沖縄県における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の家庭内感染
(IASR Vol. 41 p173-174: 2020年9月号)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)アウトブレイクの8割が家庭内感染との報告があり1), 同居家族の感染防止が重要であるとされている。沖縄県では2020年2月14日にCOVID-19患者が初めて確認され, 5月31日までに米軍関係者や県外診断例を除き, 142人の患者が確認された。今後の家庭内二次感染の発生防止の一助とするため, 本県における5月31日までのCOVID-19の家庭内感染事例についてまとめた。
方 法
沖縄県で調査期間中に確認されたCOVID-19患者142人のうち, 同居家族を持ち, 家庭内で最初に発症した78人(78世帯)と, その家庭内接触者174人(家庭内二次発症者含む)を解析の対象とした(図)。患者情報等は, 県内各保健所の積極的疫学調査により得られた調査票, 医療機関より提出された検査票から収集した。得られた情報を基に, 家庭内二次発症者が発生した世帯と発生しなかった世帯の特徴の比較, 家庭内接触者の属性や特徴ごとの二次発症率の比較を行った。
結 果
家庭内接触者の二次発症率は, 12.1%(21/174)[95%信頼区間(CI)7.6-17.9]であった。
家庭内初発例78人のうち, 家庭内二次感染の感染源となった患者(感染源)が18人, 感染源とならなかった患者(非感染源)は60人であった。年齢中央値(範囲)は, 感染源が54歳(21-82歳), 非感染源が49.5歳(20-83歳)であった。世帯構成人数は, 二群とも2人家族がそれぞれ全体の約4割を占めていた。感染源の症状は, 発熱17例(94.4%), 咳嗽13例(72.2%), 上気道症状6例(33.3%)であり, 非感染源との二群間に明らかな症状の割合の違いは認めなかった。発症から検体採取までの日数の中央値(範囲)は, 感染源が4日(1-10日), 非感染源が5日(0-16日)であり, 発症から入院または隔離までの日数の中央値(範囲)も, 感染源が6.5日(3-12日), 非感染源が7日(0-18日)と, 明らかな差を認めなかった。検体のcycle threshold(Ct)値の中央値(四分位範囲)は, 感染源の上気道検体が25.1(19.8-30.5), 下気道検体が22.6(19.7-26.1), 非感染源がそれぞれ24.8(20.5-30.2), 24.6(20.3-35.3)と, 検査結果も明らかな違いは認められなかった(Ct値の解析は当所以外で検査診断された6例を除く)。
家庭内接触者174人について, 各特性における二次発症率を表に示した。年齢群別の家庭内二次発症率は70歳以上が40.9%と最も高く, 10代と比較して有意に高かった(リスク比7.98 [95%CI, 1.89-33.68])。続柄別では, 子供の二次発症率は両親や配偶者と比較して有意に低かった(リスク比0.20[95%CI, 0.05-0.78])。家族構成は, 2人家族の家庭内二次発症率が25.8%と高く, そのうち62.5%(5/8人)が配偶者同士, 25%(2/8人)が親への感染であった。基礎疾患有りの二次発症率は36.0%と, 基礎疾患無しの11.9%より有意に高かった(リスク比3.03[95%CI, 1.44-6.38])。基礎疾患有りの二次発症者は, 70歳以上が55.6%(5/9人)であった一方, 基礎疾患無しは70歳以上が33.3%(4/12人)であった。初発例が50代からの二次発症率が25.9%と最も高く, 続いて30代(22.2%), 70歳以上(15.6%)であった。初発例の発症から入院までの期間が0-3日の家庭内二次発症率は4.5%, 4-5日が19.4%, 6日以降が11.2%であった。
また, 家庭内二次発症者21人の発症時期は, 感染源の発症から2-3日が33.3%, 4-5日が19.0%と, 5日以内が全体の52.4%を占めた。
まとめ
本県におけるCOVID-19アウトブレイクの家庭内二次発症率12.1%は, 諸外国から報告されている割合(台湾4.6%, アメリカ10.5%, 韓国11.8%, 中国17.2%)2-5)の範囲内であった。
家庭内接触者への感染源となった患者と, ならなかった患者との比較では, 患者の特性や検査結果に統計的な有意差は認めなかった。一方, 家庭内接触者の特性ごとの二次発症率の比較から, 高齢者と基礎疾患を有する人が発症のハイリスク群であると示唆された。また, 高齢の配偶者同士, 30~50代の配偶者同士やその親世代への二次感染リスクが高いと考えられた。今回, 家庭内初発例に20歳未満がいなかったため, 子供からの二次感染リスクについては不明である。一方, 調査期間中多くの学校は閉鎖されており, 子供は自宅にいたと考えられるが, 子供の家庭内二次発症者が少なかったことは特筆すべきことである。
家庭内二次発症者は感染源の発症から5日以内に約半数が発症していることから, 感染源の発症初期に既に家庭内で二次感染が成立していると考えられた。本結果は, 初発例の発症初期に濃厚接触者への感染リスクが高いという先行研究と同様の結果であった2)。一方で, 初発例の発症日から入院隔離までの期間が3日以内の場合は家庭内接触者の二次発症率が低い傾向にあることから, 同居者は感染者と早めに接触を避けることで二次発症を抑えることができる可能性が示唆された。家庭内での感染拡大を防ぐために, 濃厚接触者への初期スクリーニングによる速やかな感染有無の把握に加え, 確実な健康観察の実施や, 可能な限り同居者(特にハイリスク者)と接触を回避するなど, 家庭内で実施可能な感染予防策を講じる必要があると考えられた。
今回, 家庭内の曝露様式は一様であることが前提であり, また緊急事態宣言により人の行動が制限されていたことは本結果を解釈するうえで注意すべき点である。また, 濃厚接触者全例に検査を実施していないため, 軽症者や無症状病原体保有者が存在している可能性があり, 今後も引き続き検討が必要である。
謝辞:今回のCOVID-19アウトブレイク対応にご尽力いただいた県内各保健所や各医療機関をはじめとする多くの関係者の皆様に深謝いたします。
参考文献
- WHO, Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)
https://www.who.int/publications/i/item/report-of-the-who-china-joint-mission-on-coronavirus-disease-2019-(covid-19), (Accessed 17 July 2020) - Cheng HY, et al., JAMA Intern Med, e202020, 2020
- Burke RM, et al., MMWR 69 (9): 245-246, 2020
- Park YJ, et al., Emerg Infect Dis 26 (10), 2020
- Jing QL, et al., Lancet Infect Dis: S1473-3099 (20) 30471-0, 2020