アンゴラの都市部における大規模な黄熱アウトブレイクと感染拡大のリスク
(IASR Vol. 37 p. 118: 2016年6月号)
2006年にYellow Fever Initiative(黄熱の対策計画)が実行されて以来, 西アフリカでは黄熱対策が大きな進歩を遂げている。黄熱のアウトブレイクは, 2010年以前には12の西アフリカ諸国(ベナン, ブルキナファソ, カメルーン, コートジボワール, ガーナ, ギニア, リベリア, マリ, ナイジェリア, セネガル, シエラレオネ, トーゴ)から報告されていた。西アフリカにおいては, これまでに大規模なワクチン接種(定期接種と集団ワクチン接種)が実施された結果, 1億5百万人以上が黄熱ワクチンの接種を受け, 2015年には同地域からの黄熱のアウトブレイクは報告されなかった。一方で2010年以降, 黄熱の流行の場は西アフリカから, 集団ワクチン接種キャンペーンを実施されていない中部アフリカ, 東アフリカにシフトしている(アウトブレイクのあった国:チャド, コンゴ民主共和国, エチオピア, コンゴ共和国, スーダン, ウガンダ)。中部アフリカに位置するアンゴラでは, 2015年12月から都市部において黄熱の大規模なアウトブレイクが継続している。
アンゴラにおける黄熱アウトブレイクとその対応:初発例は22歳のアンゴラの首都ルアンダ在住の男性で, 2015年12月5日に発症し, 2016年1月20日にPCR検査によって黄熱と確定診断された。1月22日には, アンゴラの都市部における黄熱アウトブレイクが公式に発表された。2016年4月4日には疑い例1,562例, 検査確定例501例, 死亡例225例(致命割合14.4%)と報告されたが, そのほとんどはルアンダ州からの報告であった。流行のピークは2016年2月であり, 現在疑い例, 確定例ともに減少している。
アンゴラ保健省はNational Coordination Committeeを設置し, 米国疾病予防管理センター(CDC)や国境なき医師団(MSF)と協同して対応にあたっている。世界保健機関(WHO)は2月にincident management systemを立ち上げた。保健省はWHOの協力のもと, ルアンダ州の全居住者640万人を対象に集団ワクチン接種キャンペーンを実施した。黄熱ウイルスの伝播を効果的に阻止するには2週間でこのキャンペーンを完遂する必要があるが, 地域の安全性の懸念, コールドチェーンの問題, ワクチン輸送にかかるコストの不足, 世界的規模でのワクチン供給量不足などが障害となり, ルアンダ州で80%の接種率を達成するのに6週間を要した。2016年4月4日には接種率は89%に達したが, 依然としてすべての地区で十分な接種率が達成されてはいない。
黄熱対策における課題:本アウトブレイクは, 国内外での黄熱感染拡大のリスクと世界規模での黄熱ワクチンの供給不足といった2つの重要な課題を浮き彫りにした。
2016年3月中旬には, アンゴラにおいてルアンダ州外で感染した黄熱症例が初めて確認された。また, アンゴラからの黄熱輸入症例が中国(9例), コンゴ民主共和国(3例), ケニア(2例), モロッコ(1例)から報告された。これらの4カ国での国内感染例の報告はないが, 特にコンゴ民主共和国においては媒介蚊となる蚊が生息していることや居住者に免疫がないこと等を考慮すると, 今後国内で黄熱ウイルスの伝播やアウトブレイクが起こる可能性もある。さらにアンゴラの首都であるルアンダは17の国際線が乗り入れる国際空港も存在するため, 黄熱ウイルスの伝播を阻止できない場合には, 黄熱の感染拡大の可能性は現実味を帯びてくる。
近年黄熱の流行の場は, 西アフリカから集団ワクチン接種キャンペーンを実施されていない中部アフリカ, 東アフリカにシフトしている。そのため中部アフリカ, 東アフリカ諸国では, 1)リスク評価, 2)集団ワクチン接種キャンペーン, 3)定期接種プログラムにより黄熱ワクチンの接種率をすべての地区で少なくとも80%を達成する, といった3つのアプローチにより積極的な黄熱対策をすすめることが必要である。
まとめ:黄熱の世界的な流行を阻止するためには, 蔓延国に入国する旅行者に対し黄熱ワクチン接種証明書の呈示を求めることにより国際保健規則(IHR)を強化することが緊急かつ必須事項である。
また, 今回のアンゴラにおける黄熱アウトブレイクはアフリカの都市部においても黄熱流行のリスクが高まっていることを示している。黄熱ウイルスの伝播を防止するため, 集団ワクチン接種キャンペーンが短期間, 集中的に実施される必要がある。