国立感染症研究所

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ムンプスワクチンの有効性と安全性

(IASR Vol. 34 p. 221-222: 2013年8月号)

 

はじめに
ムンプス(おたふくかぜ、流行性耳下腺炎)はパラミクソウイルス科ルブラウイルス属に属するムンプスウイルスによる全身性ウイルス感染症である。潜伏期間は通常16~18日、2日以上持続する急性耳下腺腫脹が臨床上の特徴である。ムンプス以外にも、化膿性耳下腺炎、反復性耳下腺炎、唾石症など急性耳下腺腫脹をきたす疾患がある。ワクチン歴にかかわらず、ムンプス流行時の急性耳下腺腫脹の多くはムンプスであり、ムンプス非流行時の急性耳下腺腫脹の多くはムンプス以外が原因である1)

本邦ではムンプスワクチンの定期接種化に向けて議論が行われている。ワクチンを定期接種するにあたっては、当該ワクチンの有効性、安全性、医療経済性が容認される必要がある。ムンプスワクチン定期接種化に向け、ムンプスワクチンの有効性、安全性について解説する。

1.ムンプスワクチンの種類
世界と日本の代表的なムンプスワクチン株を表1に示した1,2)。Merck 社の麻疹ムンプス風疹(measles- mumps-rubella, MMR)ワクチンにはLeryl-Lynn(JL)株が、グラクソスミスクライン社のMMRにはJL株由来のRIT-4385株が、Sanofi社のMMRワクチンにはUrabe-AM9株が、インドで製造されているMMRワクチンにはLeningrad-Zagreb(LZ)株が用いられている。本邦ではムンプスワクチンは5株開発されたが、現在市販されているのは星野株と鳥居株の2株である。

2.ムンプスワクチンの有効性
欧米のデータでは、ムンプスワクチンを1回定期接種している国ではムンプス患者数が90%、2回定期接種している国ではムンプス患者数が99%減少している。株を限定せずにムンプス流行時に調べたムンプスワクチンの有効率は、1回接種例では73~91%、2回接種例では79~95%であり、1回接種例と2回接種例が同時に流行に遭遇した時の有効率は、1回接種例66%、2回接種例86%であった2-4)。スイスやスペインでのムンプス流行時に株ごとに有効率を調べた成績では、JL株は62~78%、Urabe 株は73~87%と、Urabe株の方が優れていた。

保育園や小学校での流行時の本邦ムンプスワクチン株の有効率は、79~90%であり、ヨーロッパでのUrabe株の有効率と同等であった1)。また、小学校流行時の星野株と鳥居株の有効率は、それぞれ82.9%、81.4%であった。なお、ワクチンフェーラー例の検討では、鳥居株接種例の方が星野株接種例よりも唾液からのウイルス分離率が高く、鳥居株接種例の方が、ワクチン後の発症時周囲への感染リスクが高いことが示唆されている1)

ムンプスワクチンフェーラー例の多くは二次性ワクチン不全である。自然感染と比べ、耳下腺腫脹期間は短縮し、髄膜炎合併率も低下し、思春期では睾丸炎合併率も低下する5,6)。唾液からのウイルス分離率も自然感染の約1/2 であり、分離期間も短期間であるため、周囲への感染リスクは低減している5)

本邦ムンプスワクチンの集団免疫効果としては、公費助成によりムンプスワクチンの接種率が高くなった市では、公費助成を行っていない市と比べ、ムンプス患者数が有意に減少している。

3.ムンプスワクチンの安全性
ムンプスウイルスは中枢神経系に親和性が高いウイルスであり、自然感染では50%に髄液細胞数の増加が認められ、3~10%が無菌性髄膜炎を発症する。ムンプスワクチンの安全性で問題となるのは無菌性髄膜炎の合併である。世界で使用されている各株の無菌性髄膜炎合併率は、JL株 1/1,000,000、Urabe 株1/28,400~ 1/120,000、LZ株 1/3,390と、JL株が極めて低率である2,3)。一方、本邦の星野株、鳥居株の無菌性髄膜炎合併率は、前向き調査では、それぞれ 1/2,282、1/1,963、市販後調査ではいずれも約1/20,000であり、LZ株と同等である。なお、ムンプスワクチンによる難聴、睾丸炎、脳炎の合併は極めてまれである。

4.世界のムンプスワクチン株の評価
JL株は、安全性は優れているが、MMR ワクチンを2回定期接種している国でも高校生や大学生の間でムンプス流行が発生するなど有効性の面では問題がある株であり、免疫原性の面からはUrabe 株の方が優れている。JL株を用いていては、ムンプスの排除は困難であり、欧米では、JL株の安全性を残したままで、JL株よりも免疫原性に優れたワクチン株の開発を期待する意見がある6)

5.本邦でのムンプスワクチンの接種時期
ムンプスは年少児ほど不顕性感染率が高く、年齢が高くなるにつれ顕性感染率が上昇し、ムンプス髄膜炎やムンプス難聴などの合併症の発症率が増加する7)。ムンプスワクチン後の耳下腺腫脹率を調べた結果では、1歳では0.73%と一番低く、年齢が高くなるにつれ耳下腺腫脹率が増加し、7~10歳では2.58%(1歳とのOR=3.60)であった1)。耳下腺炎を含めた副反応出現率を抑制するためには、初回接種は1歳が適切である。 ムンプスワクチン定期接種化に当たっては、欧米各国と同様に2回接種が予定されている。2回目の接種時期に関しては、本邦のムンプス好発年齢が3~6歳であること、1回目のムンプスワクチン接種率が高くなると、集団免疫率の効果でムンプス発症年齢が6歳よりも高くなると予測されること、MRワクチンが就学1年前に接種されていること、等から、MRワクチンと同時期に接種するのが現実的である。

まとめ
現在のところ、安全性に優れたムンプスワクチン株は免疫原性が劣り、免疫原性が優れたワクチン株は安全性が劣っている。ムンプスの病態やムンプスワクチン後の耳下腺腫脹の結果から、免疫原性の高いワクチン株を、1歳時に初回接種することで安全性を高めることが期待される。

 

参考文献
1) 庵原俊昭, 臨床とウイルス 38: 386-392, 2010
2) Rubin SA, Plotkin SA, Mumps vaccine, In Vaccine, 6th ed, Saunders, Philadelphia, pp419-446, 2013
3) 庵原俊昭, 臨床検査 54: 1339-1344, 2010
4) Cohen C, et al., Emerg Infect Dis 13: 12-17, 2007
5) 庵原俊昭, 臨床とウイルス 36: 50-54, 2008
6) Plotkin SA, Pediatr Infect Dis J 32: 381-382, 2013
7) 庵原俊昭, 小児科 43: 217-222, 2002

 

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