国立感染症研究所

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腸管出血性大腸菌感染症 2019年3月現在

(IASR Vol. 40 p71-72: 2019年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症はVero毒素(Vero toxin:VTまたはShiga toxin: Stx)を産生, またはVT遺伝子を保有するEHECの感染によって起こり, 主な症状は腹痛, 水様性下痢および血便である。嘔吐や38℃台の発熱を伴うこともある。VT等の作用により血小板減少, 溶血性貧血, 急性腎不全をきたして溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし, 脳症などを併発して死に至ることがある。

EHEC感染症は感染症法上, 3類感染症に定められている。本感染症を診断した医師は直ちに保健所に届出を行い(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html), 保健所はその情報を感染症サーベイランスシステム(NESID)に報告する。医師が食中毒として保健所に届け出た場合や, 保健所長が食中毒と認めた場合は食品衛生法に基づき, 各都道府県等は食中毒の調査を行うとともに厚生労働省(厚労省)へ報告する(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/iryou/index.html)。地方衛生研究所(地衛研)はEHECの分離・同定, 血清型別, 毒素型別(産生性が確認されたVT型別またはVT遺伝子型別)等を行い, その結果をNESIDに報告する(本号3ページ)。国立感染症研究所(感染研)細菌第一部は必要に応じて地衛研から送付された菌株の血清型, 毒素型の確認を行うと同時に, 反復配列多型解析(MLVA)法やパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法による分子疫学的解析を行っている(本号11ページ)。これらの解析結果は各地衛研へ還元されると共に, 食中毒調査支援システム(NESFD)で各自治体等へ情報提供されている。

感染症発生動向調査:NESIDの集計によると, 2018年には有症者2,581例, 無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される)1,271例, 計3,852例が報告され(表1), 例年同様に夏期に報告が多かった(図1)。都道府県別届出数(無症状を含む)は東京都, 神奈川県, 埼玉県, 千葉県, 大阪府, 北海道, 福岡県, 愛知県の上位8都道府県で全体の51%を占めた。人口10万対届出数では群馬県(6.1)が最も多く, 秋田県(5.6), 岩手県(5.3), 山形県(5.3), 石川県(5.2), 福井県(5.0), 長野県(5.0)がそれに次いだ(図2)。0~4歳の人口10万対届出数では, 宮崎県(41.3), 鹿児島県(33.8), 長野県(33.8), 島根県(33.3), 群馬県(32.4)などが多かった(図2)。報告に占める有症者の割合は例年同様男女とも30歳未満, 70歳以上で高かった(図3)。

HUSを合併した症例は69例(有症者の2.7%)で, そのうち47例からEHECが分離された。O血清群の内訳はO157が33例で, 毒素型はVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が40例を占めた。有症者のうちHUS発症例の割合が最も高かったのは0~4歳の低年齢層で6.5%であった(本号12ページ)。届出時点でのEHEC感染による死亡例は1例であった。

地衛研からのEHEC検出報告:地衛研から報告された2018年のEHECの菌検出数は2,140であった(本号3ページ)。この検出数は, 保健所等が必要に応じて, 医療機関や民間検査機関に対して検出された株の提出等を求める検査を実施した実績であるため, 届出数(表1)より少ない。全検出数における上位のO血清群の割合は, O157が56%, O26が24%, O121が4%であった(本号3ページ)。毒素型でみると, 2018年は例年同様O157ではVT1&2が最も多く, O157の63%を占め, VT2単独は35%であった。O26はVT1単独が最も多く, 97%を占めたが, O121はすべてVT2単独タイプであった。O157が検出された1,198例の主な症状は下痢62%, 腹痛61%, 血便47%, 発熱21%であった。

集団発生:2018年に地衛研からNESIDに報告された集団発生のうち, 菌が検出された者が10名以上の事例を表2に示す。報告された全11事例中9事例は保育施設における人から人への感染によるものと推定された。一方, 食品衛生法に基づいて都道府県等から報告された2018年のEHEC食中毒は32事例, 患者数456名(菌陰性例を含む)であった (2015年は17事例156名, 2016年は14事例252名, 2017年は17事例156名:特集関連資料2)。2018年に発生した主な集団食中毒事例として以下のものがある: ①5月に埼玉県の老人ホームで発生したO157による食中毒事例(患者数10名;本号4ページ);②7月に兵庫県で発生した加熱不十分なハンバーグ喫食が原因となったO157による食中毒事例(患者数9名;表2);③8月に東京都の飲食店で提供された食事が原因となった食中毒事例(患者数194名;特集関連資料2);④8月に静岡県の飲食店で提供された食事が原因となった食中毒事例(患者数60名;特集関連資料2);⑤8月に長野県等のハンバーガーチェーンで発生したO121による食中毒事例(本号8ページ)。これら以外にも疫学的関連が不明な散発事例間で同一のMLVA型を示す菌株が広域から分離されていることが明らかとなっている(本号11ページ)。厚生労働省は, 集団発生事例対応を強化するため, 遺伝子型検査法の統一(MLVA法), 関係機関の連携・協力体制の推進等に取り組んでいる(本号13ページ)。

予防と対策:牛肉の生食による食中毒の発生を受けて, 厚労省は生食用食肉の規格基準を見直した(2011年10月, 告示第321号)。さらに, 牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから, 牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した(2012年7月, 告示第404号)。2012年には, 漬物によるO157の集団発生を受けて, 漬物の衛生規範が改正された(2012年10月, 食安監発1012第1号)。また, 現在, 農林水産省では, 食品の安全性の向上に向けて, 生産から消費にわたってあらかじめ必要な対策を講じるリスク管理に取り組む中で, より安全な野菜を生産供給できるよう生産段階の衛生管理を推進している(本号15ページ)。

EHECは少量の菌数(100個程度)でも感染が成立するため, 人から人への経路, または人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすい。例年同様, 2018年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例(特集関連資料2)が発生しており, EHEC感染症を予防するためには, 食中毒予防の基本を守り, 生肉または加熱不十分な食肉等を食べないように注意を喚起し続けることが重要である(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html)。さらに, 保育所での集団発生も多数発生しており(表2), その予防には, 手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(2018年改訂版・保育所における感染症対策ガイドラインhttp://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000201596.pdf)。家族内や福祉施設内等で患者が出た場合には, 二次感染を防ぐため, 保健所等は, 家族や施設に対して感染予防の指導を徹底する必要がある。

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