に県内の同一観光果樹園を利用し, 試食用りんごを喫食していたことが判明した。
対象・方法
症例定義は, 11月5日に当該果樹園を利用して試食用りんごを喫食した者で, 喫食から発症までの潜伏期間(おおよそ2~8日)内に下痢, 嘔吐, 血便, 腹痛のいずれかの消化器症状を呈した者を食中毒患者とした。調査は, 当該果樹園への立ち入り検査を行うとともに, 調査対象者への疫学調査および細菌学的検査を実施した。
結果・考察
調査対象者は14グループ81名で, 症例定義を満たす者は21名であった(表)。そのうち3名(10歳未満2名, 70代1名)は溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し, うち2名は経過中に透析等の腎代替療法を必要としたが, 死亡例はなかった。21名中9名からO157: H7 VT2が検出され, さらに症例定義には合致しないが, 試食用りんご喫食後10日目に発症した者1名, 無症状病原体保有者3名, 試食用りんごの喫食のなかった2名を合わせた合計15名からO157: H7 VT2が検出された。HUS発症者3名のEHEC培養検査は陰性であったが, うち2名は国立感染症研究所(感染研)で実施した血清診断から大腸菌O157凝集抗体陽性となり, 臨床的にHUSと診断された残りの1名も合わせ, 最終的に合計18名がEHEC感染症と診断された。
無症状病原体保有者には従業員が1名含まれており, 11月5日は試食用りんごの加工に従事し, 自身も試食用りんごの喫食をしていた。
なお, 収去したりんご, 施設内の環境ふきとりの検査結果はすべてEHEC陰性であった。
一連の調査で検出された15菌株を反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法により解析したところ, すべてMLVA complex 23c076であった。また, 感染研で13菌株の全ゲノム配列(WGS)解析を実施したところ, 菌株間での単一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)は最大2カ所となり, これらの菌株は遺伝的に近縁の株であることが判明した(図)。さらにWGS解析の結果から, O157に共通する病原性遺伝子(eae等のLEE遺伝子群, ehxA, nleA等)を保有していたことが判明した。治療上重要なβ-ラクタム系抗菌薬やホスホマイシンへの耐性は認められなかった。本菌株はO157の高病原性系統の1つとされているclade 81,2)であることが明らかになった。
また, 試食用りんごが屋外で保管され, ハエが多数付着している状況であったことから, りんご販売所付近で採取したイエバエ71個体についてEHECの保菌検査を実施した結果, O168 VT2およびOg65 VT2が検出された。
まとめ
本事案は, 発生が一峰性であったこと, 当該果樹園の試食用りんご喫食以外に患者らに共通する食事や感染症を疑う事象は確認できなかったこと, 患者および従業員から検出したO157のMLVA complexが一致したことから, 当該果樹園で提供された試食用りんごの喫食による食中毒と断定した。また, 最終的にEHEC感染症と診断された18名のうち16名が試食用りんごを喫食していたが, 残りの2名のうち1名は果樹園同行者で接触感染が, もう1名は果樹園利用者の同居家族であり二次感染の可能性が疑われた。
試食用りんごが汚染された感染経路は不明であるが, ハエが傷ついたりんごへEHECを媒介し菌が増殖するとの報告もあり3), 今回のハエの検査結果からハエが, りんごを汚染した可能性も示唆された。再発防止のためには, 従業員や調理工程での衛生管理に加え, 食材の保管や使用器具等の取り扱い, 喫食者の手指衛生についても注意が必要である。
謝辞: 血清診断, WGS解析を実施いただきました国立感染症研究所細菌第一部の先生方およびハエの同定を実施いただきました同研究所昆虫医科学部の先生方に感謝申し上げます。
参考文献
- Iyoda S, et al., Open Forum Infect Dis 1: ofu061, 2014
- Manning SD, et al., Proc Natl Acad Sci USA 105: 4868-4873, 2008
- Janisiewicz WJ, et al., Appl Environ Microbiol 65: 1-5, 1999