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感染症発生動向調査:水痘入院サーベイランス2014~2017年

(IASR Vol. 39 p131-132: 2018年8月号)

はじめに

水痘は2014年10月1日から定期接種対象疾病(A類疾病)に定められ, 生後12~36か月に至るまでの児を対象に2回の接種が開始された(時限措置として2014年度は, 36~60か月に至るまでの児も未接種の場合は1回接種の機会が設けられた)。

水痘入院例全数報告は, 水痘ワクチン定期接種導入に先立って, 2014年9月19日(第38週)に開始となった。水痘重症例の発生動向の把握とともに, 年長児, あるいは成人を含む水痘の発生動向を予防接種歴とともにサーベイランスしていく必要性から導入された。水痘で24時間以上入院した症例が対象で, 他疾患による入院中の発症者も含まれる。

水痘入院例の全数サーベイランスが開始された2014年第38週~2017年第52週までの報告状況をまとめた。

結 果

報告された症例は1,091例(女性453例, 42%), 年齢中央値は28歳(四分位範囲9-47歳)であった。届出年は, 2014年はサーベイランス開始以降の15週間で143例, 2015年319例, 2016年318例, 2017年311例であった。年齢分布の経年変化をみると, 5歳未満の症例の割合は2014年34%から2017年11%に減少した。5歳未満の報告数も減少しており, 2014年第38~52週の15週間の累積報告数49例に対して2017年は1年間で34例であった。一方, 成人例は2017年時点で報告数の70%を占めた(図1)。

症例の医学的な背景として, 免疫不全72例(7%), 妊婦16例(1%)が報告された。113例(10%)で備考欄に基礎疾患の記載があり, 腫瘍性疾患(26例, 2%), 神経疾患(18例, 2%), 膠原病(9例, 1%)が多く, その他移植後(造血幹細胞移植, 臍帯血移植, 肝移植, 腎移植)の症例も5例(0.5%) 報告された。また, 「他疾患入院中の発症」の報告は98例(9%)であった(具体的な基礎疾患名の記載のない51例を含む)。

水痘入院例全体の水痘ワクチンの接種歴は, なし393例(36%), 1回接種106例(10%), 2回接種20例(2%), 有り回数不明14例(1%), 接種歴不明が558例(51%)であった。対象期間中に定期接種機会があった1~4歳群(120例)においては, なし63例(53%), 1回接種34例(28%), 2回接種7例(6%), 有り回数不明2例(2%), 接種歴不明14例(12%) であった。0歳は水痘ワクチンの接種対象年齢未満であり, なし90%, 接種歴不明10%であった(図2)。

合併症は219例(20%)で報告された。年齢群別の合併症併発頻度は, 0歳19%, 1~4歳28%, 5~9歳32%, 10~19歳18%, 20~59歳15%, 60歳以上25%であった。1~4歳の合併症併発例は2014年(第38~52週の15週間)12例に対して, 2017年は年間3例であった。合併症の内訳は, 皮膚細菌性二次感染(膿痂疹56例, 蜂窩織炎3例)が最も多く, 次いで, 神経症状(髄膜脳炎・脳炎・髄膜炎30例, 熱性痙攣25例, 急性散在性脳脊髄炎3例, 小脳失調3例, 根神経炎1例), 肺炎(35例)・気管支炎(12例), 肝炎 44例, ほか全身性の重篤合併症として播種性血管内凝固症候群(DIC)15例, 敗血症11例, 多臓器不全6例, 内臓播種性水痘6例等が報告された。

また, 326例(報告数全体の29.9%)で推定感染源が報告されており, そのうち104例(31.9%)は帯状疱疹患者であった。

まとめ

水痘ワクチンの定期接種化後早期に5歳未満の水痘入院例の報告数が減少し, 年齢分布は速やかに変化した。1~4歳については合併症併発例の報告数も減少した。感染症流行予測調査に基づく水痘ワクチンの接種率(https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/7452-varicella-yosoku-vaccine2016.html)によると, 2~4歳の2回接種率が年長児に比べ大きく上昇したことが示されている。定期接種対象年齢における水痘ワクチンの直接効果とともに, 接種対象年齢に満たない0歳児に関しても間接効果が示唆された。一方で, 1~4歳群の28%は1回接種歴があり, breakthrough varicellaの存在も示された。2回接種によるより確実な予防が望まれる。

定期接種対象年齢以上の年齢群に関しては, 成人例が報告の多数を占め, 5~9歳群は他の年齢群よりも合併症併発頻度が高かった。成人水痘は重症化しやすく致命率が高いことが知られている1)。そのほか, 重症化が懸念される免疫不全者や妊婦の症例も報告されており, さらなる水痘の流行抑制が強く望まれる。

感染源の検討においては, 帯状疱疹患者からの感染も多く報告された。オーストラリアでは, 水痘ワクチン定期接種導入後に水痘の流行抑制に伴い帯状疱疹患者の増加が報告されている2)。帯状疱疹患者は今後重要な水痘の感染源と考えられる。

今後, より高い2回接種率の維持, 年長児, 成人における感受性者対策と発生動向の監視, さらには帯状疱疹対策も水痘・帯状疱疹ウイルス感染症の対策において重要と考えられた。

 

参考文献
  1. Rawson H, et al., BMJ 323: 1091-1093, 2001
  2. Kelly HA, et al., Euro Surveill 19(41), 2014
 
 
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