国立感染症研究所

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆インフルエンザ

 

 インフルエンザは、インフルエンザウイルスを原因病原体とする急性の呼吸器感染症で、世界中で流行がみられる。主な感染経路は、咳、くしゃみ、会話等により発生する飛沫による感染(飛沫感染)であるが、物の表面等に付着した飛沫に触れた手指を介した接触感染もある。症状としては、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻汁・咳などの呼吸器症状がこれに続く。いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴であるが、通常は1週間前後の経過で軽快する。症状のみで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との鑑別は困難である。

 インフルエンザの発生状況は、感染症法に基づき、全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)から毎週、届出される患者数等から把握されている。2020/21シーズンおよび2021/22シーズンのインフルエンザ定点当たり報告数のピークは、それぞれ0.02、0.04と非常に低いレベルであり、全国的な流行開始の指標である1.00を上回ることはなかった(シーズン:第36週〜翌年第35週)。しかし、2022/23シーズンは、2022年第40週以降、第47週を除いて継続して増加し、第51週(12月19〜25日)には1.24(報告数6,103例)と1.00を上回ったため、全国的にインフルエンザは流行期に入ったと判断された。その後も定点当たり報告数は、第52週2.05、2023年第1週4.73、第2週7.37、第3週9.59(報告数47,366)と継続して増加した(2023年1月25日現在。インフルエンザの年別・週別発生状況:https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/813-idsc/map/130-flu-10year.html)。なお、第3週(2023年1月16〜22日)の都道府県別の定点当たり報告数は、沖縄県(38.77)、福岡県(20.59)、大阪府(20.46)、宮崎県(17.59)、佐賀県(16.92)、京都府(15.31)、長崎県(14.80)、石川県(13.69)、福井県(12.14)、兵庫県(12.13)、奈良県(10.87)、和歌山県(10.61)、大分県(10.40)、鹿児島県(9.72)、香川県(9.45)、愛媛県(8.92)、神奈川県(8.86)、三重県(8.80)、熊本県(8.75)、高知県(8.58)、千葉県(8.53)、東京都(8.50)、富山県(8.33)、北海道(8.19)、広島県(8.19)、青森県(8.02)、愛知県(7.96)、滋賀県(7.52)、埼玉県(7.09)、徳島県(6.16)、岡山県(5.83)、栃木県(5.70)、茨城県(5.58)、長野県(5.57)、新潟県(5.44)、群馬県(4.71)、静岡県(4.56)、福島県(4.40)、島根県(4.26)、山口県(4.20)、鳥取県(3.86)、岐阜県(3.41)、秋田県(2.61)、宮城県(2.33)、山形県(2.30)、山梨県(1.85)、岩手県(1.08)の順となっている。38都道府県で前週の報告数よりも増加がみられた。また、直近3週間(2023年第1〜3週)の定点医療機関(全国約5,000)からの累積報告数の男女比は、15歳未満の年齢群では1 . 2 : 1 、15〜19歳の年齢群では1 . 9 : 1 、20〜29歳の年齢群では1 . 3 : 1 と男性に多く、30〜49歳の年齢群では1 : 1 . 3 とやや女性に多かった。小児では男性が多く、30~40代では女性が多い傾向は、例年と同様である。

 定点医療機関からの報告を基に、2023年第3週に定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数を推計すると、約28.7万人(95%信頼区間:26.1~31.3万人)となり、前週の推計値(約25.7万人)よりも増加した(2023年1月25日現在)。年齢別では、0~4歳が約4.8万人、5~9歳が約8.7万人、10~14歳が約4.5万人、15~19歳が約2.8万人、20代が約2.1万人、30代が約2.3万人、40代が約1.7万人、50代が約0.8万人、60代が約0.5万人、70歳以上が約0.4万人となっている。2022年第36週~2023年第3週の推計受診者数の累積は約89.4万人となった。

 病原体サーベイランスにおける、インフルエンザウイルス分離・検出速報によると(https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html)、2023年1月27日現在インフルエンザウイルス分離・検出報告数は、2020/21シーズンは6株、2021/22シーズンは53株(うち48株は2022年第25~35週)のみであった。しかし、2022/23シーズンは、2023年1月25日現在、AH3亜型が164株、AH1pdm09が9株、B型が2株(ともにビクトリア系統)検出されている〔直近5週間の2022年第51週~2023年第3週では、AH3亜型が109株(95%)、AH1pdm09が5株(4%)、B型が1株(1%)であった〕。

 全国約500カ所の基幹定点医療機関からのインフルエンザによる入院患者数(インフルエンザ入院サーベイランス; インフルエンザによる入院患者を対象とし、より重症な患者数の推移を反映)においては、2020/21シーズン、2021/22シーズンは週ごとの報告数のピークはともに10例未満であった。しかし、2022/23シーズンには、2022年第48週以降、第48週5例、第49週12例、第50週13例、第51週36例、第52週74例、2023年第1週167例、第2週195例と継続して増加傾向であった。第3週は163例と減少したが(2023年1月25日現在)、直近の週は届出の遅れ等で少なく集計される場合があることに注意が必要である。なお、第3週の年齢別の報告数は、1歳未満(11例)、1~4歳(34例)、5~9歳(37例)、10代(18例)、20代(1例)、30代(6例)、40代(4例)、50代(3例)、60代(1例)、70代(14例)、80歳以上(34例)であった。今シーズンの基幹定点におけるインフルエンザによる入院患者の累積報告数は688例となり、10歳未満が293例(42.6%)、70歳以上が193例(28.1%)であった(インフルエンザの発生状況について:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html)。

 5 類感染症の全数把握疾患である急性脳炎におけるインフルエンザ脳症の報告数は、2020/21シーズンは0例、2021/22シーズンは1例であった。しかし、2022/23シーズンには、2023年第2週に3例(A型2例、型不明1例)、第3週に1例(A型)と散発的に発生を認めている(2023年1月25日現在)。

 感染症法に基づくサーベイランス以外の情報においても、2020/21シーズン、2021/22シーズンのインフルエンザの発生状況はともに低いレベルで推移したが、2022/23シーズンはより高い水準で、かつ増加傾向となっている。2023年第3週のインフルエンザ様疾患発生報告数(全国の保育所・幼稚園、小学校、中学校、高等学校におけるインフルエンザ様症状の患者による休校数、学年閉鎖数、学級閉鎖数;https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-flulike.html)は、休校10件、学年閉鎖158件、学級閉鎖928件が報告され、2022年第36週以降の累積では休校19件、学年閉鎖209件、学級閉鎖1,178件となった(2023年1月27日現在)。「国立病院機構におけるインフルエンザ全国感染動向」〔国立病院機構140病院で、医師がインフルエンザを疑い、インフルエンザ迅速抗原検査を実施した検査件数と陽性となった数の報告;https://nho.hosp.go.jp/cnt1-1_0000202204.html〕のデータにおいては、11月中旬〜下旬以降、検査数・陽性数・陽性率のいずれも継続して増加傾向である。直近の2023年1月1〜15日では、11,206件の検査のうち、インフルエンザ陽性は811件(A型801件、B型10件;陽性率7.2%)となっている。

 インフルエンザにおいては、約3年ぶりに全国的な流行を認め、COVID-19も流行が継続している(新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10754-2021-41-10-11-10-17-10-19.html)。二つの感染症に共通する個人の予防策として、マスクの適切な使用、手洗い・手指衛生の徹底、適切な換気の実施等が勧められる。医療・福祉施設へのウイルスの持ち込みを防ぐことや、ワクチン(インフルエンザワクチン、新型コロナワクチン)の接種を検討することも重要である。なお、2022/23シーズンは、例年通りA型2亜型とB型2系統による4価のインフルエンザワクチン(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2066-idsc/related/584-atpcs002.html)が製造されており、65歳以上の高齢者、又は60〜64歳で心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される者、あるいはヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な者は、予防接種法上の定期接種の対象となっている(https://www.mhlw.go.jp/stf/index2022.html)。2022/23シーズンを通したインフルエンザワクチンの供給量は、記録が残る中で過去最大の3,521万本(成人に対して約7,040万回分)が見込まれている(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000982566.pdf)。

 諸外国においては、COVID-19パンデミックの発生以降、インフルエンザの流行が過去に類をみないタイミングで起こったり、今まで一峰性であった流行が二峰性となった地域もあったり、一度流行が収まったとしても予断を許さない状況も起きている(世界保健機関Influenza Update:https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/surveillance-and-monitoring/influenza-updates)。こうした中で、本稿で示したように複数の指標を用いて、インフルエンザの動向を包括的に監視していくことが重要である。

 今後のインフルエンザの感染症発生動向調査には注意をしていただくとともに、これらの詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:

●感染症発生動向調査週報(IDWR)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
●インフルエンザ流行レベルマップ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html
●インフルエンザウイルス分離・検出速報
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html
●今冬のインフルエンザについて(2021/22シーズン)
https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2022.pdf
●インフルエンザ2021/22シーズン
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-vol43/11622-idx513.html
●令和4年度インフルエンザQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2022.html
●インフルエンザ啓発ツール
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/keihatu.html
●令和4年度 今冬のインフルエンザ総合対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/index2022.html

 

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