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福岡県新型コロナウイルス感染対策調査:介護・福祉施設等における課題

(IASR Vol. 42 p201-203: 2021年9月号)

 
はじめに

 介護・福祉施設等では, 共同生活ならびに認知・身体機能の維持を目指した活動を行うため, 3密を完全に避けることは困難である。さらに, マスク着用を遵守できない利用者も一定数いるため, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播が起こりやすい環境である。実際に福岡県内の介護・福祉施設等では, 第3波と称される2020年12月~2021年3月までに64件(計1,144人)のクラスターが発生しており, 迅速かつ抜本的な対策が求められている。今回, 福岡県医師会が主体となり, 福岡県保健医療介護部とともに県内の医療機関ならびに介護・福祉施設等における感染対策の実情を評価し, 講じるべき対策を検討するためにアンケート調査を行った。

方 法

 2020年12月14日~2021年1月6日の期間, 外来部門, 病棟体制, 患者の健康管理・検査基準, 職員の健康管理・検査基準, 面会対応, 職員の患者・入所者対応, エアロゾル発生処置への対応, 対策マニュアルの策定や教育, その他の9項目(計75設問)で構成された質問紙を用いたアンケート調査を実施した。47重点医療機関ならびにランダムに抽出した230介護・福祉施設等を対象とし, 質問紙を送付した。介護・福祉施設等は, 高齢者施設, 入所系介護サービス事業所, 重症心身障害児(者)施設と定義した。得られた回答を医療機関と介護・福祉施設等の2群に分け, カイ2乗検定もしくはフィッシャーの正確確率検定を用いて2値変数を比較した。P値<0.05を統計学的有意と定義した。

結 果

 アンケート回収率は22.4%(62/277施設)であり, 回答のあった62施設(うち19医療機関, 43介護・福祉施設等)を対象とし, 23設問を抜粋し解析を行った。外来部門(デイケアやリハビリを含む)における訪問者への対応(体温測定, マスク着用, 手指消毒)や職員の対策(マスク着用, 手指消毒)の実施率は, 医療機関ではすべて100%であったが, 介護・福祉施設等では74-86%であった()。介護・福祉施設等での原則面会禁止の実施率は63%であり, 入所者に対するマスク着用の依頼も30%に留まっていた。入院・入所時にPCR検査もしくは抗原検査を全例実施している割合は医療機関, 介護・福祉施設等ともに低く, それぞれ5%であった。医療機関と比較し, 介護・福祉施設等のPCR・抗原検査の実施率は特に低く, 入所時/前の発熱者に対しては79%vs12%(P<0.001), 入所中の発熱者に対しては58%vs14%(P=0.001)であった。同様に, 職員が発熱した際のPCR・抗原検査の実施率も低く(79%vs47%, P=0.018), 食事, 更衣室, 休憩室におけるマスクを外した職員間の会話の自粛も劣っていた(95%vs72%, P=0.043)。さらに, 口腔内診察時の目の防護(79%vs26%, P<0.001)や, エアロゾルが発生する手技時のN95マスク着用(63%vs9%, P<0.001)の実施率も低かった。介護・福祉施設等では, 個人防護具の訓練実施率も低く医師(84%vs5%, P<0.001)や看護師(95%vs35%, P<0.001), 地元医師会と連携している施設(47%vs12%, P=0.006)は少なかった。注目すべきことに, 介護・福祉施設等において, 喀痰吸引をエアロゾルが発生する処置と認識しているのは44%(19/43施設)であった。

考 察

 本調査では, 医療機関と比し, 介護・福祉施設等における感染対策の脆弱性を示唆する結果が明らかとなった。特に介護・福祉施設等における有症状者(入所者や職員)に対するPCR・抗原検査実施率の低さ, および平時における適切な個人防護具の選択率の低さが浮き彫りとなった。

 まず, 今回明らかとなった問題点は, 介護・福祉施設等におけるPCR・抗原検査実施率の低さである。早期発見・隔離を行ううえで検査は欠かせないものであり, 介護・福祉施設等では, 有症状者(デイケア利用者, 入所者, 職員)に対するPCR・抗原検査をより積極的に行える体制を整備すべきであると考える。さらに, 有症状者に注目した水際対策のみならず, 無症状者からの感染を考慮した平時からの感染対策の強化・徹底が重要であるが, 今回の調査では, 平時における介護・福祉施設等の対策の実施率も低いことが判明した。すなわち, マスクを着用していない利用者のケア時に目を防護することや, エアロゾル発生手技時にN95マスクを利用すること等の実施率が低く, 無症状の感染者が施設内に紛れ込む可能性を念頭に置いた対策が不十分であると考えられる。そのため, マスク着用が困難な利用者が一定数いるという施設の特徴を理解したうえで, 感染拡大を最小限に抑えるために, 職員が平時から適切な個人防護具を選択するという教育が必要であると考える。また, 飛沫やエアロゾルへの対応のみならず, 便も感染性があるという認識を持ち1), オムツ交換時に標準予防策を徹底する必要もある。さらに, 施設内アウトブレイクの37%は職員が発端であるとの報告もある通り2), マスクを外した職員間の会話自粛や私生活での行動制限等, 職員に対する教育とその遵守も重要である。

 次に, 今回対象とした医療機関は, COVID-19診療にあたっている感染対策に長けた医療機関である。しかし, 第3波と称される感染拡大時期の調査にもかかわらず, 入院中の患者に対するPCR・抗原検査の実施(58%), 有熱者/有症状者の推移の把握(32%), マスク未着用患者への対応時の目の防護(47%), エアロゾル発生手技時のN95マスク着用(63%)等, 感染症病棟以外の一般病床/救急病床における対策には医療機関差があることが判明した。さらに, 会食の禁止や人数制限(68%), リスクの高い場所の利用制限(58%)等, 職員の日常行動への指導にも差があった。重点医療機関でのクラスター発生は, 救急車やCOVID-19患者の受け入れ制限等を招き, 地域における医療提供体制に大きな影響を与えかねない。よって, 特に感染が拡大している時期には, 医療機関においても, 感染者の早期発見ならびに感染の拡大防止を念頭に置いた対策をより強化する必要があると考える。

 福岡県としてこれまでも, 介護・福祉施設等に対して, 職員対象のPCR検査事業(2020年12月~2021年3月に105,813件実施), 福岡県看護協会による感染管理認定看護師の訪問(83施設訪問), 厚生労働省作成「施設内感染対策自主点検チェックリスト」の送付, 感染症発生時の専門家派遣や研修用動画の公開等3)の支援を行ってきた。しかし, 施設でのクラスター発生状況や本調査結果を加味すると, さらなる対策を講じる必要があると考える。高齢者施設等だけでも県内に約2,800施設あることを勘案すると, 重症化リスクの高い高齢者をCOVID-19から守るために, 直接訪問以外の効率的かつ効果的な対策が急務であると考えられる。本調査結果を受けて, 2021年4月に急遽, 感染対策に関するオンライン説明会を開催し(約600施設, 1,000人参加), 5月以降, 緊急事態宣言中の施設職員に対するPCRスクリーニング検査頻度を月1回から週1回に増やすことを決定した。今後も, 市区町村や郡市医師会とも協力し, 介護・福祉施設等へのワクチン優先配布, 市町村の保健師との連携等, 新たな一手を次々に打つ必要があると考える。

 

参考文献
  1. Sethuraman N, et al., JAMA 323(22): 2249-2251, 2020
  2. Hashan MR, et al., EClinicalMedicine 33: 100771, 2021
  3. 福岡県, 新型コロナウイルス感染症患者が発生した場合の介護施設等での対応(管理者編・職員編)
    https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/douga.html

飯塚病院感染症科           
福岡県新型コロナウイルス感染症調整本部
 的野多加志             
福岡東医療センター          
 黒岩三佳              
福岡県新型コロナウイルス感染症調整本部
福岡東医療センター          
福岡県医師会             
 上野道雄              
福岡県医師会             
 吉武友裕 松田峻一良        
福岡県保健医療介護部         
 若藤繁裕 佐野 正 白石博昭

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