(掲載日 2013/10/3)
栃木県の県北地区において2013年8月下旬の警報解除以降に、手足口病の患者が再び増加した。そこで、その原因となるウイルスの型別の推移について報告する。
流行状況:2013年6月以降、全国と同様に栃木県でも手足口病が流行した。特に県北地区においては、定点当たりの報告数が他の地域よりも高く、第30週(7/22~7/28)にはピークに達し、第34週(8/19~8/25)に警報が解除された(図1a)。しかしながら、警報解除の直後に、その県北地区にある病原体定点の一医療機関から、複数の児童福祉施設(保育園)で集団発生があり、再び患者が増加していると医師が探知し、報告検体と搬入があった。
検体と検出方法:栃木県の県北地区にある同一の小児科定点において2013年6~9月に手足口病と診断されて、栃木県保健環境センターに感染症発生動向調査の検体として搬入された27検体(咽頭ぬぐい液、鼻汁、うがい液)を対象として、検査・解析を実施した。その内訳として、流行前(第24週;6/10~6/16)に発症した3患者、ピーク時(第29~30週;7/15~7/28)に発症した13患者、第34~36週(8/19~9/8)に発症した11患者から採取した検体に分類して解析を行った。エンテロウイルスの遺伝子検出は、VP4-VP2部分領域を増幅して実施した1)。得られた増幅産物はダイレクトシークエンス法により遺伝子を解読し、GenBankに登録されている遺伝子を参照株として系統樹解析(約340塩基)を実施して型別を類推した。
結果と考察:図1に、栃木県全域、および県北地区の定点当たりの報告数の推移(図1a)を示し、それぞれの期間で検出された病原体の割合(図1b)をまとめた。流行前の第24週では、すべての検体からエンテロウイルス71型(EV71)が検出された。さらに、ピーク時(第29~30週)では、9検体(69.2%)からEV71、3検体(23.1%)からA群コクサッキーウイルス6型(CA6)が検出された。一方、第34~36週の10検体(90.9%)からCA6が検出された。これらのCA6が検出された第34~36週の検体のうち、3検体(S13-117、S13-120、S13-121;図2の※で示す)の患者は、今シーズンで2度目の手足口病の発症である(ただし、1度目の発症時の検体は、採取されていない)。しかしながら、EV71が検出された患者とCA6が検出された患者の間で、臨床症状等に特徴的な差はなかった。このように、栃木県の県北地域における手足口病について、7月のピーク時ではEV71が主流な原因病原体だったが、8月以降はCA6に徐々に推移して流行が生じた。
EV71による手足口病は3~4年周期で流行するが2)、本年度は2010年の流行から3年目にあたる。先に報告されたIASRによると、今シーズンにおいて高知県ではEV71が手足口病の患者から多く分離された3)。一方、熊本県では4~6月にかけてCA6が手足口病の主流な原因であった4)。しかしながら、本県では、その両方が相次いで主流のウイルス型として検出された。本報告と同様に、今シーズンの長野県の報告では、手足口病患者由来の検体より検出されるウイルスが、EV71からCA6に推移している5)。また、2011年の島根県でもCA6とCA16の二峰性の流行が生じている6)。このような状況下では、1シーズン中に複数回も感染・発症を繰り返してしまう小児も存在する。ゆえに、検出されるウイルス型別の動向を詳細に監視して、迅速に情報を医療現場に還元することが重要である。
参考文献
1)手足口病 病原体検査マニュアル(国立感染症研究所)
2)IASR 33: 55-56, 2012
3)清田直子, 他, IASR 34: 233, 2013
4)森光俊晴, 他, IASR 34: 263-264, 2013
5)松岡高史, 他, IASR 34: 306-308, 2013
6)飯塚節子, IASR 33: 58-59, 2012
栃木県保健環境センター
微生物部 水越文徳 櫛渕泉美 鈴木尚子 舩渡川圭次
企画情報部 舟迫 香 森川博夫