国立感染症研究所

掲載日:2023年4月6日

第120回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年4月5日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第120回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版(準備中)

感染状況等の概要

全国の新規感染者数は、直近の1週間では人口10万人あたり約39人となり、 今週先週比は1.03と、全国的に下げ止まりとなっており、足元では増加の地域も多くみられる。
年度替わりの感染リスクが高まる場面や免疫の減衰、変異株の置き換わりの状況等が感染状況に与える影響に注意が必要。

病床使用率は全国的に低下傾向にあり、重症者数や死亡者数も減少傾向が継続している。

参考:地域の動向

 ※ 新規感染者数は、直近1週間合計の対人口10万人の値の概数であり4日0時時点のHER-SYS報告値(今週先週比も同時点))、病床使用率は31日公表時点の確保病床使用率

感染状況等と今後の見通し

感染状況について

  • 新規感染者数について、全国的に下げ止まりとなっており、大都市部をはじめ、足元では増加の地域も多くみられる。一方で、水準については、昨年夏の感染拡大前を下回る状況が継続している。
  • 地域別の新規感染者数について、北海道や北陸・甲信越などでは人口あたりで全国を上回っている一方、近畿や九州などでは人口あたりで全国を下回っている。また、高齢者施設や医療機関等の集団感染は減少傾向が継続している。
  • 全国の年代別の新規感染者数は、全年代平均で減少傾向が継続しているものの、20代をはじめ増加している年代もみられる。
  • 全国では、重症者数及び死亡者数は減少傾向が継続している。この冬の感染拡大では、昨年夏の感染拡大時よりも、新規感染者のうち80代以上の高齢者の占める割合の増加傾向がみられる。
  • 昨年1月以降の小児等の死亡例報告にあるように、小児感染者数の増加に伴う重症例、死亡例の発生や、小児の入院者数の動向にも注意が必要。
  • 季節性インフルエンザについては、先週末公表時点では、定点医療機関当たりの週間報告数が、全国では減少傾向が継続しており、注意報レベルを下回っている。

今後の見通しについて

  • 今後の感染状況について、現在の大都市部における感染者数の増加傾向、特に20代の増加から、今後の感染者数が増加に向かう可能性もあり注視が必要。また、エピカーブや全国及び大都市の短期的な予測では、地域差や不確実性はあるものの、全国的には横ばい傾向が続く可能性もあるが、東京など一部地域では増加傾向となることが見込まれる。今後、年度替わりの感染リスクが高まる場面や免疫の減衰、より免疫逃避が起こる可能性のある株の割合の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要。
  • 季節性インフルエンザについて、一部地域ではいまだに注意報レベルにあるものの、例年の傾向を踏まえると、今後さらに減少することが見込まれる。

感染の増加要因・抑制要因について

【ワクチン接種および感染による免疫等】

ワクチン接種の推進および自然感染により、これまで各年代において増加してきたオミクロン株(BA.5とBQ1.1)に対する免疫保持者割合は、今後経時的に低下していくと考えられる。

【接触状況】

夜間滞留人口について、足元では、減少の地域もある一方で、首都圏など増加の地域もみられる。引き続き、春休みと年度替わりによる接触機会の増加も予想される。

【流行株】

国内ではBA.5系統が主流となっていたが、3月頃からその割合は減少傾向にある。欧米から多く報告されているXBB.1.5系統を含むXBB系統やBA.2.75系統の亜系統であるBN.1.3系統の割合は増加傾向にある。一方、国内で数と割合が増加していたBQ.1系統は1月上旬をピークとして減少傾向である。なお、国内における感染者の減少に伴い変異株の登録数が減少しているため、変異株の割合について考慮する際は注意が必要。

【気候・季節要因】

これから気温が上昇していくことにより、換気を行いやすい気候条件になる。屋内で過ごすことが減ることも感染者抑制には一定の効果があると考えられるが、この時期に感染拡大することもあり留意が必要。

医療提供体制等の状況について

  • 病床使用率は全国的に低下傾向にあり、すべての地域で2割を下回るなど低い水準にある。重症病床使用率も全国的に低い水準にある。
  • 介護の現場では、施設内療養数は減少傾向が継続している。
  • 救急医療について、救急搬送困難事案数は、全国的に減少傾向であるが、引き続き、救急搬送困難事案数の今後の推移と、救急医療提供体制の確保には注意が必要。

必要な対策

基本的な考え方について

  • オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなどの特段の事情が生じない限り、本年5月8日から、新型コロナウイルス感染症について、感染症法上の新型インフルエンザ等感染症に該当しないものとし、5類感染症に位置づける。これに伴い、医療提供体制や高齢者施設等への対応、患者等に対する公費支援など、これまで講じてきた各種の政策・措置について、本年3月10日の政府決定に基づき必要な見直しを行う。
  • それまでの間においても、限りある医療資源の中でも高齢者・重症化リスクの高い方に適切な医療を提供するための保健医療体制の強化・重点化に引き続き取り組むことが必要。
    また、国民一人ひとりの自主的な感染予防行動の徹底をお願いすることにより、高齢者等重症化リスクの高い方を守るとともに、通常医療を確保する。

1.ワクチン接種の更なる促進

  • 「オミクロン株対応ワクチン」について、初回接種を完了した全ての5歳以上の者に対する接種を進めることが必要。
  • 接種を希望するすべての対象者がオミクロン株対応ワクチンの接種を行うよう呼びかける。
  • 未接種の方には、できるだけ早い時期に初回接種を検討していただくよう促していく。
  • 小児(5~11歳)について、初回接種とともにオミクロン株対応ワクチンによる追加接種を進める。小児(6か月~4歳)については、初回接種を進める。
  • 今後、令和5年度の接種(秋冬に5歳以上の全ての者を対象に接種を行い、高齢者等重症化リスクが高い方等には、秋冬を待たず春夏にも追加で接種を行う)を進める。

2.検査の活用

  • 国と自治体は検査ができる体制を確保し、検査の活用が求められる。
  • 高齢者施設等について、従事者への頻回検査(施設従事者は週2~3回程度)を実施する。
  • 有症状者が抗原定性検査キットで自ら検査し、陽性の場合に健康フォローアップセンター等で迅速に健康観察を受けられる体制整備の推進。
  • OTC化されインターネット販売もされている抗原定性検査キットについて、利活用を進める。

3.保健医療提供体制の確保

  • 国の支援のもと、都道府県等は、病床や発熱外来等のひっ迫回避に向けた対応を継続。
  • 入院治療が必要な患者が優先的に入院できるよう適切な調整(後方支援病院等の確保・拡大、早期退院の判断目安4日の周知など転院・退院支援等による病床の回転率の向上等)、高齢者施設等における頻回検査等の実施や平時からの医療支援の更なる強化
  • 受診控えが起こらないよう配慮の上、例えば無症状で念のための検査のためだけの救急外来受診を控えることについて、地域の実情に応じて地域住民に周知。併せて、体調悪化時などに不安や疑問に対応できるよう、医療従事者等が電話で対応する相談窓口の周知及び相談体制の強化
  • 本年3月10日の政府決定を受け、5類感染症への位置づけ変更に伴い、新型コロナウイルス感染症にこれまで対応してきた医療機関に引き続き対応を求めるとともに、新たな医療機関に参画を促すための取組に着手。
  • 医療機関における感染対策の見直しや設備整備等の支援、応招義務の明確化、感染対策や診療方針に関する分かりやすい啓発資材等の周知などを通じて、対応する医療機関の維持・拡大
  • 各都道府県において、次の冬の感染拡大までの間、新たな医療機関による軽症等の患者の受入れを進めること、医療機関間による入院調整を進めること等を内容とする9月末までの「移行計画」を4月中に策定

4.新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行への対応

  • 各地域の実情に応じて、発熱外来や電話診療・オンライン診療、健康フォローアップセンター、自己検査キット、相談体制、救急医療の取組等を進める。 また、医師の適応確認の上処方される経口薬含め、治療薬の円滑な供給を進める。解熱鎮痛薬等の入手が困難な薬局等に対しては、厚生労働省の相談窓口の活用を呼びかける。
  • 都道府県は、地域の実情に応じた外来医療の強化等の体制整備の計画に基づき、保健医療体制の強化・重点化に取り組む。
  • 国民各位への情報提供とともに、感染状況に応じた適切なメッセージの発信が必要。また、重症化リスクが低い方の自己検査や地域のフォローアップセンターの活用を呼びかける。
  • 急な体調不良やけがに備えて「救急車利用マニュアル」の確認や救急車の利用に迷った際のかかりつけ医への相談、#7119などの電話相談窓口の利用、必要なときは救急車を呼ぶことをためらわないことも呼びかける。

5.サーベイランス・リスク評価等

  • 発生動向把握のため、実効性ある適切なサーベイランスの検討を速やかに進めることが必要。また、ゲノムサーベイランスで変異株の動向の監視の継続が必要。
  • リスク評価について、新型コロナウイルス感染症に関する病原性、感染力、変異等についての評価を引き続き進めることが必要。

6.水際対策

  • 昨年12月30日以降の中国からの入国者に対する臨時的な措置について、本年3月1日から一部の入国者を対象に実施している入国時のサンプル検査を継続しつつ、内外の感染状況や臨時的な措置によって得られた知見、G7各国の水際措置の状況等を踏まえ、中国本土便による入国者に対する「陰性証明書の提出」に替えて、本年4月5日以降、「陰性証明書又はワクチン接種証明書(3回)」のいずれかの提出を求めることとする。
  • 本年5月8日を予定している水際措置の終了に併せて、新たな感染症の流入を平時においても監視するため、「感染症ゲノムサーベイランス(仮称)」を同日より開始する。

7.効果的な換気の徹底

  • 屋内での換気が不十分にならないよう、効果的な換気方法の周知・推奨が必要(エアロゾルを考慮した気流の作り方、気流を阻害しないパーテーションの設置等)。

8.基本的な感染対策の再点検と徹底

地域での感染症の流行状況に関心を持ち、自らを感染症から防ぎ、身近な人を守り、ひいては社会を感染症から守り、特に高齢者に感染が及ばないよう配慮するといった観点で、以下の基本的な対策を一人ひとりが身に着けておくことが必要。

  • 体調不安や症状がある場合、無理せず自宅で療養あるいは受診
  • 日常の生活習慣としての手洗い等の手指衛生
  • その場に応じたマスクの着用や咳エチケットの実施
  • 適度な運動、食事などの生活習慣の理解・実行
  • 換気の励行、密集・密接・密閉(三密)の回避
  • 職場ではテレワークの活用等の取組を推進するなどに取り組む
  • 基本的感染対策について、本年5月8日から、行政が一律に求めるのではなく、個人の主体的な選択を尊重し、個人の判断に委ねることを基本とする。
  • 陽性者の自宅療養期間について、自身による検温などの体調管理を実施し、外出する際には感染対策を徹底する。また、高齢者等重症化リスクのある方との接触などは控えるよう求めることが必要。
  • 症状軽快から24時間経過後または無症状の場合の、食料品等の買い出しなど必要最小限の外出の許容について、外出時や人と接する時はマスク着用、人との接触は短時間、移動に公共交通機関は利用しないなど、自主的な感染予防行動の徹底が必要。
≪参考:オミクロン株とその亜系統の特徴に関する知見≫
【感染性・伝播性】

オミクロン株はデルタ株に比べ、世代時間が約2日(デルタ株は約5日)に短縮、倍加時間と潜伏期間も短縮し、感染後の再感染リスクや二次感染リスクが高く、感染拡大の速度も非常に速いことが確認されている。なお、報告されているデータによれば、これまでの株と同様に発症前の伝播は一定程度起きていると考えられる。

【感染の場・感染経路】

国内では、多くの感染がこれまでと同様の機会(換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起きており、感染経路も同様に、飛沫の粘膜への付着やエアロゾルの吸入、接触感染等を介していると考えられている。

【重症度等】

オミクロン株による感染はデルタ株に比べて相対的に入院や重症化のリスクが低いことが示されている。オミクロン株含め新型コロナウイルス感染症の評価には、疾患としての重症度だけではなく、伝播性や、医療・社会へのインパクトを評価することが必要。

令和3年末からの感染拡大における死亡者は、令和3年夏の感染拡大と比べ、感染する前から高齢者施設に入所している利用者が感染し、基礎疾患の悪化等の影響で死亡するなど、新型コロナが直接の死因でない事例も少なくないことが報告されている。また、新型コロナ発生当初からデルタ株流行期までは、典型的な新型コロナ感染によるウイルス性肺炎によって重篤な呼吸不全を発症する事例が多かったが、オミクロン株流行期には、入院前からの基礎疾患の悪化や入院中の別の合併症の発症など、肺炎以外の疾患が死亡の主たる要因との報告がある。

昨夏の感染拡大では、前回に引き続き、令和3年夏の感染拡大時よりも重症化率の減少や、入院患者に占める高齢者の割合が上昇。さらに、昨夏の感染拡大における死亡者は、令和3年末からの感染拡大と比べ、人工呼吸・ネーザルハイフローの使用率やステロイドの処方率が下がっている。

小児等の感染では、内因性死亡が明らかとされた死亡例において、基礎疾患のなかった症例も死亡しており、痙攣、意識障害などの神経症状や、嘔吐、経口摂取不良等の呼吸器症状以外の全身症状の出現にも留意が必要、といった実地調査結果の報告がなされている。

昨年7・8月の自宅での死亡事例においては、同時期の死亡者全体の傾向と同様、70歳以上の者が約8割を占め、新型コロナ以外の要因による死亡事例も多いことが示唆される。また、新型コロナ陽性死体取扱い状況によると、月別報告件数は昨年12月に過去最多となり、死因が新型コロナとされる割合は、全体では約3割となっている。

【ウイルスの排出期間】

国内データによれば発症後10日目までは感染リスクが残存し、発症後7日目までが感染力が高く、5日間待機後でもまだ3分の1の患者が感染性のあるウイルスを排出している状態。8日目(7日間待機後)になると、多くの患者(約85%)は感染力のあるウイルスを排出しておらず、当該ウイルスを排出している者においても、ウイルス量は発症初期と比べ7日目以降では6分の1に減少したとの報告がある。

【ワクチン効果】

従来型ワクチンについては、初回免疫によるオミクロン株感染に対する感染予防効果や発症予防効果は著しく低下する。入院予防効果については、半年間は一定程度保たれているものの、その後50%以下に低下することが報告されている。一方で、3回目接種によりオミクロン株感染に対する感染予防効果、発症予防効果や入院予防効果が回復することや、3回目接種後のワクチン効果の減衰についても海外から報告されている。 オミクロン株対応ワクチン(BA.4-5対応型)については、接種後0-2か月(中央値1か月)での発症予防効果が認められたと報告されている。

【オミクロン株の亜系統】

世界的に主流となっていたBA.5系統の割合は減少傾向にあり、現在はXBB .1.5系統を含むXBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)の割合の増加が見られる。米国ではXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統、欧米ではXBB.1.9系統(いずれも亜系統含む)の数と割合の増加がみられている。XBB.1.5系統の重症度はBQ.1系統と比較して上昇していないが、そのほかの臨床像・疫学的な知見は十分ではない。また、XBB.1.9系統についても臨床像・疫学的な知見はまだ十分ではなく、引き続き、諸外国の状況や知見を収集・分析するとともに、ゲノムサーベイランスによる監視を続けていくことが必要。なお、世界における感染者の減少に伴い変異株の登録数が減少しているため、変異株の割合について考慮する際は注意が必要。

 

感染状況分析・評価グラフ等

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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