愛媛県における地域流行から検出された新規キメラウイルスGII.P21-GII.1について
(IASR Vol. 38 p.9-10: 2017年1月号)
はじめに
感染性胃腸炎の主な原因であるノロウイルス(NoV)は, 遺伝子変異やゲノム組換えによる新しい変異株の出現を繰り返し, 地域流行や世界的な流行を起こしている。特に, 近年, ORF1とORF2のjunction領域で遺伝子組換えを起こした変異株の流行が報告されている。愛媛県では, 2000年以降報告数の少なかったNoV GII.1が2008/09シーズンに多数検出されたことから, 検出されたGII.1について分子疫学的解析を行い, 新しいキメラウイルスを同定したので報告する。
愛媛県におけるGII.1の流行
2008年10月~2009年9月に, 感染症発生動向調査の小児科定点医療機関等で採取された感染性胃腸炎患者糞便337検体から199例(59.1%)のウイルスが検出され, NoVが102例で最も多く, そのうちGIIが96例で大部分を占めていた。GIIは, 2008年11月~2009年2月に多く検出され, この間に検出されたウイルスの69.6%(102例中71例)を占めていた。この71例の遺伝子型は, GII.4が31例(43.7%), GII.1が24例(33.8%), GII.3が7例(9.9%), GII.6が5例(7.0%), GII.14が2例(2.8%), 型別未実施が2例(2.8%)であった。GII.4は1~2月に集中して検出され, 一方, GII.1は12月が最も多く, 2月まで検出された。GII.1は2004/05および2005/06シーズンに各4例検出されたが, このような多数の検出は, 1999/2000シーズン以降の10年間で認められず, 2008/09シーズンに特異な地域流行と考えられた。
GII.1流行株の分子疫学解析
GII.1に分類された24株について, ORF2のN/S領域の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定して系統樹解析したところ, すべて同一のクラスターを形成し, 塩基配列の相同性は98.9~100%で近縁であった。 次に, このうちの18株について, ORF1のポリメラーゼ領域からORF2のN/S領域を増幅して塩基配列を決定し, 遺伝子型別を行った結果, 18株すべてでポリメラーゼ領域がGII.P21, N/S領域がGII.1のキメラウイルスであることが明らかにされた。さらに, これらの株についてポリメラーゼ領域の遺伝子解析を行うと, 塩基配列の相同性は99.4~100%で, N/S領域と同様に非常に近縁であった。
次世代シークエンサーを用いたGII.1 EH-42/2009株の解析
これらの株の1株については, 次世代シークエンサー(イルミナ社MiSeq)(NGS)を用いてウイルスの全長解析を行い, これまでに報告のないタイプのNoVであることが判明した。NGS解析を行ったEH-42/2009株は, ORF1がNorovirus GII/Hu/JP/2007/ GII.P21_GII.21/Kawasaki/YO284(KJ196284)と塩基配列において高い相同性(94.5%)を示し, 遺伝子型GII.P21と最も近縁であったが, ORF2とORF3は塩基配列の相同性がそれぞれ69.1%, 65.3%と低かった。一方, EH-42/2009株のORF2, ORF3は, 遺伝子型GII.P1-GII.1の代表株であるHawaii/71/US(U07611)のORF2, ORF3と近縁であった。これらの結果より, EH-42/2009株は, 新規キメラNoV GII.P21-GII.1と考えられた(図)。
おわりに
愛媛県において地域流行したNoV GIIは, ORF1のポリメラーゼ領域がGII.21, ORF2 N/S領域がGII.1に型別されたことから, ORF1とORF2のjunction領域で遺伝子組換えを起こしたウイルスであることが示唆された。このうち1株について, NGSによる全長解析を行った結果, ORF1がGII.21, ORF2およびORF3がGII.1で, 新しいGII.P21-GII.1のキメラウイルスであることが明らかにされ, このキメラウイルスの出現が地域流行に関与していたと考えられた。今回の結果は, 従来行われてきたORF2 N/S領域の塩基配列に基づく遺伝子型別だけでなく, ORF1ポリメラーゼ領域を含む広範囲のゲノム解析が重要であることを示している。
謝辞:AMED「下痢症ウイルスの分子疫学と感染制御に関する研究」班, 愛媛県の保健所・医療機関, 国立感染症研究所ウイルス第二部, 同感染症疫学センターの関係者の皆様に深謝いたします。