国立感染症研究所

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顧みられない熱帯病(NTDs)としてのハンセン病

(IASR Vol. 39 p22-23: 2018年2月号)

世界保健機関(WHO)は, 人類の中で制圧しなければならない熱帯病として定義している20の疾患があり, 「顧みられない熱帯病」(Neglected Tropical Diseases: NTDs)と呼ばれている()。NTDsは約150の熱帯の国や地域を中心に蔓延している寄生虫, 細菌, ウイルス等の感染症のことで, 世界中で14億人以上がこれらの感染症で健康な生活を脅かされている。NTDsの多くは途上国の中でも, 特に貧しい遠隔地や都市スラム, 紛争地帯などに集中しているため, 貧困の象徴となっている。

NTDsはエイズ, マラリア, 結核などの患者数が多く死に至ることのある感染症に比べて, 世界からほとんど関心が向けられず十分な対策がとられてこなかった。しかし, 2008年のG8洞爺湖サミット首脳宣言を契機として, NTDsに焦点が当てられるようになった。

NTDsでは重い皮膚症状, 盲目など, 治癒後も重度の後遺症になる。また近年では流行が一地域ではなく, 広域に拡大することもある。特に皮膚に症状の出る疾患が多いため, 皮膚関連NTDs(skin NTDs)として, 共同して対策を講じる動きが出ている1)

Skin NTDsの中にはハンセン病も含まれているが, 他の感染症に比べ, ハンセン病の国際協力, 非政府組織(NGO), 診断・治療プロトコール, WHOの関与などは進んでいるため, ハンセン病をモデルにskin NTDsの対策も進んでいる。問題点として, ハンセン病の拠点はWHO本部のあるジュネーブではなくて, WHO南東アジア事務局(ニューデリー)に置かcれているため, NTDsグループ, skin NTDsグループとの協調姿勢が弱いことである。さらにWHOハンセン病事業には日本財団から多額の資金が投入されており, ノバルティス財団はハンセン病治療薬をWHOに無償供与している。

ハンセン病を含めNTDsに対しては生活水準・衛生環境の改善により予防と制圧(もちろん, 貧困対策も重要)が可能であるが, そのためには政府, ドナー, 製薬会社, NGOを含む多くの機関・団体等の連携による包括的な対策が必要である。

 

参考文献
  1. MitjàO, et al., PLos Negl Trop Dis 11: e0005136, 2017

国立駿河療養所皮膚科/国立国際医療研究センター病院皮膚科 四津里英
国立感染症研究所ハンセン病研究センター 石井則久

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