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侵襲性髄膜炎菌感染症の発生動向、2013年第13週~2014年第52週
Trends in invasive meningococcal disease, week 13, 2013 to week 52, 2014, Japan

Fig.1 & Fig.2 in English

(掲載日 2015/8/19)  (IASR Vol. 36 p. 179-181: 2015年9月号)

1999年以降、髄膜炎菌性髄膜炎が感染症発生動向調査システム(NESID)に報告されてきたが、2013年4月以降、髄膜炎に髄膜炎菌による敗血症を加えた「侵襲性髄膜炎菌感染症」が全数把握の5類感染症疾患として報告されることになった1)。髄膜炎菌感染症は重症度が高く、患者発生時には感染拡大防止のため迅速に積極的疫学調査を実施する必要があることから、2015年5月より患者を診断した医師は患者の氏名・住所等の個人情報を含め、ただちに保健所に報告しなければならないと感染症法上の取り扱いが変更された。また、国内で4価髄膜炎菌ワクチン(A/C/Y/W群)が2014年7月に認可、2015年5月18日より販売開始された。

国内における侵襲性髄膜炎菌感染症の発生状況を明らかにするため、侵襲性髄膜炎菌サーベイランス開始後の2013年第13週から2014年第52週までにNESIDに報告された症例について記述的にまとめた。なお、髄膜炎の判定基準は、症状の欄に髄膜炎と記載があった、もしくは髄液から病原体の検出された症例とした。

報告された症例は計60例で届出基準を満たした症例は59例(髄膜炎20例、菌血症39例)であった。関節炎のみで報告された症例1例は集計から除外した。症例は通年的に報告されており、時期的な集積は認められなかった。 感染推定地域は、59例中、東京都が15例(25%)と最も多く、次いで大阪府6例(10%)、そのほか全国各地から数例ずつの報告があり、都道府県不明例が7例(12%)あった。なお、感染地域を国内とする外国籍(ペルー)の症例を1例認めた。

年齢中央値は56歳(範囲0-93)、男性が37例(63%)であった。50~60代に一峰性のピークを認めたが、10-30代の若年層の症例も認めた。届け出られた時点での死亡例は11例(19%;11/59)あり、若年層も含め幅広い年代でみられた(図1)。人口推計による2014年11月1日現在の日本の総人口を分母として計算すると、2014年の年間罹患率(annual incidence rate)は10万あたり0.028となった。

臨床所見は髄膜炎症例では、発熱(90%;18/20)の頻度が最も高く、次いで頭痛(70%;14/20)、意識障害(70%;14/20)の順であった。菌血症症例でも発熱(90%;35/39)の頻度が最も高く、次いでショック(41%;16/39)、意識障害(38%;15/39)の順であった。死亡例は髄膜炎で3例(15%;3/20)、菌血症で8例(21%;8/39)あった。

診断根拠となる髄膜炎菌が検出された検体の割合は、血液71%(42/59)、髄液17%(10/59)、血液及び髄液10%(6/59)、組織(脳)2%(1/59)であった。原因菌の血清群別の割合は、Y群 42%(25/59)、C群 12%(7/59)、W群 3%(2/59)、YもしくはW群 5%(3/59)、B群 7%(4/59)、不明31%(18/59)であった。4価髄膜炎菌ワクチン(A/C/Y/W群)含有血清群の割合は63%(37/59)であった。なお、この集計は、NESIDに血清群が登録されていなくても、国立感染症研究所細菌第一部で血清群が判定されていた症例について、同部からの情報を提供いただき含めたものである(図2)。

学生寮、社員寮、老人ホームでの共同生活ありの記載があった症例は5例であったが、集団発生の報告はなかった。家族や同居者、医療従事者も含めた接触者に対して予防内服がなされた症例は19例(32%)であった。

本報告より、日本における侵襲性髄膜炎菌感染症の10万あたりの報告数は0.028(2014)であり諸外国〔米国:0.28(2009)、ヨーロッパ:0.92(2009)、オーストラリア1.2(2009)〕2)と比較して非常に低い結果となった。国内における致命率(19%)は他の先進国のそれと変わらず、死亡例は若年層を含む幅広い年齢層に及んでいた点も同様であった。

国内において、髄膜炎菌による明らかな集団発生事例は2011年5月のB群による宮崎での事例3)以後認められていないものの、本報告において、学生寮、社員寮で集団生活をしていた症例も報告されており、今後国内における集団発生の危険性は十分考えられる。接触者に対する予防内服実施症例が30%程度に留まっている点も含め、たとえ罹患率が低くても髄膜炎菌感染症の発生時は迅速に保健所に報告し、対応を慎重に行っていくことが重要であると考えられた。

病型については、菌血症が66%を占めていた。髄膜炎症状がなくても、発熱にショックや意識障害を伴った症例に対しては、侵襲性髄膜炎菌感染症を鑑別疾患として考慮する必要がある。 

原因菌の血清群分布は31%が不明であったものの、4価髄膜炎菌ワクチン含有血清群が63%を占めていた。現状では患者発生時には濃厚接触者に対する抗菌薬の予防内服が唯一の対応策となっているが、ワクチンが今後の対策の選択肢の一つとなるため、平時より血清群分布を継続的に監視することは非常に重要である。

主な制約として、国籍や職業、感染地域が不明の症例が多いこと、3割が血清群不明であること、届出時点の情報であること、などが挙げられた。特に、症例の集積や症例間のリンクの記載が積極的に求められていないことは、公衆衛生対策につなげる上での問題点と考えられた。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている地方感染症情報センター、保健所、衛生研究所、医療機関の皆さまに心より感謝申し上げます。

 

参考文献

  1. IASR 34: 361-362, 2013
    Meningcoccal infection, 2005-Octover 2013, Japan
  2. S.A. Halperin, et al. The changing and dynamic epidemiology of meningococcal disease. Vaccine 30S (2012): B26-B36.
  3. IASR 32: 298-299, 2011

 

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