国立感染症研究所

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2021年7⽉17⽇ 12:00 時点

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懸念される変異株(VOCs)と注目すべき変異株(VOIs)について

WHOは、2021年7月6日の週報で、変異株の分類を変更した。B.1.427/B.1.429系統の変異株(イプシロン型)、P.2系統の変異株(ゼータ型)、P.3系統の変異株(シータ型)をVOIから“さらなる監視のための警告(Alerts for Further Monitoring※)”に変更した。

※さらなる監視のための警告(Alerts for Further Monitoring):
ウイルスの特性に影響を与えると思われる遺伝子変化を持つSARS-CoV-2変異株(variant)で、将来的にリスクをもたらす可能性が示唆されているが、表現型や疫学的な影響の証拠は現時点では不明であり、監視を強化し、新たな証拠が出るまで評価を繰り返す必要があるもの。

国内でも、B.1.427/B.1.429系統(イプシロン型)の検出は1例にとどまっていることから、VOIからは除外することとした。P.3系統の変異株(シータ型)についても、国内で検出がないことから、同様にVOIからは除外することとした。また、R.1系統の国内発生は著しく減少傾向にあり、公衆衛生的なインパクトは限られていると考えられることから、VOIからは除外することとした。いずれにしても、ゲノムサーベイランス等で引き続き国内外の動向を注視していく。

国内でのVOCs/VOIsの検出状況については、感染症発生動向調査感染週報(IDWR; https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html)にて報告しているので参考にされたい。

表1. 変異株の分類と呼称

分類 (WHO) 分類 (感染研) WHO の呼称 Pango系統 GISAID クレード Nextstrain クレード
VOC アルファα B.1.1.7   GRY
(旧GR/501Y.V1)  
20I(V1)  
ベータ β B.1.351   B.1.351.2 B.1.351.3 GH/501Y.V2   20H(V2)  
ガンマ γ P.1   P.1.1 P.1.2 GR/501Y.V3   20J(V3)  
デルタ δ B.1.617.2   AY.1/AY.22) G/478K.V1   21A  
VOI -   イータ η B.1.525   G/484K.V3   21D  
-   イオタ ι B.1.526    GH/253G.V1 21F 
VOI   カッパ κ B.1.617.1 G/452R.V3 21B
-   ラムダ λ C.37 GR/452Q.V1 21G
Alerts for Further Monitoring1)     (VOI)   イプシロンε B.1.427/B.1.429 GH/452R.V1   21C  
-   ゼータ ζ P.2 GR/484K.V2 20B/S.484K
(VOI)   シータ θ P.3   GR/1092K.V1 21E  
(VOI)   - R.1 GR -
  1. 感染研でVOCs/VOIsに位置付けていた、またはWHOがギリシャ文字の呼称をつけた変異株(variant)のみを記載。WHOの分類では上記の他にR.2、B.1.466.2、B.1.621、AV.1、B.1.1.318、B.1.1.519、AT.1、C.36.3/C.36.3.1、B.1.214.2系統が同分類に位置付けられている。
  2. 感染研ではAY.3もデルタ株に位置付けている。

VOCsに関する主な知見のアップデート

【B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)】
  • 英国では、2021年6月27日から7月3日に遺伝子型決定された症例の97%をデルタ株(B.1.617.2系統およびAY.1/AY.2系統を含む)が占めていた(1)
  • 米国では、2021年6月6日から6月19日の集計でB.1.617.2系統が31.1%を占めていた(2) 。

VOCの日本での状況

  • 2021年7月12日時点のHER-SYSに登録された事例数によれば、B.1.617.2系統(デルタ株)は計437事例が25都府県から報告されている(3)。
  • 厚生労働省のまとめによると、L452R変異株スクリーニング検査の陽性割合は全国で11%である(6/28-7/4の速報値)(3)。国立感染症研究所および地方衛生研究所等における全ゲノム解析により確認されたB.1.617.2系統等*の変異株(デルタ株)は国内481例(2021年7月5日時点)(3)。*AY.1/AY.2系統を含む
  • 国立感染症研究所感染症疫学センターの解析(2021年7月13日時点)では、SARS-CoV-2陽性検体に占めるL452R変異を有する検体の割合は、関東地方で40%以上、関西地方で20%以上と推定されている(4)。
  • B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)の報告数は減少しているところであるが、スパイクタンパクにL455F変異が入ったウイルスが国内で84件検出されている(2021年7月16日時点)。GISAID登録情報では、世界で591件、うち日本からの登録は43件である。L455F変異はレセプターとの結合力の上昇に寄与すると考えられる変異であるが(5)、現時点では、感染・伝播性や重篤度、ワクチンの効果への影響を示唆する知見はなく、引き続き注視していく。
  • ウイルスの全遺伝子解析は国内症例全体の5~10% (註:患者報告から検体輸送やゲノム情報解析まで数週間かかるため、解析割合としては過少評価である)について行われている。
    参考)国内のゲノム確定数 55,918検体(2021年7月5日時点)。
  • 国立感染症研究所ではB.1.1.7系統(アルファ株)、B.1.351系統(ベータ株)、P.1系統(ガンマ株)、B.1.617.2系統(デルタ株)の分離・培養に成功している。

引用文献

  1. Public Health England. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 18. 9 July 2021.
  2. US CDC. Variant Proportions. https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#variant-proportions.
  3. 第43回厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料4 ①新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応等. 令和3年7月14日.
  4. 第43回厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料3-2. 令和3年7月14日.
  5. Wang R, et al. Analysis of SARS-CoV-2 mutations in the United States suggests presence of four substrains and novel variants. Commun biol. 4. 228. 2021. https://doi.org/10.1038/s42003-021-01754-6.

注意事項

  • 迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第11報 2021/07/17 12:00 時点  
第10報 2021/07/06 18:00時点  
第9報 2021年6月11日10:00時点  *2021/6/16 9:00 表を一部修正
第8報 2021/04/07 17:00時点  2021/4/12 13:00 一部修正 (VOCは46%程度感染・伝播性が → VOCは40%程度感染・伝播性が)
第7報 2021/03/03 14:00時点  
第6報 2021/02/12 18:00時点  
第5報 2021/01/25 18:00時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の新規変異株について」
第4報 2021/01/02 15:00時点  
第3報 2020/12/28 14:00時点  
第2報 2020/12/25 20:00時点 注)第1報からタイトル変更
「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について」
第1報 2020/12/22 16:00時点 「英国における新規変異株 (VUI-202012/01)の検出について」

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