国立感染症研究所

国立感染症研究所
2021年9月1日現在
(掲載日:2022年1月13日)

水痘は水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染の病態である。発熱と全身性の水疱性発疹(様々な段階の発疹が混在)が主症状であるが、多くの合併症が知られており、成人や妊婦、免疫不全患者等は重症化のリスクが高く、時に致命的となる。更に水痘罹患後、脊髄後根神経節等に潜伏感染したVZVが再活性化することで帯状疱疹を発症する。

水痘はワクチンで予防可能な疾患である。2012年に日本小児科学会からも水痘ワクチンの1–2歳で2回接種の推奨が出され、さらに2014年10月1日から定期接種対象疾患(A類疾病)となった。接種対象者は生後12–36か月に至るまでの児で2回の接種を行う(2014年度は生後36–60か月に至るまでの児にも1回接種の経過措置がとられた)。2021年10月1日時点で、2回の定期接種機会が得られた世代の最年長は9歳を迎えることとなる。

感染症発生動向調査における水痘に関する2つのサーベイランス報告状況に基づき、水痘ワクチン定期接種導入後の国内発生動向を報告する(2021年9月1日暫定値)。

水痘小児科定点報告(集計対象期間:2000年第1週~2021年第26週,図1

小児科定点報告では、全国約3,000か所の小児科定点医療機関における患者数が週ごとに報告されている(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-19.html)。小児科定点あたり年間報告数(図1)は、日本小児科学会の推奨以前の2000~2011年では平均81.4人/年(範囲67.1–92.4)であったが、2012~2014年では平均56.0人/年、定期接種化直後の2015年は24.7人/年と減少した。以降も緩やかに減少しており、2019年は18.0人/年、2020年はさらに10.6人/年まで減少した。

年齢群別には、2015年以降、5歳未満の報告数が顕著に減少している。(2000~2011年平均、2019年、2020年の各年齢群報告数(定点あたり人/年):1歳未満 6.9、0.6、0.4、1–4歳56.1、4.8、3.0)。一方、5–9歳群の報告数は定期接種化以前(2000~2011年平均 16.7人/年)に比べ2015年時点で減少したが、2015~2019年は概ね一定(範囲:9.6~10.1人/年)であった。2020年は全体の報告数の顕著な減少をうけて、5–9歳群の報告数も5.2人/年と減少した。なお、10–19歳群の発生状況は小児科定点報告のみで全体像は捉えにくい側面があるが、本サーベイランスにおいて定期接種導入以後も2000~2011年平均と比べてこの年代の年間報告数は微増しており、少なくとも減少は見られていない。

また、5歳未満の報告数減少の結果、小児科定点報告における報告例の年齢分布が変化してきている。年齢中央値(四分位範囲)は、2000~2011年は3歳(1–4歳)であったが、徐々に上昇し2019年は6歳(4–8歳)であった。2020年も年齢中央値(四分位範囲)は6歳(4–8歳)と年齢分布においては一貫した傾向の範囲にあった。5歳未満の割合は2000~2011年平均77.4%(範囲:75.4–79.0%)から2019年は30%、2020年は34%に減少した。一方で相対的に5–9歳群が半数以上を占めるようになっている(2000~2011年平均20%、2019年 56%、2020年51%)。

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水痘入院例全数報告(集計対象期間:2014年第38週(9月19日)~2021年第26週)

水痘入院例全数報告は水痘ワクチンの定期接種導入に先立って2014年9月19日から開始され、7年が経過した。水痘で24時間以上入院したもの(他疾患で入院中に水痘を発症し、発症後24時間以上経過した例を含む)が年齢に関わらず、臨床診断例、検査診断例ともに報告対象である(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140912-2.html)。

水痘入院例全数報告の経年変化を図2および下記にまとめた。2014年は第38週~第52週(14週間)、2021年は第1週~第26週の集計値であることにご留意いただきたい。

報告数・年齢分布:集計対象期間に2,538人が報告された。報告症例の性別割合は、全体では男性が60.8%(n=1,544)と男性にやや多く、年齢群によってその差は多少異なるが、いずれの年齢群でも男性の割合が多かった(10歳未満54%(n=260/480)、10–59歳63%(n=974/1,537)、60歳以上60%(n=310/521))。年齢中央値は33歳(四分位範囲17–54歳)、成人が71.2%を占めた。診断年別では、5歳未満の割合は2014年 34.3%から2019年7.7%、2020年 6.6%へ減少した。2019年、2020年におけるその他の年齢群の割合は、それぞれ2019年5–9歳群7.3%、10–19歳群12.2%、20–59歳群48.6%、60歳以上群24.2%、2020年5–9歳群4.4%、10–19歳群8.6%、20–59歳群51.9%、60歳以上群28.5%であった。20代以上の各年齢群の報告数はサーベイランス開始後2019年まで概ね増加傾向で、2020年においても小児に比べ年間報告数減少の程度は小さく40代以上の一部の年齢群では報告数の明らかな減少が見られなかった。これに伴い、経年的に成人の割合がより大きくなっている(播種性帯状疱疹症例が一部含まれる可能性も否定できない)。

重症化リスクの高い群として、妊婦水痘28人(1.1%, 報告された合併症は膿痂疹(n=2))、新生児水痘1人の報告があった。

予防接種歴(不明を含む):成人例(20歳以上)は水痘ワクチン接種歴「なし」26%、「不明」70%が多くを占めた。小児においては、全対象期間では1–4歳(n=179)は「1回」27%、「2回」8%、「あり回数不明」2%、「なし」53%、「不明」10%、5–9歳(n=192)は同順に、22%、15%、9%、39%、15%と、「なし」「不明」が半数以上を占めた。しかし、経年的に、2018年以降5–9歳群において1回以上接種者の割合が増加した(2017年まで27~36%、2018~2020年49~75%)。なお、5–9歳群の2回接種者29人(15%)に免疫不全を伴う報告が6人含まれていた。

合併症等:517人(全報告数の20%)で発熱、発疹以外の症状が報告された。年齢群別には、0歳21%、1–2歳31%、3–4歳24%、5–9歳29%、10–19歳18%、20–59歳17%、60歳以上24%であった。入院例の1%以上で報告された症状は、膿痂疹147件(5.8%)、肺炎・気管支炎118件(4.6%)、肝炎104件(4.1%)、髄膜脳炎54件(2.1%)、熱性けいれん40件(1.6%)、播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation; DIC)35件(1.4%)であった。免疫不全者における重篤な合併症である内臓播種性水痘も16人(0.6%)報告された。また、報告時点死亡例は11人(0.4%)であった(5歳1人、30代1人、40代1人、50代1人、60代2人、70代1人、80代3人、90代1人。なお、5歳の1人は水痘に起因する死亡ではないことが報告された)。

推定感染源の病型・感染経路:入院例2,538人のうち、推定感染源となった人の病型に関する記載があった645人(25%)のうち、水痘は56%、帯状疱疹は43%、水痘・帯状疱疹患者両方との接触例が0.5%であった。推定感染源の病型の割合は年齢群によって異なり、成人(n=392)では帯状疱疹の割合が57%に上った。また0歳の症例で報告された推定感染源(n=53)も26%が帯状疱疹で、父母、祖父母の帯状疱疹からの感染とされる報告が散見された。

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定期接種化後、5歳未満の水痘報告数は速やかに減少し、2015年以降も緩やかに減少傾向が見られている。被接種者への直接効果とともに、1歳未満の報告数減少から接触機会の多い幼児に対する接種の間接効果が示唆された。一方で、2017年以降、定期接種世代が5–9歳群に含まれるようになっている。同年齢層におけるワクチンの直接効果の評価はさらに観察が必要であるが、近年の5–9歳群の年間報告数は横ばいであった。その要因として、水痘入院例の予防接種状況に関する情報からも水痘ワクチン被接種者におけるbreakthrough varicella(水痘ワクチン接種後42日以降の水痘罹患)の存在が示されており、breakthrough varicella、および定期接種機会のなかった世代の罹患に起因する可能性が推察された。水痘ワクチン2回接種による確実な予防と定期接種機会のなかった世代へのキャッチアップ接種による更なる継続的なVZV感染症対策が望まれる。

水痘入院例の報告から得られた推定感染源の情報から、帯状疱疹患者が重要な感染源であることも示唆されている。定期接種導入前から既に帯状疱疹患者数の増加が指摘されており1)2)、さらに近年20~40代の帯状疱疹の発生頻度も増加傾向との報告もなされている3)。今後、小児の水痘患者の減少の一方で、帯状疱疹患者がVZV感染症の伝播においてさらに重要な役割を果たすことが推察される。

今後、定期接種機会のなかった年長児世代、成人における水痘発生動向の注視、感受性者対策に加え、帯状疱疹予防との両輪で水痘帯状疱疹ウイルス感染症の対策を進めていくことが重要となると思われる。個人予防としてのみならず集団予防の観点からも、帯状疱疹ワクチンの活用や、帯状疱疹に関する知識の周知など帯状疱疹対策を併行して実施していくことの重要性も示唆された。

上記の流れに加えて、2020年は年長児も含めて水痘小児科定点報告数が大きく減少した。2020年は新型コロナウイルス感染症の流行を背景に多くの小児科定点報告対象疾患の報告数は低値で推移した4)。新型コロナウイルス感染症の流行に対する徹底した様々な感染症対策の効果が水痘の発生動向にも影響したことが一因として推察された。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている全国の保健所、感染症情報センター、医療機関の皆様に心より深謝申し上げます。

 

関連資料  感染症発生動向調査 水痘小児科定点報告・水痘(入院例に限る。)全数報告のまとめ

 

[参考文献]
  1. 倉本 賢.帯状疱疹の兵庫県内における30年間の動向把握から見えてきたもの.病原微生物検出情報 IASR 39: 138-139; 2018.
  2. 外山 望.帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ(1997-2017)」アップデート.病原微生物検出情報 IASR 39:139-141; 2018.
  3. Toyama N, Shiraki K, Miyazaki Dermatologist Society. Universal varicella vaccination increased the incidence of herpes zoster in the child-rearing generation as its short-term effect. J Dermatol Sci. 2018 Oct;92(1):89-96. doi: 10.1016/j.jdermsci.2018.07.003.
  4. 国立感染症研究所感染症疫学センター.感染症発生動向調査週報IDWR2021年第39週(第39号).
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2021/idwr2021-39.pd

 


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