国立感染症研究所

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ハンセン病の早期診断の試み

(IASR Vol. 39 p18-19: 2018年2月号)

ハンセン病の新規患者数は, 世界で年間約21万人に減少しているが, その減少率は, ここ数年期待されたほど大きくない。流行地域においても, 患者数の減少に伴なうハンセン病への関心・知識の希薄化, stigmaの存在, さらに, 感覚の喪失という特徴的な症状は, 積極的な通院を促さない。そのため, 世界保健機関(WHO)障害度分類であるG1D(知覚麻痺はあるが, 視認できる変形や損傷がない)の段階, つまり知覚麻痺の皮疹の段階で見つかる患者は少なくなり, G2D(視認できる変形や損傷が存在する)の何らかの障害が出現してハンセン病と診断され, 重篤な後遺症を伴うケースが増えている。患者や発症前の感染者を早期に発見し, 治療することは, 重症化・後遺症対策, 菌の伝播・感染源対策につながる。ハンセン病の早期発見は, 知識のある皮膚科医や医療関係者が, 集団検診を行うactive surveyが効果的であるが, その担い手の数やコストの面から, 限られた範囲で一定期間の効果は期待できるが, 流行国の州や郡単位など広域な範囲において持続的に進めていくには困難が伴う。そのため, 誰でも操作ができ, かつ安価ならい菌の抗体検出法や遺伝子検出法の開発が進められている。

抗らい菌抗体検査法の開発

抗らい菌抗体の存在は, 過去および現在においてらい菌の曝露・感染を意味する。これまで種々のらい菌特異抗原の探索が行われ, 末端の3糖構造がらい菌に特異的な菌体表層糖脂質であるphenolic glycolipid-I(PGL-I)が同定された。現在, PGL-Iを抗原としたゼラチン粒子凝集法であるセロディア-レプラ(富士レビオ社)が販売されている。しかし, PGL-I抗原は, 2種に分けられるハンセン病の病型, 液性免疫優位な多菌型(multibacillary: MB)において, 約80%の抗体保有率を示すのに対し, 細胞性免疫優位な少菌型(paucibacillary: PB)では15~20%と非常に低い保有率が示されている。より高い抗らい菌抗体の検出率を目指し, S. Reedらは, PGL-Iに新たならい菌抗原を加えたLID-NDOを開発し1), 我々も, 膜蛋白であるmajor membrane protein II(MMP II)が, 少菌型でもPGL-I抗原より高い検出率を示すことを報告している2)。今後, PGL-Iをはじめとする各種らい菌特異抗原の混合により, 検出感度の向上が図られ, また, 流行地における実装を念頭に, lateral flow タイプによる簡易判定法のキット化が進められている。

らい菌遺伝子検出法の開発

らい菌の感染は, 未治療の多菌型患者の鼻腔から排出する菌との頻繁かつ濃厚な接触が大半と考えられている。人工培地において培養が不可能ならい菌の存在は, その特異遺伝子の検出により確認される。特異遺伝子として, 他の抗酸菌に存在しない繰り返し配列の一つであるRLEP遺伝子が知られている。世界各地のらい菌に存在し1ゲノム中に27~37コピーが存在する3)ため, 非常に高感度な遺伝子増幅が行える。遺伝子増幅法として, PCR法は一般的であるが, 流行国において, 高額な機器, 精度維持, 増幅産物管理などハード, ソフトの両面で容易とは言い難い。そのため恒温反応のため安価な機器で増幅され, 目視による判定が可能なLAMP法の開発を進めている。また, 試料から増幅反応に用いる遺伝子の抽出・保管法, 試薬の保管法も重要な課題として付随してくる。信頼性のある冷蔵庫, 冷凍庫を備えた検査室は, 流行地域では非常に少なく, そのような環境下で使用することを前提に, 試料前処理の簡易化, 試薬の乾燥化など現場実装を目標に簡易らい菌遺伝子検出法の開発が進められている。

 

参考文献
  1. Duthie MS, et al., Diagn Microbiol Infect Dis 79: 233-239, 2014
  2. Hatta M, et al., Lepr Rev 80: 402-409, 2009
  3. Monot M, et al., Science 308: 1040-1042, 2005

国立感染症研究所
ハンセン病研究センター感染制御部 向井 徹 前田百美

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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