注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年8月5日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で18,502,486例(700,368例)、190カ国・地域(集計方法変更:海外領土が本国分に計上)に広がった。
国内では、厚生労働省からの報道発表によると、2020年8月5日0時現在、新型コロナウイルス感染症のPCR検査陽性者41,129例、死亡者1,022例と報告されている。PCR検査実施人数は897,340例であった。
本稿では、2020年2月1日に新型コロナウイルス感染症が指定感染症となった以降、第31週(2020 年8 月5 日)までに感染症発生動向調査(NESID)へ届け出られた29,601 例(患者25,802例、無症状病原体保有者3,764例、感染症死亡者の死体35例)(以下、症例という)に関する記述疫学および予備的なリスク状況について解説するものである。なお、本症については、サーベイランスシステムが届出に対応可能となった以降に届け出られ、第31週時点でも届出を継続している自治体からの情報のみ反映されていることから、国や自治体の報道発表情報と必ずしも一致しておらず、注意が必要である。すなわち、以後の情報はNESIDに届け出られた症例全体の内訳であり、また、自治体による確認が行われていない報告は含められていない。 |
また、令和2年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、8月5日現在、移行可能な自治体から順次、移行がおこなわれているところである。厚生労働省においては、今後の統計情報の集計等については、HER-SYSに入力された情報に基づいて行うことを基本とするとしている。本稿では、集計可能なNESIDに対する届出情報のみが対象であり、HER-SYSのみへの届出情報は含まれていない点で注意が必要である。
症例の性別は、男性16,901例、女性12,697例、不明2例、その他1例(男女比1.3:1)であり、男性に多かった。年齢の中央値は39歳(範囲0~105)であった。年代別分布は10歳未満508例(1.7%)、10代947例(3.2%)、20代8,153例(27.5%)、30代5,226例(17.7%)、40代4,079例(13.8%)、50代3,836例(13.0%)、60代2,556例(8.6%)、70代2,218例(7.5%)、80代1,468例(5.0%)、90代以上610例(2.1%)であった。
届出時点の主な症状(重複あり)は、発熱21,397例(72.3%)、咳11,518例(38.9%)、咳以外の急性呼吸器症状2,389例(8.1%)、重篤な肺炎1,228例(4.1%)であった。
届出都道府県は、東京都14,022例、大阪府4,116例、神奈川県2,716例、千葉県1,173例、埼玉県1,153例、北海道1,058例、福岡県840例、兵庫県728例、愛知県528例、京都府364例、石川県300例、富山県226例、茨城県169例、岐阜県155例、広島県155例、群馬県149例、沖縄県141例、静岡県137例、宮城県115例、滋賀県99例、福井県98例、奈良県90例、新潟県83例、福島県82例、愛媛県82例、長野県76例、高知県76例、山形県67例、栃木県66例、和歌山県66例、大分県60例、佐賀県49例、山梨県46例、三重県46例、熊本県46例、山口県37例、青森県31例、島根県29例、香川県27例、岡山県25例、長崎県21例、宮崎県17例、秋田県16例、鹿児島県12例、徳島県6例、鳥取県3例であった。
NESID上、8月5日現在、全都道府県で緊急事態宣言の解除が行われるまで(5月25日)、報告数については4月9日(660例)、発症数については4月1日(433例:発症日の判明している症例のみ)をピークとする流行がみられた(図1、図2)。また、6月中旬から、報告数及び発症数の増加が認められており、再び警戒が必要な時期を迎えている(図1、図2)。6月中旬からの増加は、主に大都市及びその周辺自治体における20代~30代を中心としているとNESID上からも考えられたが、同様の増加が地方都市でも生じ始めてきた。図3は、第26~31週に診断された患者及び感染症死亡者の死体についての診断週別・業種別届出数である。第26週(432例)と第31週(3,119例)を比較すると、「接待を伴う飲食業」(ホストクラブ、キャバクラ、スナック、バー等)は54例(13%)から110例(4%)と、届出数は増加したが、それぞれの診断週における届出数に占める割合は減少した。一方、「その他の職業」(接待を伴う飲食業、風俗、飲食業・接客業、医療・福祉関係を除く自営業、会社員、公務員等)は128例(30%)から1,081例(35%)と、届出数、割合ともに増加した。8月5日現在、報告数が再度増加し始めた6月中旬と比べると、様々な業種に広がっている。なお、図1、図2及び図3については、今後の報告により直近の症例が追加されていくため、解釈には注意が必要である。また、NESID報告数を取りまとめた本稿は、HER-SYS導入以降、過小評価になっており、特に7月以降、厚生労働省報告とNESID報告数の乖離が大きくなってきている。今後、NESIDを用いた国内の新型コロナウイルス感染症の詳細な分析は不可能になったと考えられ、法に基づくサーベイランスからの情報還元が困難な状況となった。
国内での行政対応については、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に従い、国民の生命を守るため、感染者数を抑えること及び医療提供体制や社会機能を維持することが重要とされ、「三つの密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、積極的疫学調査等によるクラスターの発生の封じ込めが現在も推進されている。3月中旬から5月中旬に認められた報告数の増加は、一旦落ち着いたことから、全都道府県で緊急事態宣言の解除が行われ(5月25日)、全国を対象に県境を越える移動自粛が全面的に解除された(6月19日)。しかし、現在、再び報告数(図1)、発症数(図2)、入院治療等を要する者の数(うち重症者の数)及び死亡者数(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1)等の増加を認めていることから、各自治体では、前回の流行の経験をもとに、各地域の流行状況に合わせた対応を実施している。
●新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年8月5日版) |
国立感染症研究所 感染症疫学センター |