新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株の分類方法の変更について
2024年11月8日更新
国立感染症研究所
国立感染症研究所では、これまで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について、世界保健機関(WHO)による分類方法に基づき、「懸念される変異株(VOC)」、「注目すべき変異株(VOI)」、「監視下の変異株(VUM)」に分類してきた。
2020年12月にアルファが出現して以降、様々な変異株が出現し、置き換わりを見せたが、2022年11月以降はオミクロンが主流であり、亜系統の中で置き換わりが続いている。この間、その免疫逃避に関する変異は続いている一方で、重症化や感染性の増大といった、公衆衛生上のリスクを引き起こす亜系統は出現していない。
WHOはその変異株の分類において、感染者数増加の優位性及び遺伝子変異をもとにVUM、VOIへの指定を行い、公衆衛生上のリスクが明らかとなった場合にVOCに指定する体制をとっており、今後はオミクロンと比較して公衆衛生上のリスクがある場合のみVOCに指定し、新規の名称を提起する方針としている。
一方、日本国内においては、新型コロナウイルス感染症が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」の5類感染症に位置付けられて以降も、厚生労働省における感染症発生動向調査(ゲノムサーベイランス)と入国時感染症ゲノムサーベイランスの実施に基づき、国立感染症研究所では、新規に出現した亜系統やその割合、感染者数増加の優位性及び遺伝子変異を常に監視・評価している。さらに、評価の結果、公衆衛生上のリスクが上昇する懸念がある、またはワクチン選定に影響を及ぼす可能性があるとされる亜系統については、厚生労働省へ迅速に情報提供をする体制が整えられているところである。
これらを背景に、今後国内における変異株の分類および監視方法については、以下のとおりとする。
- 厚生労働省における感染症発生動向調査(ゲノムサーベイランス)および入国時感染症ゲノムサーベイランスを通じて、国立感染症研究所では、国内外における感染者数増加の優位性や公衆衛生上のリスクが想定される亜系統に対する監視体制及び評価と、厚生労働省への迅速な報告体制を、引き続き維持する。
- 国立感染症研究所における監視・評価の結果、オミクロンと比較して公衆衛生上のリスクが上昇する懸念がある、またはワクチン選定に影響を及ぼす可能性がある亜系統については、科学的知見をとりまとめ、厚生労働省と連携し、引き続き、必要に応じてその内容を公表する。
- WHOの分類に基づくVOC、VOI、VUMの国立感染症研究所による国内での分類については、当面の間、実施しないものとする。
※参考:WHOにおけるSARS-CoV-2変異株の分類定義と対応
https://www.who.int/publications/m/item/updated-working-definitions-and-primary-actions-for--sars-cov-2-variants
※ VariantのPango系統やNextstrainクレードといった分類が複雑で覚えにくく、初めて報告された地名などが呼称として使用されていることが、差別や偏見につながることも懸念して、2021年5月より、WHOは代表的なvariantに対してギリシャ文字の呼称を定めている。これまで”variant”の訳語として「変異株」、WHOが呼称を定めたvariantについてそれを用いて「〇〇株」と称してきた(例:B.1.1.7系統=アルファ株、B.1.1.529系統=オミクロン株)。しかし、B.1.1.529系統が主流となって以降、亜系統が広く分岐し、さらにWHOが用いる呼称で総称される系統・亜系統の抗原性等の性質が多様化しており、遺伝的に同一、又はほぼ均一なウイルスの集合体を示す「株」を、WHOが用いる呼称に対応して用いることが適さなくなってきている。そのため、WHOが呼称を定めた各variantについて「アルファ」「オミクロン」のように表現することとした。
なお、「〇〇株」は一般に広く使用されている用語となっており、通称として引き続き用いることを妨げるものではない。
● 国立感染症研究所が公表している新規変異株に関する報告
● 変異株に関する疫学調査
● 国立感染症研究所のゲノム解析の実施状況及びPANGO系統別検出状況