国立感染症研究所

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侵襲性non-typable Haemophilus influenzae感染症

(IASR Vol. 34 p. 188-189: 2013年7月号)

 

はじめに
non-typable Haemophilus influenzae(NTHi)は乳幼児の20~50%が鼻咽腔に保菌し、中耳炎や下気道感染症の原因菌である。菌血症や髄膜炎などの侵襲性感染症の原因となることは稀であるが、これまでにわが国でもいくつかの報告がみられる。H. influenzae type b(Hib)ワクチンの普及によりHib感染症が激減した一方で、国内外とも相対的に侵襲性NTHi感染症が漸増してきており、その疫学調査が課題となっている。

わが国でのこれまでの報告
石和田らは1992~2001年の10年間に小児の血液から分離されたH. influenzae 95株中3株(3.2%)がNTHiであったと報告している1)。さらにIshiwadaらは、脳脊髄液から分離されたH. influenzae 41株中2株がNTHiであったことを2004年に報告し2)、2006年には千葉県でNTHi髄膜炎の1歳児例を経験している(投稿中)。さらにItoらは、2008年の静岡県のNTHi髄膜炎2歳児例を報告し3)、我々も鹿児島県で2012年に1歳3カ月健常児のNTHi髄膜炎例を経験している。成人では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)での下気道感染症急性増悪の原因菌として重要であるが、最近でも菌血症を伴う死亡例が報告されている4)

「庵原班」での報告
2007年以後の小児における侵襲性NTHi感染症の動向は、厚生労働科学研究費補助金による「庵原班」(前「神谷班」)の1道9県における調査で明らかになっている5)。本号12ぺージ表1に、Hibワクチン未導入期、任意接種開始後、全国公的補助開始後の3期に分けた莢膜型の割合を引用する。2011年に子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業による全国的な公的補助が開始されて以後、Hib症例が減少する一方で、侵襲性NTHi感染症の割合が大幅に増えていることがわかる。NTHi感染症の20例の内訳は、肺炎・中耳炎・副鼻腔炎を伴った菌血症が18例、髄膜炎が2例であった。 

海外での報告 
にCDCのActive Bacterial Core surveillance(ABCs)のデータを基にして作図した、米国5歳未満人口10万人当たりの侵襲性H. influenzae 感染症患者数を莢膜型別に示す。1990年にHibワクチンが導入された米国では、Hibによる侵襲性感染症は1994年までに激減し、現在でも再燃はみられていない。一方、Hib以外の株は2000年頃より漸増傾向がみられ、特にNTHiは常に1位を占め、2006~2009年にかけては特に増加していた。その後2010~2011年にかけては以前のレベルに戻っている。その他の国でも、侵襲性H. influenzae 感染症ではNTHiの検出頻度が最も高くなっており、次いで莢膜型aやfもみられている6)。侵襲性NTHi感染症の実数が増加していることを示唆する報告も一部にはあるが、現在のところ有意に継続的に増加しているという確実なエビデンスはない6)。またNTHiによる菌血症は、乳幼児だけでなく成人、特に高齢者にも多いことが報告されている6,7)

考 察
侵襲性NTHi感染症は以前から一定の頻度で存在していたが、Hibワクチン導入後小児のHib感染症が激減することに伴い、相対的に頻度が増えることは予想される。しかしながら、「庵原班」の調査では、2011年以降侵襲性NTHi感染症の患者数自体が急増しており、単に相対的増加だけでは説明ができない。「庵原班」に含まれる1道・9県の調査では、積極的サーベイランスに加えて、莢膜型検査を全例実施しているため、NTHi感染症が察知されやすい可能性があるが、海外でもこのような増加傾向はみられており、今後の推移について莢膜型別の成人例も含めたサーベイランスが重要である。

H. influenzae の莢膜型検査は、特異的血清による凝集反応で行われることが多いが、保険適応がないため、通常の臨床検査ではほとんど行われていないのが現状である。侵襲性H. influenzae 感染症は、2013年4月から感染症法の5類全数把握疾患となったが、地方衛生研究所等に菌株を集め莢膜型を明らかにする病原体サーベイランスも必要であると考える。なおHibの一部には莢膜脱落株が存在し、血清型では無莢膜型と判定されても、莢膜遺伝子を保有する場合があるため、PCRによる確認が必要である8)

我々の経験したNTHi髄膜炎例では、発症3カ月前に規定通りHibワクチンを接種していたため、発症初期にはvaccine failureが強く疑われた。Hibワクチンの効果を正しく評価するためにも、全国的に莢膜型検査の普及が必要である。また、今後NTHiの病原因子の解析、ビルレンスの変化、発症に関与する宿主側因子などの研究が重要になると考える。

 

参考文献
1)石和田稔彦,他, 感染症誌 77: 1-4, 2003
2) Ishiwada N, et al., Clin Microbiol Infect 10: 895-898, 2004
3) Ito T, et al., J Infect Chemother 17: 559-562, 2011
4) Hamaguchi S, et al., J Inflamm Res 5: 137-140, 2012
5) 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 
「新しく開発されたHib 、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV 等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成22年度~24年度 総合研究報告書; p69-80, 2013
6) Agrawal A, et al., J Clin Microbiol 49: 3728-3732, 2011
7) Shuel M, et al., Int J Infect Dis 15: e167-173, 2011
8) Falla TJ, et al., J Clin Microbiol 32: 2382-2386, 1994

 

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野 西 順一郎

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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