IASR-logo

輸入例における麻疹ウイルス遺伝子型情報(2015, 2016年)―渡航先および年齢等について

(IASR Vol. 38 p.53-54: 2017年3月号)

2008~2014年までに病原微生物検出情報(病原体サーベイランス)に報告された情報を, 麻疹ウイルスの遺伝子型および渡航歴を中心とした疫学情報に着目し解析しIASR 2015年4月号に「麻疹ウイルス遺伝子型情報(渡航先と年齢について)」として報告した(IASR 36: 57-58, 2015)。今回は2015~2016年に報告されたデータを, 更新情報としてまとめた。なお, 集計は2017年1月4日現在のものであり, 今後, 遅れ報告等により, 数値が若干変動する可能性がある。

 2015年第1週~2016年第52週に病原体サーベイランスに報告された麻疹ウイルス検出症例は147例であった。これは同時期に感染症発生動向調査(NESID)における患者情報として報告された患者数の76%であった。年齢中央値は28歳(範囲0~69), 男性が78例(53%), 女性が68例(46%), 性別不明が1例であった。また, ワクチン接種歴有が33例(22%), 接種歴無もしくは不明が114例(78%) であり, 海外渡航歴有が48例(33%)であった。

以下, 海外渡航歴の記載のある48例について解析を行った。遺伝子型は数の多い順で, D8型が33例(69%), H1型が11例(23%), B3型が2例(4%), D9型が2例(4%) であった。最も報告の多かったD8型の年齢中央値は30歳(範囲0~51), 男性が24例(73%), 女性が9例(27%) であった。ワクチン接種歴有(回数を問わず接種歴が有るとした者)が6例(18%), 接種歴無もしくは不明が27例(82%), 推定感染地域はインドネシアが最多で18例(55%), タイ, マレーシア, 韓国, カタールがそれぞれ2例(6%), シンガポール, インド, スイス, イタリアとの記載がそれぞれ1例, 可能性が複数ある場合に挙げられた国としてインドネシア/シンガポール, ベトナム/インドネシア, カタール/イラク/サウジアラビアがそれぞれ1例ずつであった。次いで報告の多かったH1型の年齢中央値は36歳(範囲0~52), 男性が7例(64%), 女性が3例(27%), 性別不明が1例であった。ワクチン接種歴有が0例(0%), 接種歴無もしくは不明が11例(100%), 推定感染地域は中国とモンゴルが最多でそれぞれ4例(36%), インドネシア, ベトナム, 韓国が各1例(9%) であった。以上の推定感染地域は, 原則的に患者の医師への申告によるもので, 疫学調査にて確認された場合もそうでない場合も含まれていることに注意されたい。

2015~2016年の海外渡航歴のある症例について各遺伝子型報告数を年齢群別に示した()。D8型において0~4歳で6例, 25~29歳で6例, 30~34歳で13例と乳幼児と成人の二峰性にピークを認めた。全体的には5~24歳, 40歳以上の報告数は比較的少なかった。

2008~2014年においては国外の推定感染地域はフィリピンが最多(88%)であり, その大部分はB3型およびD9型であった(IASR 35: 98-100, 2014)。一方2015~2016年においては, 国外の推定感染地域はインドネシアが18例(38%)と最も多く, すべてD8型であった。インドネシア本国で流行している麻疹ウイルスの遺伝子型に関する報告は得られていないが, インドネシアからの麻疹輸入例から検出されたウイルス遺伝子型がD8型, D9型, B3型であったことが, オーストラリアや欧米等から報告されている(IASR 37: 67-68, 2016)。

近年, 海外からの訪日旅行者は増加の一途を辿っており, インドネシアからの旅行者も, 2016年には, 2015年の約1.3倍に該当する271,000人に達した可能性があるとされる(国土交通省:http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf)。引き続き流行国からの渡航者による麻疹の輸入は完全には避けられないため, 国内での伝播を防止するためにはまず, 定期接種における高い麻しん含有ワクチン接種率の維持が重要である。さらに, 国内で海外からの不特定多数の訪日旅行者と接する可能性の高い職種の従業員における麻疹ウイルスの曝露の情報も散見されることから(http://ojs.wpro.who.int/ojs/index.php/wpsar/article/view/517/740), そのような職種の従業員における麻しん含有ワクチン歴の確認と, 2回の接種歴が無い場合(未接種, 1回のみ, 不明)の方においては麻しん含有ワクチンの接種が一般的に推奨される。さらに, 2015~2016年に報告された日本国籍と思われる輸入症例においては, 20代~30代が多く含まれていた。特にこの世代は麻疹の国内流行が無くなり, 自然のブースターがかからなくなった状況で1回接種と2回接種を受けた者が混在する年代であるため, 麻疹流行地域へ渡航する際は, 記録によるワクチン接種歴を確認し, 2回の接種歴が無い場合(未接種, 1回のみ, 不明)には麻しん含有ワクチン接種を行うことが重要である。風疹も海外からの輸入が問題となることから, ここで言う麻しん含有ワクチンとしては, 麻しん風しん混合ワクチンが望ましいことを強調したい。


国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース
同 感染症疫学センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan