令和4年1月5日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
【背景・目的】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であるため、令和4年1月4日現在、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされている。しかし、現在の退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となる可能性があることから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について明らかにする必要がある。
国立感染症研究所(感染研)では、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づき、オミクロン株症例の積極的疫学調査を行っており、本調査の一環として、感染性持続期間を検討している。本稿では、この暫定報告として、国内のオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移と感染性ウイルスの検出期間を示す。
【方法】
対象症例および検体採取
対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例で、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRおよびウイルス分離試験を実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。
核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR
RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしてOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりCq値を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。
分離試験
検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無について評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。
【結果】
対象症例の属性
2021年12月22日までに登録された対象症例は、21例のべ83検体であった。年齢中央値33歳(四分位範囲 29-47歳)、男性19例(90%)、女性2例(10%)であった。ワクチン3回接種は2例(10%)で、その内訳はファイザー社製のワクチン3回の1例とジョンソンエンドジョンソン社製のワクチンの後にファイザー社製のワクチン2回接種した1例であった。そのほかはファイザー社製のワクチン2回が8例(38%)、武田/モデルナ社製のワクチン2回が9例(43%)、未接種者はいずれも未成年で2例(10%)であった。ワクチン2回接種から2週間以内の経過の者はいなかった。 退院までの全経過における重症度は、無症状が4例(19%)、軽症が17例(81%)であった。中等症以上・ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。
リアルタイムRT-PCR
診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けてCq値を図A, Bに示す。Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められ、Cq値20台の検体を2例認めたが、いずれも症状消失後2日以内の検体であった。
図. オミクロン株症例におけるCq値の日数別推移(A) オミクロン株症例におけるCq値の診断からの日数別推移
(1)0-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降
(B) オミクロン株症例におけるCq値の発症からの日数別推移(有症状者に限定した発症からの日数別)
(1)-1-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降
分離試験
診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けて分離の可否を表に示す。診断日および発症日からの日数が3~6日目の群でウイルス分離可能な割合は最も高く、その後は減少傾向であった。特に、診断および発症10日目以降、ウイルス分離可能な症例は認めなかった。また未成年患者検体からもウイルス分離は可能であった。PCR陰性でウイルス分離された検体は認めなかった。
表.オミクロン株症例におけるRNA検出および分離の可否
(A)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(診断からの日数別)
診断からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) | 分離可能検体数 および割合n (%) | PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%) |
0-2日目 | 20/21 (95.2) | 2/21 (9.5) | 2/20 (10.0) |
3-6日目 | 14/17 (82.4) | 7/17 (41.2) | 7/14 (50.0) |
7-9日目 | 17/18 (94.4) | 2/18 (11.1) | 2/17 (11.8) |
10-13日目 | 4/15 (26.7) | 0/15 (0) | 0/4 (0) |
14日目以降 | 5/12 (41.7) | 0/12 (0) | 0/5 (0) |
(B)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(有症状者に限定した発症からの日数別)
発症からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) | 分離可能検体数 および割合n (%) | PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%) |
-1-2日目 | 15/16 (93.8) | 2/16 (12.5) | 2/15 (13.3) |
3-6日目 | 8/8 (100) | 4/8 (50.0) | 4/8 (50.0) |
7-9日目 | 16/16 (100) | 3/16 (18.8) | 3/16 (18.8) |
10-13日目 | 7/12 (58.3) | 0/12 (0) | 0/7 (0) |
14日目以降 | 4/10 (40.0) | 0/10 (0) | 0/4 (0) |
(C)無症状者のウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合
陽性からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) | 分離可能検体数 および割合n (%) | PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%) |
0-5日目 | 6/6 (100) | 3/6 (50.0) | 3/6 (50.0) |
6-9日目 | 3/4 (75.0) | 0/4 (0) | 0/3 (0) |
10日目以降 | 1/10 (10) | 0/10 (0) | 0/1 (0) |
【考察】
本報告では、国内のオミクロン株症例における感染性持続期間を検討した。
オミクロン株症例において、Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めなかった。これらの知見から、2回のワクチン接種から14日以上経過している者で無症状者および軽症者においては、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。
本調査の制限として、ワクチン接種歴のある者が大多数であったこと、無症状者及び軽症者が調査対象であったことなどが挙げられる。また、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことに注意が必要である。
注意事項
迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。
謝辞
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
国立国際医療研究センター、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター