国立感染症研究所

国立感染症研究所実地疫学研究センター
掲載日:2022年1月13日

国立感染症研究所実地疫学研究センターでは、主に同センター内に設置されている実地疫学専門家養成コース(FETP)を中心に、自治体からの派遣要請あるいは厚生労働省からの依頼に基づき、厚生労働省クラスター対策班として、国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事例に対する自治体の実地疫学調査を支援し、現場のクラスター対策の実施及び疫学的知見を深めるための活動に従事してきた。

2021年11月より新たに世界中で拡大している新型コロナウイルスオミクロン株〔SARS-CoV-2変異株 B.1.1.529系統(以下、オミクロン株)〕については、国立感染症研究所はリスク評価を継続的に発出しており、海外における発生状況、ウイルス学的な性状、臨床像、疫学的所見等を詳細に分析し、国内に向けて情報発信を行ってきた。これらは主に各国関係機関からの公式情報や文献的な情報に基づいている。当センターでは、主に国内感染と考えられるオミクロン株事例に対する調査支援に従事しており、本稿発出時点まで約10程度の自治体内で活動を行ってきた。予備的・暫定的な情報であっても、実地疫学調査により得られた所見は公衆衛生対策を構築する上で重要な手がかりとなることから、自治体と共に実地疫学調査を担当する当センターとして、迅速性に重きを置いた情報発信を行うものである。

これらの情報は、現在も進行中の事例から得られていたり(結果が変わっていく可能性がある)、研究としてデザインされた状況下で得られた知見ではない(観察期間等が一定ではない、オミクロン株が確認されていないがオミクロン株感染症例と疫学的につながりがある症例を含む)などの制限が多数あることに注意が必要である。

潜伏期間

推定曝露日から14日以上経過した集団における感染例のみを解析対象とした場合の潜伏期間について、3つの自治体(うち情報の得られた単独の事例)からの情報を表1に示す。すなわち、比較可能な事例の情報についてまとめたところ、潜伏期間中央値の範囲は2-3日であった。国内でも海外からの報告と同様に、オミクロン株感染例では、従来株やデルタ株感染例と比較し潜伏期間が短縮している可能性が示唆された1, 2)

表1.国内3自治体より得られたオミクロン株潜伏期間

自治体 対象感染者数 中央値(日)[範囲]
A 12 3[1-4]
B 18* 3[2-5]
C 5 2[1-2]

*家族内感染を含む。ただし、家族内感染は二次感染初発例のみ

家庭内二次感染率(家庭内Secondary Attack Rate: SAR)

家庭内SARについては、家族かどうかに関わらず同居者の中での感染例発生割合を算出した。ここでindex case(感染源となったと推定される最初の感染例)は、家庭内症例で最も発症日が早い症例、または当該症例以前に感染性を有する無症状の感染例との疫学的なリンクがあり、家庭にウイルスを持ち込んだことが示唆される症例である。4つの自治体からの結果を表2に示す。オミクロン株の家庭内SARは、従来株、デルタ株と比較して高い可能性が示された3-6)

表2.国内4事例より得られたオミクロン株家庭内二次感染率(SAR)

自治体 検査者数(x) 感染者数(y) SAR(x/y)(%) [95%信頼区間] 観察期間中央値 (日)[範囲]
A 17 6 35[13-58] 全員14日間経過
B 66 21 31[20-47] 全員14日間経過
C 24 11 45[14-76] 全員14日間経過
D 18 8 44[25-66] 6[3-10]

主な制限としては、情報収集時点で同居者濃厚接触者の健康観察期間が終了していない症例を含んでいることから、感染例の発生について過小評価している可能性がある。一方で、家庭内での三次感染以上を含んでいる場合には過大評価されうる。また、ワクチン接種状況、感染対策実施状況を含む曝露状況を考慮した結果ではないことに注意する必要がある。

感染経路

オミクロン株感染で単一曝露など感染経路が確認された事例では、従来株、アルファ株、デルタ株同様、飛沫感染が疑われる感染が多かった。ただし、一部直接的または間接的な接触による感染の可能性や換気の悪い室内でのエアロゾル感染が否定できない感染(感染者用宿泊施設における従業員の感染(表3、事例9)、換気がある程度確保されていた医療機関外来の医療従事者の感染(同、事例10)、屋内作業を密な状況で長時間行った時の感染(同、事例8)、換気が悪い密な飲食店店舗内での感染(同、事例13)、など)が確認された。

感染経路を評価できた事例は少ないものの、エアロゾル感染が疑われた事例の頻度が明らかに増えているわけではなく、従来より認識されていたエアロゾル感染が起こりやすい状況(換気が悪い屋内、密、長時間)以外でのエアロゾル感染疑い事例も確認されていない。引き続き、感染経路を注意深く確認していく必要がある。

注)エアロゾル感染:2m以上離れた長距離間での感染、又は感染者の不織布マスク着用が自己申告と他覚的な確認で確認された状況での感染

表3.感染経路が推定されたオミクロン株新型コロナウイルス感染症の感染事例(13事例)

事例 感染 者数 感染 場所 推定感染経路 備考
1 10 会食 飛沫 自宅での親族との会食
2 13 会食 飛沫 飲食店での親族との会食
3 5 会食 飛沫 飲食店での親族との会食
4 5 会食 飛沫 飲食店での職場同僚との会食
5 6 会食 飛沫 飲食店での職場同僚との会食
6 6 会食 飛沫 飲食店での職場同僚との忘年会
7 7 会食 飛沫 自宅での友人との会食
8 16 職場 飛沫、ただし、 接触や一部のエアロゾル感染は否定できず 職場の密な環境における食事や屋内作業
9 2 職場 接触、ただし、 一部のエアロゾル感染は否定できず 感染者宿泊施設における従業員
10 1 職場 接触 医療機関外来
11 2 職場 飛沫 職場の同僚間
12 15 会食 飛沫 飲食店での友人との会食
13 16 会食 飛沫、ただし、 一部のエアロゾル感染は否定できず 飲食店での友人との会食
参考文献
  1. Lauer SA, et al., Ann Intern Med 172: 577-582, 2020
  2. Grant R, et al., Lancet Reg Health Eur 2021, doi: 10.1016/j.lanepe.2021.100278
  3. IASR 41 (9) : 173-174, 2020
  4. IASR 42 (5) : 104-106, 2021
  5. Madewell ZJ, et al., JAMA Netw Open 3: e2031756, 2020
  6. Ng OT, et al., Lancet Reg Health West Pac 17: 100299, 2021

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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