令和4年1月27日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
【背景・目的】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、オミクロン株についての知見が不十分であったため、2022年1月4日までは、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、隔離解除のため核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認を行ってきた。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター 国際感染症センターにおいて、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を行っている。この調査報告の第1報として、新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者(以降、「ワクチン接種者」と記載)における感染性ウイルス排出期間を検討し、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。この報告に基づき、2022年1月5日にワクチン接種者においては、退院基準を非オミクロン株症例と同様の取扱いとすることとなった1。また、1月13日に第2報として、新型コロナワクチン未接種者(以降、「ワクチン未接種者」と記載)のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間を呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)を用いて比較したところ、ワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかったことを報告し、この報告に基づき、1月14日ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準・解除基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとしている2。第2報以降に無症状病原体保有者(以降、「無症状者」と記載)の検体が集積されたことから無症状者における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)とウイルス分離の結果を検討し報告する。
1「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月5日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)
2「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月14日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)
【方法】
対象症例および検体採取
対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例として、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRを実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。
核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR
RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしたプライマー/プローブセット(N2セット)とOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりウイルスRNA量(Cq値)を測定した。陰性と判定された検体についてCq値45を代入して解析した。
分離試験
検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無を評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。
【結果】
対象症例の属性
2022年1月14日までに検体搬入された対象症例は、20例(ワクチン接種者:10例;ワクチン未接種者:10例)であった。年齢中央値28歳(四分位範囲9-45歳)(ワクチン接種者:40歳 (29-49歳);ワクチン未接種者:9歳(9-23歳))、男性12例(60%)、女性8例(40%)(ワクチン接種者:男性7例、女性3例;ワクチン未接種者:男性5例、女性5例)であった。
リアルタイムRT-PCR
診断日からの期間別のウイルスRNA量(Cq値)を図に示す。Cq値は日数が経過するにつれて上昇傾向であった。また、ウイルスRNAの検出症例割合は日数が経過するにつれて減少していたが、8日目以降も検出されていた(表)。
分離試験
診断日からの期間を以下に分けて分離の可否を表に示す。診断0~5日目 までは多くの症例でウイルス分離可能であったが、診断6日目以降はウイルス分離可能な症例は減少していき、診断8日目以降はウイルス分離可能な症例は認めなかった(表)。
図. 無症状者のオミクロン株症例における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の日数別推移
無症状者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の診断からの日数別推移。赤線は中央値と四分位範囲を示す。
表. 無症状者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA検出症例数および割合と分離可能症例数および割合(診断からの日数別)
診断からの日数 |
RNA検出症例数および割合n (%) |
分離可能症例数および割合 n (%) |
0-5日目 |
14/16 (87.5) |
9/16 (56.3) |
6-7日目 |
11/13 (84.6) |
2/13 (15.4) |
8-11日目 |
15/18 (83.3) |
0/18 (0) |
12日目以降 |
5/15 (33.3) |
0/15 (0) |
【考察】
本報告では、無症状者のウイルス排出期間を検討した。無症状者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断後経時的に減少傾向であった。診断8日目以降もRNAは持続的に検出されたが、ウイルス分離可能な症例は診断6日目以降に減少し、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例は認めなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことや、無症状者においては状況によって診断されるタイミングが大きく異なることから、本結果のみで無症状者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難である。ただし、診断6日目以降、ウイルス分離可能な症例が漸減していき、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例が検出されなかったことから、無症状者における感染性ウイルス排出の可能性は、診断6日目から8日目にかけて大きく減少していくことが示唆された。
本報告の制限として、症例数が少ないこと、無症状者は診断される状況によって感染から診断まで時間が異なる可能性があるということ、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことなどが挙げられる。
注意事項
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謝辞
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
大阪市立総合医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、成田赤十字病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター