国立感染症研究所

高校生のスポーツ大会における新型コロナウイルス感染症の
クラスター発生防止に関する提案

2021年8月31日時点

国立感染症研究所実地疫学研究センター

 

2021年5月下旬以降、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルスデルタ株が国内でもまん延し、それまでの状況とは異なる状況が認められており、 高校生や大学生の部活動/課外活動等のスポーツ大会に関連する新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)感染者数の増加もその一つに挙げられます。当センターはこれまで、自治体の皆様とともに複数のスポーツ大会にて発生したクラスター事例の調査に従事してまいりました。まだ調査は継続中のものもありますが、これからスポーツ活動がさらに活発となる季節に向かうことから、現時点で、デルタ株を念頭に、クラスターに共通すると思われる代表的な所見を提示し、共通する対策に関して以下のように提案を行いたいと思います。なお、本稿においては、対策を講ずるべき環境として、特に高校生相当の部活動/課外活動におけるスポーツ大会、およびそのためにやむを得ず県境をまたいだ遠征等を念頭に置いています。ご参考になれば幸いです。

 

代表的な所見:

  • 高校生を中心とするスポーツ大会の場で、遠征チームによる比較的規模の大きなクラスターが複数発生した
  • 大会数日前から現地で行われていた事前合宿や公式練習で感染が拡大したと推測される事例があった
  • 接触程度の強い室内の競技ほど対戦チームへ感染させている可能性があったと考えられた
  • 一方で、競技よりも、滞在中の宿泊施設における集団生活の中で、飲食やマスクのない会話が多数あったことが、感染拡大の主要な原因であった事例も散見された
  • 発症した生徒は軽症で、翌朝の健康観察時には症状が消失し、本人の身体的には競技可能な状態と見受けられたことが多く、その後の競技継続が感染拡大要因の一つとなった場合があった
  • 大会における感染対策マニュアルは作られているが、順守されていることを確認する方法がなかった
  • 生徒が必ずしも発端例ではない事例もあった

共通する対策に関する提案:

  • 各学校の責任者は自身が感染管理をリードし、日頃より生徒に日々の体調の把握や行動管理への注意を促すとともに、基本的な感染管理の指導を行う
  • 生徒や監督等の大会参加者および大会運営スタッフを含む大会関係者は事前に必要な回数のワクチン接種を受けておくことが望ましい(学校関係者への接種の義務づけを求めているものではない)
  • 全ての大会参加者および大会関係者は、特に大会2週間前から上記注意事項の遵守を強化し、出発前3日以内(出来るだけ出発当日)を目途に、抗原定量検査あるいはPCR検査を受ける
  • 大会主催者は、クラスター発生等の事態に備えて、大会参加者の下記の情報を開会前に把握しておく(個人情報の取り扱いに厳重に注意する)

 - 各校の選手や監督以外の同行者を含めた大会参加者名簿

 - 各校の保護者等連絡先

 - 全大会参加者、関係者の新型コロナワクチン(以下、ワクチン)接種状況(種類、回数、最終接種日)

 - 大会開始2週間前からの各校・関係者の旅程表、 宿泊施設の部屋割表

  • 大会主催者は、大会集合2週間前から期間中の、大会参加者や大会関係者の健康状態を適切に観察する
  • 大会主催者は、大会のために集合してから大会が終了するまでの間、体調不良が確認された大会参加者や大会関係者が適切にCOVID-19の検査が実施されたどうかについて把握し、随時情報を保健所と共有する
  • 大会主催者は開催に係るCOVID-19感染防止の責任者を(会場ごとに)配置する
  • 大会主催者は、身体的接触が多く飛沫や接触による感染が否定できないスポーツの大会では、大会前と大会期間中の定期的なCOVID-19のスクリーニング検査(唾液RT-PCRが望ましい)の実施を検討する
  • 大会主催者は、大会関連の活動が合宿や遠征を伴う活動になる場合、各学校責任者とともに、大会参加者でCOVID-19の疑い症例(スクリーニング陽性者)や濃厚接触者が発生した場合の滞在先を予め決めておく
  • 各学校責任者は、大会会場来場時のみならず大会で集合する2週間前からの参加者の健康観察を適切に行い、COVID-19が否定できない何らかの症状が参加者に確認された場合、大会主催者に速やかに報告する
  • 大会主催者は、着替えをする控室は、密を避けるよう必要に応じ人数制限と十分な換気を行い、控室に入りきれなかった参加者も、廊下などで密にならないような着替え場所の配慮を行う
  • 大会主催者は、会場(競技場、施設内外)における密を避けるよう必要に応じ人数制限や十分な換気を行う
  • 各学校責任者は、宿泊施設における感染対策(大浴場の使用中止又は使用時間の指定、食堂における換気の徹底、基本個室等)が講じられているかを確認し、宿泊施設も学校側に協力する
  • 各学校責任者は、複数チームとの同時期の宿泊による選手同士の接触を避けるよう生徒への指示を徹底する
  • 大会主催者は、会場内で対戦校同士の接触を最小限にするために予め動線を定め、その動線が守られるような配慮を行う(各チームに大会関係者を一人つける等)
  • 各学校責任者は、控室において、密にならないこと、マスク無しで、あるいはずらしてしゃべらないこと、換気を十分行うことを参加者に周知、徹底する
  • 大会主催者は、控室など、大会参加者や大会関係者が会場(競技場、施設屋内・周囲)で高頻度に触れる部分に関し、大会期間中は頻回に清掃消毒を行う

以上、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

国立感染症研究所実地疫学研究センター

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