国立感染症研究所

掲載日:2022年9月1日

第97回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年8月31日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第97回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

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感染状況について

全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約985人となり、今週先週比は0.79と先週の増加傾向から再び減少に転じているものの、全国的には高い感染レベルが継続している。今後、夏休み後の学校再開による感染状況への影響に注意が必要。

新規感染者数が減少に転じたことに伴い、療養者数も再び減少に転じた。また、病床使用率は、全国的に高止まりしている。
医療提供体制においては、救急搬送困難事案や医療従事者の欠勤などが多く見られ、コロナだけでなく一般医療を含め医療提供体制に大きな負荷が生じている。
重症者数や死亡者数も高止まりとなっており、特に死亡者数はこれまでの最高値を超える状況が続いている。

実効再生産数:
全国的には、直近(8/14)で1.03となっており、首都圏は0.99、関西圏は1.00となっている。

地域の動向

 ※新規感染者数の数値は、報告日ベースの直近1週間合計の対人口10万人の値

北海道

新規感染者数は約733人(札幌市約722人)、今週先週比は0.79。30代以下が中心。病床使用率は約4割。

北関東

茨城、栃木、群馬では新規感染者数は約825人、665人、762人、今週先週比は0.88、0.75、0.85。茨城、栃木、群馬では30代以下が中心。病床使用率について、茨城では6割強、栃木では5割弱、群馬では5割強。

首都圏(1都3県)

東京の新規感染者数は約883人、今週先週比は0.72。30代以下が中心。病床使用率は約5割、重症病床使用率は3割強。埼玉、千葉、神奈川の新規感染者数は約758人、722人、617人、今週先週比は0.80、0.95、0.82。病床使用率について、埼玉、千葉、神奈川では6割強。

中京・東海

愛知の新規感染者数は約1,128人、今週先週比は0.76。30代以下が中心。病床使用率は7割強。岐阜、静岡、三重の新規感染者数は約1,092人、962人、1,169人、今週先週比は0.78、0.83、0.81。病床使用率について、岐阜、静岡では6割強、三重では5割強。

関西圏

大阪の新規感染者数は約1,151人、今週先週比は0.72。30代以下が中心。病床使用率は6割強、重症病床使用率は1割強。滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山の新規感染者数は約1,144人、1,078人、1,117人、1,126人、1,108人、今週先週比は0.90、0.87、0.81、0.82、0.76。病床使用率について、滋賀、兵庫、和歌山では6割強、京都では6割弱、奈良では5割強。

九州

福岡の新規感染者数は約1,250人、今週先週比は0.73。30代以下が中心。病床使用率は7割強。佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島の新規感染者数は約1,354人、1,578人、1,235人、1,160人、1,516人、1,560人、今週先週比が0.69、0.84、0.73、0.75、0.79、0.80。病床使用率について、佐賀では5割弱、長崎、熊本、鹿児島では6割強、大分では5割強、宮崎では4割強。

沖縄

新規感染者数は約1,329人、今週先週比は0.76。30代以下が中心。病床使用率は約6割、重症病床使用率は3割強。

上記以外

青森、石川、徳島、高知の今週先週比は1.07、0.91、1.01、0.91。病床使用率について、青森では約7割、長野、広島、山口では約6割、徳島では7割弱、香川、愛媛では6割強。

感染状況等と今後の見通し

感染状況について

  • 新規感染者数について、先週のお盆明け以降の増加傾向から再び減少に転じているものの、全国的には高い感染レベルが継続しており、いまだ高止まり傾向の地域も一部でみられる。また、高齢者施設と医療機関の集団感染が継続している。さらに、全国的に感染者及び濃厚接触者が出ていることにより、医療機関や福祉施設だけでなく、社会活動全体への影響が継続している。

  • 全国の年代別の新規感染者数は、全年代で減少に転じており、特に20代は先週の急増から減少に転じ、その減少幅が大きくなっている。また、高齢者の新規感染者数も減少傾向となっているが、重症者・死亡者が増加し、高止まりとなっており、特に死亡者は、これまでの最高値を超える状況が続いている。

  • 新規感染者の感染場所について、自宅の割合は横ばい傾向となり、学校等ではこれまでの減少傾向から転じて増加傾向となっている。また、事業所(職場)の割合も20-60代で概ね増加傾向にある。(大都市部では積極的疫学調査が重点化され、感染経路の十分な把握がされていないことに留意が必要)。

今後の見通しと感染の増加要因・抑制要因について

  • 今後の感染状況について、発症日のエピカーブや大都市における短期的な予測などでは、地域差や不確実性はあるものの、高止まりから減少傾向の可能性があるが、今後は夏休みが終了し学校が再開する影響により増加に転じることも懸念される。いまだ全国的に高い感染レベルにあり、医療提供体制の厳しい状況が継続することが予想される。
  • 感染者数に影響を与える主な要因としては、以下の要因が考えられる。
【ワクチン接種および感染による免疫等】

3回目接種から一定の期間が経過することに伴い、重症化予防効果に比較し、感染予防効果はより減弱が進むことが明らかになっている。一方で、60代以上では、20−40代と比較して感染による免疫獲得は低く、また免疫の減衰についても指摘されており、今後高齢者層への感染拡大が懸念される。

【接触パターン】

夜間滞留人口について、全体的には横ばい傾向で、足下では、東京や愛知、大阪などの大都市で増加に転じている。

【流行株】

BA.2系統の流行から、現在BA.5系統が主流となり、概ね置き換わっている。

【気候要因】

9月も当面は高い気温の気候が続くことが見込まれ、冷房を優先するため換気がされにくい場合もある。

医療提供体制の状況について

  • 全国的には、外来診療検査体制の負荷がみられるとともに、病床使用率については全国的に高止まりし、ほとんどの地域で引き続き5割を超えている。重症病床使用率は東京と大阪では5割を下回ったが、高知で5割となっている。一方で、自宅療養者・療養等調整中の数は多くの地域で高止まり又は減少傾向にある。
  • 全国的に、医療従事者の感染により、十分に人員を配置できない状態が継続し、一般医療を含めた医療提供体制への負荷が長期化している。また、介護の現場でも、施設内療養が多く見られるとともに、療養者及び従事者の感染により、厳しい状況が続いている。
  • 検査の陽性率は減少傾向がみられるが、まだ高い水準が継続し、症状がある人など必要な方に検査が適切に受けられているか懸念がある。
  • 救急搬送困難事案については、全国の数値は減少したものの、地域によっては、依然として高い水準が継続しており、注意が必要である。
    また、猛暑日の影響による救急搬送にも引き続き注意が必要である。

必要な対策

基本的な考え方について

  • 感染状況が収まらない中で、日本社会が既に学んできた様々な知見をもとに、感染リスクを伴う接触機会を可能な限り減らすことが求められる。
    また、社会経済活動を維持するためにも、それぞれが感染しない/感染させない方法に取り組むことが必要。
  • そのために、国、自治体は、日常的な感染対策の必要性を国民に対して改めて周知するとともに、感染防止に向けた国民の取組を支援するような対策を行う。また、今後重症者や死亡者を極力増やさないよう感染者を減らす努力を行うとともに、医療提供体制の強化及び医療機関や保健所の更なる負担軽減について、これまで以上に取り組む必要。

1.ワクチン接種の更なる促進

  • 国内で新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究により、BA.5の流行期において、未接種と比較した2回接種後5ヶ月後の発症予防効果は低程度であった。一方で、3回(ブースター)接種により発症予防効果が中〜高程度まで高まる可能性が示された。2回接種と比較した3回接種の相対的な有効率についても一定程度見込まれることが暫定報告された。
  • 「オミクロン株対応ワクチン」による追加接種について、初回接種終了者を対象として、本年10月半ば以降の実施に向けた準備を進める。
  • 4回目接種については、重症化予防を目的として、対象者(60才以上の高齢者及び60才未満の重症化リスクのある者等)の早期接種に向けて引き続き取り組む必要。また、足下の感染状況を踏まえ、重症化リスクが高い方が多数集まる医療機関・高齢者施設等の従事者の接種も進めることが必要。
  • 3回目接種までは組換えタンパクによるワクチンの接種も選択できる。 3回目接種は、初回接種によるオミクロン株に対する感染予防効果や重症化予防効果の経時的な減弱が回復されることが確認されている。現在の感染状況を踏まえると、できるだけ早い時期に初回接種及び3回目接種を検討するよう促進していくことが必要。
  • 小児(5~11歳)の接種について、今般、オミクロン株流行下での一定の知見が得られたことから、予防接種・ワクチン分科会において、小児について接種の努力義務を課すことが妥当とされた。

2.検査の活用

  • 第17回新型コロナ分科会における提言に基づき、国と自治体は検査ができる体制を確保し、検査の更なる活用が求められる。
  • 高齢者施設等の従事者への頻回検査(施設従事者は週2~3回程度)の実施が必要。
  • 地域の実情に応じて、高齢者施設等の利用者への節目での検査の推奨。
  • 地域の実情に応じて、クラスターが発生している場合には、保育所・幼稚園等の教職員・保育士への頻回検査の実施が必要。
  • 自治体や学校等の判断で、子どもへの健康観察を徹底し、何らかの症状がある者等には検査を行うことが必要。
  • 大人数での会食や高齢者と接する場合の事前検査をさらに推奨。
  • 有症状者が抗原定性検査キットで自ら検査を行い、陽性の場合に健康フォローアップセンター等で迅速に健康観察を受けられる「発熱外来自己検査体制」整備の更なる推進が必要。
  • この取組を進めるためにも国が抗原定性検査キットの買上げ・都道府県配布や、調整支援を行うなど、流通含め安定的な供給が重要。
  • 抗原定性検査キットについて、OTC化を通じた利活用を進めることが必要。

3.効果的な換気の徹底

第17回新型コロナ分科会における提言に基づき、エアコン使用により換気が不十分にならないよう、効果的な換気方法の周知・推奨が必要 (エアロゾルを考慮した気流の作り方、気流を阻害しないパーテーションの設置等)。

4.保健医療提供体制の確保

国の支援のもと、都道府県等は、以下の病床や発熱外来等のひっ迫回避に向けた対応が必要。

  • 確保病床等の即応化や、病床を補完する役割を担う臨時の医療施設等の整備に加え、宿泊療養施設や休止病床の活用など、病床や救急医療のひっ迫回避に向けた取組。
  • 入院治療が必要な患者が優先的に入院できるよう適切な調整、高齢者施設等における頻回検査等の実施や医療支援の更なる強化。
  • 後方支援病院等の確保・拡大、早期退院の判断の目安を4日とすることの周知など転院・退院支援等による病床の回転率の向上。
  • 病室単位でのゾーニングによる柔軟で効率的な病床の活用等の効果的かつ負担の少ない感染対策の推進。
  • 全国一律導入を基本としつつ、発熱外来や保健所業務が極めて切迫した地域において、緊急避難的に発生届の範囲の限定を可能とするなど、発熱外来や保健所における更なる負担軽減策を推進。
  • オンライン診療等の活用を含めた発熱外来の拡充・公表の推進。
  • 有症状者が抗原定性検査キットで自ら検査を行い、陽性の場合に健康フォローアップセンター等で迅速に健康観察を受けられる「発熱外来自己検査体制」整備の更なる推進。特に、発生届の範囲が限定される発熱外来等ひっ迫地域においては、健康フォローアップセンターの強化など発熱外来自己検査の取組強化を推進。
  • 受診控えが起こらないよう配慮の上、例えば無症状で念のための検査のためだけの救急外来受診を控えることについて、地域の実情に応じて地域住民に周知。併せて、体調悪化時などに不安や疑問に対応できるよう、医療従事者等が電話で対応する相談窓口を周知するとともに  こうした相談体制を強化。
  • 救急搬送困難事案への対応。コロナ患者以外の患者受入体制の確認とともに、熱中症予防の普及啓発等を注意喚起。
  • 診療・検査医療機関における治療薬の登録状況の公表など、治療薬を適切・早期に投与できる体制の構築・強化。
  • 職場・学校等において療養開始時に検査証明を求めないことの徹底。
  • 自宅療養者・療養等調整中や高齢者施設内での療養等の状況を踏まえ、酸素濃縮装置の確保等、一時的に酸素投与を必要とする患者への酸素投与体制の点検・確保。

5.サーベイランス等

発生届の範囲の限定、届け出項目の重点化、感染拡大による検査診断・報告の遅れ、受診行動の変化などにより、現行サーベイランスの精度の低下が懸念され、発生動向把握のため、実効性ある適切なサーベイランスの検討を速やかに進めることが必要。
また、変異株について、 ゲノムサーベイランスで動向の監視の継続が必要。

6.基本的な感染対策の再点検と徹底(以下の基本的感染対策の再点検と徹底が必要)

  • 飲食はできるだけ少人数で、飲食時以外はマスクを着用する。 
  • 不織布マスクの正しい着用、手指衛生、換気の徹底などの継続。
  • 咽頭痛、咳、発熱などの症状がある者は外出を控える。
  • 3密や混雑、大声を出すような感染リスクの高い場面を避ける。
  • 医療機関の受診や救急車の利用については目安を参考にする
  • できる限り接触機会を減らすために、例えば、職場ではテレワークの活用等の取組を再度推進するなどに取り組む。
  • イベントや会合などの主催者は地域の流行状況や感染リスクを十分に評価した上で開催の可否を含めて検討し、開催する場合は感染リスクを最小限にする対策の実施が必要。
≪参考:オミクロン株とその亜系統の特徴に関する知見≫
【感染性・伝播性】

オミクロン株はデルタ株に比べ、世代時間が約2日(デルタ株は約5日)に短縮、倍加時間と潜伏期間も短縮し、感染後の再感染リスクや二次感染リスクが高く、感染拡大の速度も非常に速いことが確認されている。なお、報告されているデータによれば、これまでの株と同様に発症前の伝播は一定程度起きていると考えられる。

【感染の場・感染経路】

国内では、多くの感染がこれまでと同様の機会(換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起きており、感染経路もこれまでと同様、飛沫が粘膜に付着することやエアロゾルの吸入、接触感染等を介していると考えられている。

【重症度】

オミクロン株による感染はデルタ株に比べて相対的に入院のリスク、重症化のリスクが低いことが示されているが、現時点で分析されたオミクロン株による感染の致命率は、季節性インフルエンザの致命率よりも高いと考えられる。また、肺炎の発症率についても季節性インフルエンザよりも高いことが示唆されているが、限られたデータであること等を踏まえると、今後もさまざまな分析による検討が必要。前回の感染拡大における死亡者は、昨年夏の感染拡大と比べ、80歳以上の占める割合が高く、例えば、感染する前から高齢者施設に入所している利用者が感染し、基礎疾患の悪化等の影響で死亡するなど、新型コロナウイルス感染症が直接の死因でない事例も少なくないことが報告されている。高齢の感染者や基礎疾患を有する感染者の基礎疾患の増悪や、心不全や誤嚥性肺炎等の発症にも注意が必要。

【ウイルスの排出期間】

オミクロン株感染症例におけるウイルスの排出は、時間の経過とともに減少する。有症状者では、発症日から10日目以降に排出する可能性が低くなることが示され、無症状者では、診断日から8日目以降は排出していないことが示されている。

【ワクチン効果】

初回免疫によるオミクロン株感染に対する感染予防効果や発症予防効果は著しく低下する。入院予防効果については、半年間は一定程度保たれているものの、その後50%以下に低下することが報告されている。一方で、3回目接種によりオミクロン株感染に対する感染予防効果、発症予防効果や入院予防効果が回復することや、3回目接種後のワクチン効果の減衰についても海外から報告されている。 4回目接種については、重症化予防効果は6週間減衰しなかった一方、感染予防効果は短期間しか持続しなかったと報告されている。

【オミクロン株の亜系統】

世界的には、BA.5系統の占める割合の増加とともに陽性者数の増加が見られ、 BA.5系統はBA.2系統と比較して感染者増加の優位性が示唆されたが、直近では陽性者数は減少に転じている。BA.5系統はBA.1系統やBA.2系統に比して既存免疫を逃避する傾向が示されているが、感染力に関する明確な知見は示されていない。なお、東京都のデータに基づき算出されたBA.5系統の実効再生産数は、BA.2と比較して約1.27倍とされた。また、民間検査機関の全国の検体では約1.3倍と推計された。

WHOレポートでは、 BA.5系統の重症度については、既存のオミクロン株と比較して、上昇及び変化なしのいずれのデータもあり、引き続き情報収集が必要であるとしている。また、国内の実験室内のデータからは、BA.5系統はBA.1及びBA.2系統よりも病原性が増加しているとする報告があるが、臨床的には現時点では確認されていない。また、 BA.5系統の形質によるものかは不明であるが、BA.5系統中心に感染者数が増えている国では、入院者数・重症者数が増加していることに注意を要する。国内のゲノムサーベイランスによると、BA.5系統の検出割合が増加しており、概ね置き換わっている。

また、本年6月以降インドを中心に報告されているBA.2.75系統は国内で検出されているが、他の系統と比較した感染性や重症度等に関する明らかな知見は海外でも得られていない。これらのウイルスの特性について、引き続き、諸外国の状況や知見を収集・分析するとともに、ゲノムサーベイランスによる監視を続けていくことが必要。

 

感染状況分析・評価グラフ等

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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