2022年2月15日

端緒

新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける成人(20歳以上)を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施している。これまでの暫定報告においては、我が国における新型コロナワクチン導入初期に流行したB.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性(vaccine effectiveness)を示すことが確認された4-5。しかし、海外の報告によると、2回接種により獲得した免疫が半年程度で減衰することが確認されており6-8、国内でも2021年12月から3回目の接種(ブースター接種)が開始となった。また、2021年11月末以降に出現し、世界各地に急速に流行拡大した感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されるB.1.1.529系統(オミクロン株)については、デルタ株を含む過去の流行株に比してワクチンの有効性が減弱している可能性が指摘されている9-10。そこで、今回は、関東において上旬にはオミクロン株が9割以上を占め、下旬にはほぼ全ての検出株がオミクロン株であったと想定される11-12、2022年1月3日以降の調査における暫定結果を報告する。

方法

2022年1月3日から31日までに関東の複数医療機関の発熱外来等を受診した成人(20歳以上)を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含むアンケートを実施した。除外基準である未成年者、意識障害のある者、日本語でのアンケートに回答できない者、直ちに治療が必要な者、本アンケート調査に参加したことのある者には調査参加の打診を行わなかった。のちに各医療機関で新型コロナウイルス感染症の診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類した。発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析を行うこととした。

ワクチン接種歴については、(1)未接種、(2)1回接種後、(3)2回接種後0-2ヶ月(0-60日)、(4)2回接種後2-4ヶ月(61-120日)、(5)2回接種後4-6ヶ月(121-180日)、(6)2回接種後6ヶ月以降(181日以降)、(7)3回(ブースター)接種後の7つのカテゴリーに分けた。解析に際してワクチンの種類は区別しなかった。ロジスティック回帰モデルを用いてオッズ比と95%信頼区間(CI)を算出し、ワクチン有効率は(1-オッズ比)×100%で推定した。多変量解析における調整変数としては、先行研究等を参照し、年代、性別、基礎疾患の有無、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1ヶ月の新型コロナウイルス検査の有無、3ヶ月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴の有無をモデルに組み込んだ。ワクチン有効率においては、多変量解析から得られた調整オッズ比を使用した。ワクチン接種歴等について、欠損値のある者は本解析では除外した。

本調査は国立感染症研究所および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された(国立感染症研究所における審査の受付番号1332)。

結果

関東の13医療機関において、発熱外来等を受診した成人1755名が本調査への協力に同意した。うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した69名、症状のなかった334名を除外して解析した(図1)。

71 fig1

図1.フローチャート

*37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状

 

解析に含まれた1352名(うち陽性547名(40.5%))の基本特性を表1に示す。年齢中央値(範囲)35(20-92)歳、男性686名(50.8%)、女性665名(49.2%)であり、何らかの基礎疾患を342名(25.3%)で有していた。また、ワクチン接種歴については表2に示しており、未接種者は213名(16.0%)、1回接種した者は16名(1.2%)、2回接種した者は1077名(81.1%)、3回接種した者は22名(1.7%)であった(ワクチン接種歴の欠損24名を除く)。接種日まで判明している者において、3回接種からの期間は中央値(範囲)16(3-37)日であった。なお、ワクチン接種歴のある1115名中、回答のなかった52名を除いて466名(43.8%)がワクチン接種記録書等の原本や写真等を携帯しており、597名(56.2%)はカレンダーや手帳を見ながらアンケートを回答した。

 

表1.研究対象者の基本属性

 

全体 (n=1352)

n (%)

検査陽性者 (n=547)

n (%)

検査陰性者 (n=805)

n (%)

年代

20代

425 (31.4)

212 (38.8)

213 (26.5)

30代

395 (29.2)

146 (26.7)

249 (30.9)

40代

271 (20.0)

106 (19.4)

165 (20.5)

50代

146 (10.8)

56 (10.2)

90 (11.2)

60代

68 (5.0)

19 (3.5)

49 (6.1)

70代以上

47 (3.5)

8 (1.5)

39 (4.8)

性別(記載なし1)

男性

686 (50.8)

274 (50.2)

412 (51.2)

女性

665 (49.2)

272 (49.8)

393 (48.8)

基礎疾患*あり

 

342 (25.3)

115 (21.0)

227 (28.2)

発症〜検査(日)**

 

1 (1-3)

1 (1-2)

2 (1-3)

濃厚接触歴あり

 

229 (16.9)

139 (25.4)

90 (11.2)

過去1ヶ月間の新型コロナウイルスの検査あり(欠損23)

 

180 (13.5)

73 (13.6)

107 (13.5)

3ヶ月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴あり(欠損33)

 

89 (6.8)

39 (7.3)

50 (6.4)

*高血圧、心臓病、糖尿病、肥満、腎臓病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肥満、がん、免疫不全、免疫抑制剤使用中

 

表2.研究対象者のワクチン接種歴

 

全体

n (%)

検査陽性者

n (%)

検査陰性者

n (%)

ワクチン接種歴(欠損24)

なし

213 (16.0)

122 (22.8)

91 (11.5)

1回

16 (1.2)

7 (1.3)

9 (1.1)

2回

1077 (81.1)

401 (75.0)

676 (85.3)

ワクチンの種類(接種歴ありのみ;欠損22)

ファイザー

616 (56.4)

215 (52.7)

401 (58.5)

モデルナ

455 (41.6)

183 (44.9)

272 (39.7)

種類不明

18 (1.7)

7 (1.7)

11 (1.6)

混合・その他

4 (0.4)

3 (0.7)

1 (0.2)

*中央値(四分位範囲)

 

ワクチン接種歴を接種回数および接種後の期間別で7つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した。未接種者を参照項とする調整オッズ比は、2回接種後0-2ヶ月で0.29 (95%信頼区間(95%CI)0.13-0.64)、2回接種後2-4ヶ月で0.46 (95%CI 0.30-0.71)、2回接種後4-6ヶ月で0.51 (95%CI 0.35-0.75)、2回接種後6ヶ月以降で0.47 (95%CI 0.26-0.84)、3回接種後で0.19 (95%CI 0.06-0.59)であった(表3)。

 

表3.ワクチン接種歴ごとの感染のオッズ比(未接種者との比較)

 

検査陽性者

n

検査陰性者

n

オッズ比

(95%信頼区間)

調整オッズ比*

(95%信頼区間)

未接種

122

91

1

1

1回接種後

7

9

0.58 (0.21-1.62)

0.54 (0.17-1.70)

2回接種後0-2ヶ月

11

42

0.20 (0.10-0.40)

0.29 (0.13-0.64)

2回接種後2-4ヶ月

95

172

0.41 (0.28-0.60)

0.46 (0.30-0.71)

2回接種後4-6ヶ月

223

335

0.50 (0.36-0.68)

0.51 (0.35-0.75)

2回接種後6ヶ月以降

43

95

0.34 (0.22-0.53)

0.47 (0.26-0.84)

3回接種後§

5

17

0.22 (0.08-0.62)

0.19 (0.06-0.59)

*年代、性別、基礎疾患の有無、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1ヶ月の新型コロナウイルス検査の有無、3ヶ月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴の有無で調整

†1回のみ接種した者

‡3回接種していない者のみ

§接種からの期間を問わない

 

調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出したところ、2回接種0-2ヶ月後では71% (95%CI 36-87)、2回接種2-4ヶ月後では54% (95%CI 29-70)、2回接種4-6ヶ月後では49% (95%CI 25-65)、2回接種6ヶ月以降では53% (95%CI 16-74)、3回接種後では81% (95%CI 41-94)であった(表4、図2)。

 

表4.ワクチン有効率(暫定値)

 

有効率(95%信頼区間)

1回接種後*

46 (-70-83)

2回接種後0-2ヶ月

71 (36-87)

2回接種後2-4ヶ月

54 (29-70)

2回接種後4-6ヶ月

49 (25-65)

2回接種後6ヶ月以降

53 (16-74)

3回接種後

81 (41-94)

*1回のみ接種した者

†3回接種していない者のみ

‡接種からの期間を問わない

 

図2.ワクチン有効率(暫定値;過去の報告の推定値も含む)

71 fig1

考察

本報告では2022年1月のオミクロン株流行期におけるワクチンの有効性を検討した。オミクロン株流行期においては、2回接種後でも、2ヶ月以降では有効率が一定程度低下していた。一方で、3回(ブースター)接種を受けた者は数が少ないものの、ブースター接種によりオミクロン株感染による発症予防効果が高まる可能性が示された。

諸外国の報告として、英国からの報告では、オミクロン株感染による発症に対する、ファイザー社製またはモデルナ社製のワクチンを接種した者では2回接種2-4週後は有効率が65-70%であったが、25週後には10%程度まで低下したが、ブースター接種2-4週後は有効率が60-75%と高まった9。米国からの報告では、mRNAワクチン(ファイザー社製またはモデルナ社製)3回接種と未接種の比較では、有効率はデルタ株で93.5%(95%信頼区間(95%CI)92.9-94.1%)、オミクロン株で67.3%(95%CI 65.0-69.4%)であった10。本報告でのワクチン有効率は、信頼区間は広いものの、点推定値は、これら諸外国の報告よりも高い値であった。

諸外国や本報告の結果からは、2回接種から期間が経過すると有効率が一定程度低下することが示唆されるため、ワクチン接種者においても、適切な感染対策を継続することがより一層重要となっている。ただし、本報告からはオミクロン株流行期においても2回接種でもワクチンによる発症予防効果は一定程度認められることが示唆され、重症化予防効果は海外の報告からは発症予防効果よりも高い値で維持されることが報告されており、未接種者は速やかに接種を検討することが重要である9。さらに、ブースター接種により、ワクチン有効率が高まることから、ブースター接種が可能になった際には接種を検討することも重要となる。

本調査は迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であり、また、英国からの報告ではブースター接種から一定期間経過すると有効率が低下する可能性が示唆されており9、今後も解析を適宜行い、経時的に評価していくことが重要である。

制限

本調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、1つ目に交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。特にワクチン接種歴については、ワクチン接種記録書等の原本や写真を携帯している者は4割程度であり、カレンダーや手帳をみながら回答する者が多かった。2つめの制限として、ワクチンの接種が進むにつれて、ワクチン接種者とワクチン未接種がワクチン接種歴以外の部分で異なる可能性が高くなる。また、ブースター接種は医療従事者や高齢者から優先的に開始されたため、未接種者との比較は解釈により注意が必要である。3つ目の制限として、ワクチン接種歴等について欠損値のある者は本解析では除外している。ただし、ワクチン接種回数や接種月が不明であった者は85名(6.3%)であり、影響は限定的であると考えられる。4つ目の制限として、今回の調査はアンケートに回答可能な軽症例を対象としており、無症状病原体保有者・中等症例・重症例・死亡例における有効性を評価しておらず、ワクチンの種類ごとの有効性は評価していない。5つ目の制限として、本研究では陽性例についてウイルスゲノム解析を実施していない。ただし、オミクロン株流行期における解析であり大部分はオミクロン株への感染であったとの想定のもとで実施している。6つ目の制限として、サンプルサイズの制約から期間別の有効率の信頼区間が広い。特に3回目接種後の詳細な期間別の発症予防効果については今後の検討課題である。

参考文献

  1. Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. doi:10.1056/NEJMoa2034577
  2. Baden LR, El Sahly HM, Essink B, et al. Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416. doi:10.1056/NEJMoa2035389
  3. Voysey M, Clemens SAC, Madhi SA, et al. Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet. 2021;397(10269):99-111. doi:10.1016/S0140-6736(20)32661-1
  4. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第一報).国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10614-covid19-55.html
  5. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第二報):デルタ株流行期における有効性.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10757-covid19-61.html
  6. Chemaitelly H, Tang P, Hasan MR, et al. Waning of BNT162b2 Vaccine Protection against SARS-CoV-2 Infection in Qatar. N Engl J Med. 2021;NEJMoa2114114. doi:10.1056/NEJMoa2114114
  7. Goldberg Y, Mandel M, Bar-On YM, et al. Waning Immunity after the BNT162b2 Vaccine in Israel. N Engl J Med. 2021;10.1056/NEJMoa2114228. doi:10.1056/NEJMoa2114228
  8. Tartof SY, Slezak JM, Fischer H, et al. Effectiveness of mRNA BNT162b2 COVID-19 vaccine up to 6 months in a large integrated health system in the USA: a retrospective cohort study. Lancet. 2021;398(10309):1407-1416. doi:10.1016/S0140-6736(21)02183-8
  9. UK Health Security Agency. Investigation of SARS-CoV-2 variants: technical briefings. https://www.gov.uk/government/publications/investigation-of-sars-cov-2-variants-technical-briefings
  10. Accorsi EK, Britton A, Fleming-Dutra KE, et al. Association Between 3 Doses of mRNA COVID-19 Vaccine and Symptomatic Infection Caused by the SARS-CoV-2 Omicron and Delta Variants. JAMA. 2022;10.1001/jama.2022.0470. doi:10.1001/jama.2022.0470
  11. 東京都総務局総合防災部防災管理課.東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議・分析資料.https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1013388/index.html
  12. 厚生労働省.アドバイザリーボード資料.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000892298.pdf

注意事項

迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。

 

国立感染症研究所 感染症疫学センター 新城雄士 有馬雄三 鈴木基

クリニックフォア田町 村丘寛和

KARADA内科クリニック 佐藤昭裕

公立昭和病院 大場邦弘

聖路加国際病院 上原由紀 有岡宏子

新宿ホームクリニック 名倉義人

インターパーク倉持呼吸器内科 倉持仁

中鉢内科・呼吸器内科クリニック 中鉢久実

複十字病院 野内英樹

日本赤十字社医療センター 上田晃弘

横浜市立大学付属病院 加藤英明

池袋メトロポリタン・クリニック 沼田明

埼玉医科大学総合医療センター 岡秀昭 西田裕介

埼玉石心会病院 石井耕士 大木孝夫

国際医療福祉大学成田病院 加藤康幸

町田駅前内科クリニック 伊原 玄英

(公表可能な医療機関のみ)

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan