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鳥取県内のコクサッキーウイルスB5型の流行

(IASR Vol. 34 p. 10-11: 2013年1月号)

 

2011年の9月から現在(2012年11月)まで、鳥取県内の病原体定点病院(小児科)の検体から、コクサッキーウイルスB5型(CVB5)の検出が続いている。

鳥取県内では、コクサッキーウイルスB群は、2009年以降ほぼ毎月分離されているが、CVB5は、2008年9月からの3年間検出されなかった。2011年9月に3株が分離され、翌2012年1月に1株分離されて以降、一時検出されなかったが、5月以降検出が続き、11月までに53株が分離されている。前回の県内におけるCVB5の流行期は、2006年5月~2007年1月までで、9株のCVB5を検出した。その後、2008年8月に1株検出している。

なお、ウイルス分離には、RD細胞とFL細胞を用い、同定には、エンテロウイルスに特徴的な細胞変性効果が現れたものについて、抗血清を用いる中和試験を行った。陽性検体の材料は、咽頭ぬぐい液が43件、髄液が5件、糞便が4件、鼻汁が1件であった。

CVB5が検出された患者情報について、患者の居住地は、鳥取県の東部、中部、および西部地区(隣接する島根県松江市も含む)で、全県で流行していた。患者の年齢は、生後1カ月未満~7歳までであり、3歳以下で75%を占めた。臨床診断名別では、上気道炎が34件、ヘルパンギーナが5件、感染性胃腸炎と髄膜炎が、それぞれ4件ずつ、気管支炎が3件、耳下腺炎が1件であった。2010年~2012年11月までに県内で分離した、種々のエンテロウイルスについて、臨床診断別の割合を図1に示す。一般的に、年齢層が高いと無菌性髄膜炎の割合が高くなるが、今回のCVB5の髄膜炎の患者年齢は、すべて生後3カ月未満であり、CVB5は、他のエンテロウイルスと比較して髄膜炎の割合が高いことがわかった。過去の国内の事例としては、2001年に奈良県で、2006年福井県でCVB5の髄膜炎が流行している1,2) 。また、今回分離したCVB5の51件中、嘔吐や下痢などの消化器症状を示したものも10例(19.6%)あり、糞便を介した感染にも注意が必要である。

分離されたCVB5のうち、11株についてVP4部分領域の遺伝子配列を決定した。この配列と、データベース上にあった3件のCVB5の配列、県内で過去(2006年および2008年)に検出された3株のCVB5の配列、および、アウトグループとして、2株のエンテロウイルスの遺伝子配列(CVB2およびCVB3)を、遺伝子解析ソフトウェア(MEGA5)を用いて近隣結合法で系統樹解析を行った。この結果を図2に示す。解析した11株のCVB5のうち、2011年の9月に検出された1株と、2012年の5月以降に検出された9株は、2010年に中国で分離されたCVB5/2010/Henan やCVB5/CC10/2010株と同じクラスターを形成していた。さらに、このクラスター内の県内分離株10株のうち、4株と6株が、わずかに分枝しており、4株の群は、すべて県西部地区と隣接する松江市由来のもので、6株の群は、すべて県東部、および県中部地区由来のものであり、地域的な集約がみられた。その後、さらに10株のCVB5の配列を決定したが、同様の結果であった。一方、2012年の1月に検出した1株は、2008年に県内で分離された株と同じクラスターを形成しており、この1件のみの検出であった。

 

参考文献
1) IASR 22: 220-221, 2001
2) IASR 27: 271, 2006

 

鳥取県生活環境部衛生環境研究所保健衛生室
白井僚一 浅野康子 佐倉千尋 加藤喜幸

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