インフルエンザ2015/16シーズン
(IASR Vol. 37 p.211-213: 2016年11月号)
2015/16シーズン(2015年第36週/9月~2016年第35週/8月)のインフルエンザは,国内では2シーズンぶりにA/H1pdm09が流行の主体で,2016年第6週/2月がピークであった。B型は2016年第2週から増え始め,2系統(山形系統, Victoria系統)の混合流行であった。
患者発生状況:感染症発生動向調査では,全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000,内科約2,000)から,インフルエンザの患者数が毎週報告されている。週別定点当たり報告数の推移(図1およびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)をみると, 2016年第1週に全国レベルの流行開始の指標である1.0人を超え,2016年第18週まで1.0人以上が持続した。報告のピークは2016年第6週(40.0人)であった(図1)。都道府県別にみると,2016年第2週に初めて沖縄県,新潟県で定点当たり報告数10.0人を超え,2016年第5週には47都道府県すべてで定点当たり報告数10.0人を超えた。本シーズンを通しての定点当たり報告数は324.4人であった(2014/15シーズンは289.8人)。
インフルエンザ定点医療機関の報告数に基づく推計では,2015年第36週~2016年第20週(2015年9月1日~2016年5月22日)の間に全国の医療機関を受診したインフルエンザ患者数の累計は約1,613万人であった。重症例把握を目的とする入院サーベイランスによると,2015/16シーズンの基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)入院患者総数は2016年第20週までに12,275人となり,前シーズン同時期までの総数12,459人と比較してほぼ同規模であった。2015/16シーズンに5類感染症の急性脳炎(脳症を含む)として届け出られた患者のうち,インフルエンザ脳症に分類された患者数は224例(2016年7月8日現在暫定値)であり,前シーズン(105例)の約2倍であった(本号11ページ)。また,2015/16シーズンに21大都市において死亡者数の合計が明らかな超過死亡の閾値(インフルエンザの流行がなかった場合に予想される死亡者数の95%信頼区間の上限)を上回った週はなく,全体では超過死亡は発生しなかった(http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1516.pdf)。
ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所が2015/16シーズンに分離・検出したインフルエンザウイルスの報告総数は7,567(分離6,141,検出のみ1,426)であった(表1)。うち,インフルエンザ定点の検体からの分離・検出数は6,365,インフルエンザ定点以外の検体からの分離・検出数は1,202であった(表2)。A/H1pdm09が49%,B型が44%(山形系統56%,Victoria系統44%),A/H3が7%であった(表2)。A/H1pdm09は2016年第1週から増加し,2016年第5週にピークに達した。B型は2016年第2週から増加し,第9週以降A型を上回った(図1&図2)。A/H1pdm09は分離例中5~9歳が32%で,0~4歳が19%, 10~14歳が12%であった(図3およびhttp://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/inf3/2016_19w/innen5_1516.gif)。B/山形系統分離例では5~9歳が31%,B/Victoria系統では5~9歳が37%を占めた(図3)。
2015/16シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析:国立感染症研究所が国内およびアジア地域分離株の遺伝子および抗原性解析を行った(本号4ぺージ)。A/H1pdm09の287株はすべて遺伝子系統樹上クレード6Bに属し,抗原性解析した364株ほぼすべてがA/California/7/2009(2015/16シーズンワクチン株)と同じ抗原性を持っていた。A/ H3の189株の大部分は遺伝子系統樹上クレード3C.2aに属し,抗原性解析した191株の5~6割がA/Switzerland/9715293/2013(2015/16シーズンワクチン株)(クレード3C.3a)と類似していたが,7割以上はクレード3C.2aの代表株A/Hong Kong/4801/2014と類似していた。B/山形系統148株はすべてがクレード3に属し,抗原性解析した182株中98%以上がB/Phuket/3073/2013(2015/16シーズンワクチン株)と類似していた。B/Victoria系統173株はすべてがクレード1Aに属し,抗原性解析した170株中99%がB/Texas/2/2013(2015/16シーズンワクチン株)と類似していた。
2015/16シーズン分離ウイルスの薬剤耐性:国内分離A/H1pdm09の2,565株のうち,オセルタミビル・ペラミビル耐性株が48株,散発的に検出された。A/H3は,国内およびアジア地域分離株224株のすべてがオセルタミビル・ペラミビル・ザナミビル・ラニナミビルに感受性であった。B型分離株は,国内外すべて上記4薬剤に対して感受性であった(本号4ページ)。
抗体保有状況:予防接種法改正により,2013年4月1日から法に基づき,予防接種による免疫の獲得状況に関する調査が行われている(本号13ページ)。2015/16シーズン前の2015年7~9月に採血された血清(6,584検体)における抗A/California/7/2009[A(H1N1)pdm09] に対する抗体保有率(HI価≥1:40)は5歳~20代が68~84%で,他の年齢群より高かった。抗A/Switzerland/9715293/2013[A(H3N2)]に対する抗体保有率は5~14歳が61~64%で,他の年齢群より高かった。B/Phuket/3073/2013(B/山形系統)に対する抗体保有率は20代が60%で,他の年齢群より高かった。B/Texas/2/2013(B/Victoria系統)に対する抗体保有率は35~44歳群が32~33%で,他の年齢群より高かった。
インフルエンザワクチン:2015/16シーズンには,従来の3価ワクチンに替わりA型2株にB/山形系統およびB/Victoria系統を加えた4価ワクチンが導入され,約3,072万本(1mL換算,以下同様)が製造され,約2,565万本(推計値)が使用された。
2016/17シーズンワクチン株は,A/H1は2010/11~2015/16シーズン同様A/California/7/2009(X-179A)が選択され, A/H3はA/Hong Kong/4801/2014(X-263)に変更された。B型は2015/16シーズンに引き続きB/山形系統はB/Phuket/3073/2013が, B/Victoria系統はB/Texas/2/2013が選択された(本号15ページ)。
なお,インフルエンザワクチンの有効性に関する研究として,多施設共同症例・対照研究 (test-negative design)に基づく2013/14~2014/15シーズンの分析結果が示されている(本号20ページ)。
鳥・ブタインフルエンザのヒト感染例:鳥インフルエンザは,A/H5亜型高病原性鳥インフルエンザのA(H5N1)ウイルスが,2003年以降16カ国で856例(うち452例死亡)が確認され(2016年10月3日現在),A(H5N6)ウイルスも散発的な報告がある。また,中国国内ではA(H7N9)ウイルスが家禽の中で土着しており,803例(うち316例死亡)のヒト感染例が報告されている(2016年10月20日現在)。A(H9N2)ウイルスのヒト感染例も中国やエジプトで報告されている。ブタインフルエンザは,米国における農業フェア等での曝露によるA(H3N2)v,A(H1N1)v,A(H1N2)vウイルスなどのヒト感染例や,中国でのブタインフルエンザA(H1N1)vウイルスの散発的な報告がある(本号10ページ)。
おわりに:定点,学校(インフルエンザ様疾患発生報告),入院サーベイランス等による患者発生動向の監視,改正感染症法に基づく通年的なウイルス分離(本号17ページ),ワクチン候補株確保のための流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析,抗インフルエンザ薬耐性ウイルス出現の監視(本号4ぺージ),国民の抗体保有率の監視(本号13ぺージ)が今後の対策に引き続き重要となっている。2015/16シーズンのインフルエンザについては,「今冬のインフルエンザについて」(http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1516.pdf)も参照されたい。
2016/17シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出速報は,本号21&23ページおよびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlgo.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlに掲載している。
注)IASRのインフルエンザウイルス型,亜型,株名の記載方法は,赤血球凝集素(HA)の分類を調べた情報を主とする場合と,さらにノイラミニダーゼ(NA)の型別まで実施された場合などの違いによるものです。
・N型別まで実施されている場合:A(H1N1)pdm09,A(H3N2),A(H5N1)など
・N型別未実施のものが含まれる場合:A/H1pdm09,A/H3など
・株名については,主に国内の地名は漢字,国外は英語表記(例:B/山形系統,B/Victoria系統など)
・ヒト感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために,variant virusesと総称し,亜型の後に“v”を表記