令和4年1月13日
令和4 年1月20日 誤記訂正
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

【背景・目的】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であったため、2022年1月4日までは、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準・解除基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていた。しかし、この退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となっていたことから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について早急に明らかにする必要があった。厚生労働省、国立感染症研究所(感染研)において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を行っている。本調査において、新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者(以降、「ワクチン接種者」と記載)における感染性ウイルス排出期間を検討し、発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆され、1月5日に第1報として報告するとともに、同日、厚生労働省より事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)が発出され、ワクチン接種者においては、退院基準・解除基準を非オミクロン株症例と同様の取扱いとすることとなっている。しかし、新型コロナワクチン未接種者(以降、「ワクチン未接種者」と記載)におけるオミクロン株症例においては知見が得られなかった。第1報以降、ワクチン未接種者におけるオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移を検討したため、これを示す。

【方法】

対象症例および検体採取

対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例として、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRを実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。

核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR

RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしたプライマー/プローブセット(N2セット)とOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりウイルスRNA量(Cq値)を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。

【結果】

対象症例の属性

2022年1月7日までに登録された対象症例は、47例のべ265検体(ワクチン接種者:36例(210検体);ワクチン未接種者:11例(55検体))であった。年齢中央値31歳(四分位範囲24.5-47歳)(ワクチン接種者:38歳 (29-47歳);ワクチン未接種者:9歳(9-26歳))、男性33例(70%)、女性14例(30%)(ワクチン接種者:男性26例、女性10例;ワクチン未接種者:男性7例、女性4例)であった。退院までの全経過における重症度は、無症状が10例(21%)、軽症が36例(77%)、中等症Ⅰが1例(2%)であった(ワクチン接種者:無症状6例、軽症29例、中等症Ⅰ 1例;ワクチン未接種者:無症状4例、軽症7例)。ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。

リアルタイムRT-PCR

診断日からの期間別のウイルスRNA量(Cq値)を図Aに示す。Cq値は日数が経過するにつれて上昇傾向であった。また、ウイルスRNA検出検体の割合も日数が経過するにつれて、減少していた()。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者の検体とワクチン接種者の検体のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日および発症もしくは診断10日以降において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量に違いは認めなかった(図B)。

67 fig1 図. ワクチン未接種/ワクチン接種者のオミクロン株症例における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の日数別推移

(A) ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の診断からの日数別推移。赤線は中央値と四分位範囲を示す。
(B) ワクチン未接種者とワクチン接種者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の比較(有症状者および無症状者)赤線は中央値と四分位範囲を示す。ns: 統計学的有意差なし(一元配置分散分析とHolm-Sidak 検定)

 

表.ワクチン未接種のオミクロン株症例におけるウイルスRNA検出検体数および割合(診断からの日数別)

診断からの日数 RNA検出検体数
および割合n (%)
0-2日目 7/11 (63.6)
3-6日目 11/13 (84.6)
7-9日目 7/13 (53.8)
10-13日目 3 /10 (30.0)
14日目以降 1/8 (12.5)

【考察】

本報告では、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間を検討した。ワクチン未接種者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は日数が経過するにつれて減少傾向であった。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日、および発症もしくは診断10日以降において、両者のウイルスRNA量に違いは認めなかった。

現時点で検討した症例数はワクチン未接種者11例と限られているが、ワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。 本報告の制限として、解析した症例数が少ないこと、調査対象者は無症状者及び軽症者が大部分を占め特にワクチン未接種者においては若年者が調査対象であったこと、ウイルス分離の結果が得られておらず感染性ウイルスの有無が不明であることなどが挙げられる。

注意事項

本報は迅速な情報共有を⽬的としており、調査は継続しているため、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。

謝辞

本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

大阪市立総合医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立国際医療研究センター、東京都立駒込病院、長良医療センター、成田赤十字病院、りんくう総合医療センター(五十音順)

発出元

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

 


[訂正]
令和4 年1月20日 誤記(2か所)を訂正しました。
 
【背景・目的】
発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを
 →
発症または診断10日以降に感染性ウイルスを
 
【考察】
発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを
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発症または診断10日以降に感染性ウイルスを

 

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