注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられる。主な感染経路は咳、くしゃみ、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物に触れた手指を介した接触感染もある。感染後、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続くが、いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴である。通常は1週間前後の経過で軽快する。
インフルエンザの発生状況の届出は、感染症法(第14条)に基づき行われ、全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)から、患者数が毎週報告されている。2019/20シーズン(2019年第36週/9月〜2020年第35週/8月)当初のインフルエンザ定点当たり報告数は、2019年第37週(9月9〜15日)の時点で1.17となり、全国的な流行開始の通常の指標である1.00を初めて上回った。しかしながら、第37週の全国のインフルエンザ定点医療機関からの報告数5,738例のうち、同週で定点当たり50.79を記録した沖縄県の報告数が2,895例と全体の約50.5%を占め、沖縄県を除く全国の定点当たり報告数は0.58に留まったことから、全国的な流行入りとは判断していない。なお、翌第38週においても全国のインフルエンザ定点当たり報告数は1.16と、1.00を上回り、沖縄県(報告数3,029例、定点当たり報告数52.22)の全国に占める割合が多くを占める傾向(53.0%)は同じであった。沖縄県では、かねてより夏季にもインフルエンザの流行が見られることがあったが、2019年は7〜8月にかけて定点当たり報告数が10前後を推移し、新学期開始時期である8月末より小児を中心に急激な報告数の増加が認められた。なお、沖縄県における報告数の減少と共に、2019年第39週以後の全国のインフルエンザ定点当たり報告数は減少傾向となった。第42週には全国で0.72(沖縄県13.62)となり、2019年9〜10月の期間に観察された最も低い値となったが、第43週は0.80、第44週は0.95と増加した。この間、沖縄県からの報告数は引き続き減少していたことから他の自治体における増加が全国レベルでの定点当たりの報告数を引き上げる結果となった。第44週に定点当たり報告数1.00を上回ったのは、沖縄県(7.12)、鹿児島県(2.71)、福岡県(2.19)、北海道(1.76)、宮崎県(1.68)、青森県(1.58)、熊本県(1.46)、広島県(1.43)、佐賀県(1.41)、岩手県(1.29)、神奈川県(1.21)、静岡県(1.15)、新潟県(1.13)、東京都(1.12)、福島県(1.01)の15都道県であり、沖縄・九州地方、北海道・東北地方、首都圏を含む地域などで増加がみられた。定点医療機関からの報告をもとにした、定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数推計については、現在システムの調整を行っていることから、可能となった時点からインフルエンザ流行レベルマップにて情報提供を行う予定である。
全国約500カ所の基幹定点医療機関からのインフルエンザによる入院患者数(インフルエンザ入院サーベイランス)においては、2019年11月6日現在、シーズン当初の第37週(113例)をピークとして、以降は第44週(57例)まで継続して減少した(第39週を除く)。今シーズンの基幹定点におけるインフルエンザによる入院患者の累積報告数は747例となり、都道府県別・年齢階級別総数(累計)をみると、うち338例を沖縄県の報告が占めた。全国の報告数において10歳未満が278例(37.2%)、70歳以上が279例(37.3%)であり、小児と高齢者がほぼ同じ割合であった(インフルエンザの発生状況について:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html)。
インフルエンザウイルス型別の検出状況について、昨シーズンの流行はAH1pdm09に始まりAH3へと推移するなどA型ウイルスが中心であり、B型ウイルスもビクトリア系統を中心に2019年第10週頃から増加した。今シーズンはこれまでにAH1pdm09が261株、AH3が22株、B型が18株(ビクトリア系統17株、山形系統1株)の検出となっており〔インフルエンザウイルス分離・検出速報(2019年11月11日現在):https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html〕、昨シーズンと同様にA型ウイルスが中心となっている。
例年のインフルエンザは、全国の定点当たり報告数が1.00以上(通常の流行開始の指標)となる11月末から12月にかけて流行が開始し、ピークは1月末から2月上旬が多い(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1644-01flu.html)。今シーズンは、沖縄県で9〜10月にかけて大規模な地域流行が発生し、例年と異なっている。さらに、九州地方や首都圏などの一部地域におけるインフルエンザ報告数の立ち上がりの早さは、例年より早い全国的なインフルエンザ流行の開始の可能性が示唆され、引き続き本疾患の発生動向について注視していく必要がある。
今後、インフルエンザの流行期を迎えるにあたり、飛沫感染対策としての咳エチケット(有症者自身がマスクを着用し、咳をする際にはティッシュやハンカチで口を覆う等の対応を行うこと)、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生を徹底することが重要である。高齢者における感染への警戒の観点から、医療・福祉施設へのウイルスの持ち込みを防ぐために、関係者が個人で出来る予防策を徹底すると同時に、訪問者等については、インフルエンザの症状が認められる場合の訪問を自粛してもらう等の工夫が重要である。
インフルエンザの予防対策として、2019/20シーズンは、例年通りA型2亜型とB型2系統による4価のインフルエンザワクチン(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2066-idsc/related/584-atpcs002.html)が製造されており、65歳以上の高齢者、又は60〜64歳で心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、あるいはヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方は、予防接種法上の定期接種の対象となっている(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/influenza/)。 2019/20 シーズンを通したインフルエンザワクチンの供給量は2,933 万本の見込みで、2018/19シーズンの使用量である2,630万本や、2017/18シーズンを除く過去6年間の平均使用量である2,598万本を上回っている。また、2019/20シーズンは10月末までに2,037万本の供給量を見込んでおり、近年の使用量等から、ワクチンを適切に使用すれば、不足は生じない状況と考えられる。流行が例年より早まり、早期のワクチンの需要が増加した場合に備えて、厚生労働省は、2019/20接種シーズンの開始時期である10月初旬に、ワクチンメーカーや卸売販売業者に対して、ワクチンの偏在等が生じないように留意した上で、保有する在庫をできる限り医療機関等に迅速に納入するよう、協力を依頼している。
今後のインフルエンザの感染症発生動向調査には注意をしていただくとともに、詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●感染症発生動向調査週報(IDWR)
国立感染症研究所 感染症疫学センター |