国立感染症研究所

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10道県における小児侵襲性Haemophilus influenzaetype b感染症発生状況の推移:Hibワクチン導入効果の評価

(IASR Vol. 34 p. 194-195: 2013年7月号)

 

はじめに
Haemophilus influenzae は、小児期における侵襲性感染症の起因菌として最も頻度が高く、莢膜多糖体抗原の違いからa~fまでの6血清型および非莢膜型(non-typable H. influenzae; NTHi)に分類される。侵襲性感染症の80%以上はb型(H. influenzae type b、Hib)によるものである1)。これまでにキャリアー蛋白との結合型Hib ワクチンが定期接種となっている国々においては、小児Hib 侵襲性感染症の著明な減少が報告されている2,3)。本邦では、2008年12月から破傷風トキソイドとの結合によるHibワクチンが市販され、2011年に入り多くの自治体では公費助成で接種可能になった。

われわれは、厚生労働科学研究事業研究班「ワクチンの有用性向上のためのエビデンス及び方策に関する研究」班(神谷班)、「新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性ならびにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」班(2011年2月に神谷研究代表者が逝去したため庵原・神谷班に名称変更)として、小児侵襲性細菌感染症のアクテイブサーベイランスを継続して実施している。今回は公費助成開始後2年間において、Hibワクチンが侵襲性Hib感染症に与えたインパクトについて報告する。

調査方法
本研究において報告対象とした患者は、生後0日~15歳未満で、H. influenzae(HI)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、Group-B streptococcus(GBS, Streptococcus agalactiae)による侵襲性細菌感染症(血液、髄液、関節液など、本来は無菌環境である身体内部から採取した検体から起因菌が分離された感染症)に罹患した全例とした。罹患率の算出には、総務省統計局発表の各年10月1日時点の5歳未満人口(ただし2012年は2013年2月14日時点でデータ未公表のため、2011年のものを使用)を用いた。2011年10月時点での10道県を合わせた5歳未満人口推計値は 1,199,000人であり、全国の5歳未満人口の推計値(5,303,000人)の22.6%を占めていた。調査期間は、2008年1月~2012年12月までの5年間、前方視的に全数把握調査を実施した。

調査対象地域は、北海道、福島県、新潟県、千葉県、三重県、岡山県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県の10道県である。これらの地域で、人口ベースの患者発生状況調査を行った。菌の同定・血清型判定と薬剤感受性解析は、国立感染症研究所で実施した。なお、北海道は髄膜炎のみの調査であり、他の9県は侵襲性感染症すべての調査である。

結 果
1)Hib侵襲性感染症罹患率の変化
2008年1月~2012年12月に各県より報告された患者数を表1に示した。5歳未満の患者数は10道県合計で、Hib髄膜炎7例、髄膜炎以外の侵襲性感染症が9例であった。これらの報告数より、各疾患の5歳未満人口10万人当たりの罹患率を算出し、ワクチン公費助成前3年間(2008~2010年)と、2011年および2012年の罹患率比較を行った(表2)。2008~2010年のHib侵襲性感染症平均罹患率は、髄膜炎 7.7、菌血症を伴う非髄膜炎 5.1であったが、2011年にはそれぞれ 3.3、3.0に減少し、減少率は57%、41%であった。2012年も罹患率減少傾向は継続し、髄膜炎 0.6(減少率92%)、菌血症を伴う非髄膜炎 0.9(減少率82%)にまで減少した。

2)侵襲性肺炎球菌、GBS感染症罹患率
侵襲性肺炎球菌感染症は、髄膜炎で71%、菌血症を伴う非髄膜炎感染症でも52%の罹患率減少を認めた。GBS感染症は減少傾向を示さなかった。

3)ワクチン接種後罹患例
Hibワクチン接種を受けていたが、侵襲性HI感染症に罹患した症例として、3年間で合計18例(2010年2例、2011年6例、2012年10例)が報告された。分離菌の血清型については、2010年が、Hib  1例(髄膜炎)、NTHi 1例(非髄膜炎)、2011年は全例Hib(髄膜炎5例、非髄膜炎1例)、2012年では髄膜炎3例はいずれもHibによるものであったが、非髄膜炎感染症7例では、Hib 3例、NTHi 3例、不明 1例であった。

考 察
Hibワクチンが導入された国々からは侵襲性Hib感染症数の大幅な減少が報告されている。米国ではワクチン導入後5年で5歳未満の侵襲性Hib感染症罹患率が99%減少した4)。本研究班では、昨年の2011年調査において早くも侵襲性Hib感染症の罹患率減少が観察され始めたことを報告した5)。今回は、ワクチン公費助成開始後2年目となる2012年の調査結果を加えて解析を行った。公費助成前期間と比較した侵襲性Hib感染症減少率は、髄膜炎で92%、非髄膜炎では82%であり、2011年に引き続き減少が観察された。欧米各国のデータと遜色の無い減少率であり、Hibワクチン接種による発症抑制効果の現れと考えられる。

Hibワクチンはtype b以外のHI(non-Hib)に対しては感染防御効果を持たないため、ワクチン導入後のnon-Hib感染症の増加(serotype replacement)が懸念されるところである。これまでにHibワクチンが導入されている国々では、侵襲性HI感染症に占める割合はnon-Hibの方がHib より高くなっている6)が、罹患率の絶対的増加については、増加を認めないとする報告が多い6,7)。本研究では、2012年のワクチン接種後罹患例においてnon-Hibが3例検出されており、今後も注意が必要である。

今回の調査により、本邦においてもHibワクチン導入が、5歳未満小児において侵襲性感染症罹患率の大幅な低下をもたらしたことが明らかとなった。今後は特に1)serotype replacementの発生、進行、2)長期的なワクチン効果、3)ワクチン接種後罹患例の解析、などに留意して、non-Hibを含めた侵襲性HI感染症のアクティブサーベイランスを継続、推進する必要があると考える。

 

参考文献
1) Peltola H, Clin Microbiol Rev 13: 302-317, 2000
2) Peltola H, et al., Lancet 340: 592-594, 1992
3) Adams EG, et al., JAMA 269: 221-226, 1993
4) CDC, MMWR 47: 993-998, 1998
5) 庵原俊昭,他,IASR 33: 71-72, 2012
6) Ladhani S, et al., Emerg Infect Dis 16: 455-463, 2010
7) CDC, MMWR 51: 234-237, 2002

 

国立病院機構三重病院小児科 菅  秀 庵原俊昭 浅田和豊
札幌市立病院看護学部 富樫武弘
福島県立医科大学小児科 細矢光亮 陶山和秀
千葉大学小児科 石和田稔彦
新潟大学小児科 齋藤昭彦 大石智洋
岡山大学保健学研究科 小田 慈
高知大学小児科 脇口 宏 佐藤哲也
国立病院機構福岡病院 岡田賢司
鹿児島大学小児科 西 順一郎
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 安慶田英樹

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