国立感染症研究所

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2019年京都府福知山市の小児・成人におけるエコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の流行

(IASR Vol. 40 p174-175:2019年10月号)

2019年6月中旬より京都府福知山市においてエコーウイルス30型(E30)による無菌性髄膜炎が流行した。京都府においては, 2007年夏季E30による無菌性髄膜炎の流行1)を認めて以来, 12年ぶりの流行である。

2019年6~8月の間に市立福知山市民病院にて診療を行った患者に対し, 診療録を用いて後方視的に検討した。発熱・頭痛・嘔吐の3徴候を呈し(乳幼児においては発熱・嘔吐・不機嫌), 臨床的に髄膜炎と診断した症例を対象とした。なお定点報告は髄液検査施行例のみの報告としており, 本報告の患者総数よりはるかに少ない。

6月13日(第24週)に5歳男児の髄膜炎発症を確認後, 発症者が続発した()。当初は特定の学校・園のクラス単位での流行であった。第27週以降, 発症者はさらに増加し成人罹患例も確認された。第30週, 夏休みに入ると流行形態が変化し, 学校・園単位の流行から福知山市内全域に拡大した。また家庭内感染によると思われる乳児の感染(1か月男児, 3か月女児)も2例確認した。第31週, 流行鎮静化を目的に中丹西保健所より福知山市全域の学校・園へ感染予防策を周知徹底した。第34週より患者発生数は減少に転じている。

原因検索として, 第24週より第30週までに無菌性髄膜炎と診断した137患者のうち, 26患者・53検体(髄液12検体, 便19検体, 咽頭ぬぐい液18検体, 血液2検体, 尿1検体, 吐瀉液1検体)について京都府保健環境研究所にてウイルス検出・型別を行った。VP1領域を用いたRT-PCR法4)を行い, 目的サイズの増幅バンドが電気泳動で確認された検体をエンテロウイルス陽性とした。増幅DNAの塩基配列をサンガー法により決定し, それらの配列によりウイルスを型別した。初発例を含む24患者から得られた46検体(髄液10検体, 便19検体, 咽頭ぬぐい液16検体, 吐瀉液1検体)よりE30を検出した。流行開始早々, 第29週に原因ウイルス特定がされ, E30の流行として対策ができ, その後の流行抑制に有用であったと考えられる。

第35週までに計281患者の髄膜炎診療を行った。入院患者数は28人と髄膜炎と診断した患者の1割程度であり, 平均在院日数は3.6日(2~7日)であり, 重症化した症例は認めなかった。これは過去の報告とも一致する2)。今回, 入院患者の同胞等, 髄膜炎症状を呈していない者の便検体より3例E30を検出した。同じエンテロウイルス属のポリオウイルス感染と同様, E30感染者も多くが軽症もしくは不顕性感染の形態であるとの報告3)に一致する。

エンテロウイルス属に対しては乳幼児期に感染することが多く, 無菌性髄膜炎の流行も小児領域に限定されることが多い。ただしE30のように流行周期の長いウイルスや過去に流行したことのないウイルスが原因となった場合, 成人領域にも波及しうる5)。本邦においても, 成人領域におけるE30を原因とした無菌性髄膜炎流行が報告されている6)。今回小児領域に加え, 成人領域において保護者, 学校・園関係者を中心とした幅広い患者年齢層に感染が拡大した。12年ぶりの流行であったため, 未感染者が多数存在していたと推測される。

なお第35週, 隣接する京都府綾部市において髄膜炎の園内集団発生など流行が疑われており, 感染拡大に注意を払っている。

 

参考文献
  1. 木上照子ら, 京都府保環研年報 53, 2008
  2. Rudolph H, et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 36(9): 1651-1660, 2017
  3. C E Hall, et al., Am J Public Health Nations Health 60(8): 1456-1465, 1970
  4. Nix W.A, et al., J. Clin. Microbiol 44(8): 2698-2704, 2006
  5. 竹島慎一ら, 臨床神経学 54(10): 791-797, 2014
  6. 松本一郎ら, 臨床とウイルス 22(1): 61-68, 1994
 
 
市立福知山市民病院 小児科
 新田義宏(兼 市立福知山市民病院感染予防対策チーム)
 髙田 礼 奥村能城 諸戸雅治
市立福知山市民病院 感染予防対策チーム
 芦田尚加 原 祐
京都府中丹西保健所
 廣石 恵 麻角昌子 猪飼 宏
京都府保健環境研究所細菌・ウイルス課
 長谷川和宏 永田瑞絵 岩﨑里菜 藤本恭史 藤本直樹
京都府健康福祉部
 糸井利幸
京都府健康福祉部健康対策課
 長谷川 巧

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