国立感染症研究所

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ヘルパンギーナ/不明熱症例における複数のエンテロウイルス検出事例―大阪府

(IASR Vol. 34 p. 10: 2013年1月号)

 

大阪府における2011年シーズンのエンテロウイルス感染症は、手足口病を主な臨床病型としたコクサッキーウイルスA6型(CA6)感染症が主であった。しかし、2012年シーズンは11月現在、12種類もの多様なエンテロウイルス血清型が検出されている。手足口病、ヘルパンギーナおよび無菌性髄膜炎の典型事例の他に夏風邪様、不明熱など不定形な症状を呈した患者からの検体の搬入があり、多様な臨床病型となっている。

大阪府立公衆衛生研究所ではエンテロウイルス感染症疑いの検体が搬入された際、検体からRNAを抽出し、エンテロウイルスVP4-2領域に対するsemi-nested RT-PCR1) を実施している。並行して、Vero細胞およびRD-18S細胞による検体からのウイルス分離培養を試みており、ウイルスが分離された場合には培養上清からRNAを抽出し、エンテロウイルスVP1領域に対するRT-PCR2) を実施している。本報告に際し、分離ウイルスに対してもVP4-2領域の検査を施行し、VP1領域の検査結果と一致していることを確認した。血清型は、増幅した遺伝子産物をダイレクトシークエンスし、BLAST解析を行うことで決定した。

本稿では、2012年シーズンに当所において複数のエンテロウイルスが検出された乳幼児ヘルパンギーナ/不明熱の3症例を報告する。

症例1:8カ月齢女児。2012年7月13日に咽頭痛にて発症。受診時、体温は36.5℃。診断名はヘルパンギーナ。搬入された検体は咽頭ぬぐい液であった。検体より抽出したRNAからはCA4が、RD-18S細胞におけるウイルス分離でCA2が検出された。

症例2:4歳男児。2012年7月13日に発熱にて発症。受診時、体温は38.1℃であり、咽頭発赤を認めた。診断名はヘルパンギーナ。搬入された検体はうがい液であった。検体より抽出したRNAからはCA8が、RD-18S細胞におけるウイルス分離でCA2が検出された。

症例3:1カ月齢男児。2012年8月16日に発熱にて発症。受診時、体温は38.6℃。診断名は不明熱。搬入された検体は糞便および咽頭ぬぐい液であった。糞便より抽出したRNAおよびRD-18S細胞におけるウイルス分離でエコーウイルス9型(Echo9)が検出された。また、咽頭ぬぐい液より抽出したRNAからはライノウイルスが、Vero細胞におけるウイルス分離ではEcho9が、RD-18S細胞におけるウイルス分離ではEcho7がそれぞれ検出された。

エンテロウイルス感染症の好発年齢は3歳以下であり、免疫機能は発達の途上にある。市中に複数のエンテロウイルス血清型が流行している場合、重複感染を起こすことは稀ではないと考えられる。いずれの症例においても、RT-PCRを用いた遺伝子検査と培養細胞によるウイルス分離で異なる血清型のエンテロウイルスが検出された。エンテロウイルスには血清型による細胞感受性に差があるため、症例3のように細胞の種類によって異なるウイルスが分離できた事例は、複数の細胞株でウイルス分離を実施することの有用性を示している。一方、細胞株によるウイルス分離は検出まで日数を要し作業が煩雑であることから、近年は遺伝子検査のみで原因ウイルス検索を行う傾向にある。しかし、RT-PCRを用いた遺伝子検査では、増幅効率の高い遺伝子のみが検出され、重複感染が見落とされる可能性は否定できない。この点、重複感染を見逃さずに検出できる核酸増復系は開発の余地がある。

以上をまとめると、遺伝子検査に加えて複数の培養細胞によるウイルス分離を実施することは、エンテロウイルス感染症の流行実態と病態形成を理解するうえで非常に有用であると考えられる。

 

参考文献
1) 石古博昭, 他, 臨床とウイルス 27: 283- 293,1999
2) Oberste, MS, et al., J Virol 73: 1941-1948, 1999

 

大阪府立公衆衛生研究所感染症部ウイルス課
中田恵子 山崎謙治 加瀬哲男

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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