国立感染症研究所

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JANIS 検査部門データからみたインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンの導入効果

(IASR Vol. 34 p. 197-199: 2013年7月号)

 

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、小児の侵襲性感染症の主要な原因菌であり、特に髄膜炎の大部分はH. influenzae 莢膜型b型菌(Hib)による。一方、Hibワクチンを導入した国々では侵襲性インフルエンザ菌感染症の著明な減少が報告されている。日本においても2007年1月にHibワクチンが承認、2008年に販売が開始された。Hibワクチン導入による効果を検討するため、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS )事業検査部門データより、髄液検体よりH. influenzae が分離された5歳未満の患者数の推移をまとめた。

JANIS事業検査部門では、参加医療機関の細菌検査室データを収集している。今回、2001年7月~2012年9月までのJANIS検査部門データから5歳未満の患者より採取された髄液検体のデータを抽出後、患者単位となるよう重複検体のデータを削除した。JANISデータには莢膜型に関する情報は含まれていないが、髄液検体よりH. influenzae が分離された5歳未満の患者に限ることで、侵襲性感染症であるHib髄膜炎の動向を反映できると考えた。また、JANIS参加医療機関数は変動があり、2007年のシステム更新時に倍増、その後も漸増しているため患者数の推移は医療機関当たりのH. influenzae 分離患者数として示した。Hibワクチン出荷シリンジ本数はサノフィパスツール社の社内資料の提供を受けた。JANISデータの研究利用は統計法第33条に基づく調査票情報の利用承認を得た。

2001年7月~2012年9月の期間中、592施設の5歳未満の患者から採取された髄液検体96,664例のうち、1,258例(1.3%)からH. influenzae が分離された。に4半期ごとの医療機関当たりH. influenzae 分離患者数とHibワクチン出荷シリンジ本数の推移を示す。例年H. influenzae 分離患者数は第4期(10~12月)が多く、第3期(7~9月)に最も少なくなる傾向があった。Hibワクチンは、2008年の発売直後は供給不足が問題となったが、厚生労働省によるワクチン接種緊急促進事業が2010年11月に実施される頃には供給体制も整備され、2011年以降はHibワクチン出荷シリンジ本数が2010年にくらべて倍増した。ワクチン導入後の2008年以降も2010年までは医療機関当たりのH. influenzae分離患者数に大きな変化はみられなかったが、Hibワクチン出荷量の増加に伴い2011年以降は著減した。2008~2012年のH. influenzae 分離患者数は、年別に、209例、207例、 205例、102例、22例であり、2011年には2010年の半数、2012年は1~9月までの9カ月分ではあるが、2010年の5分の1であった。

2008~2012年9月のH. influenzae 分離患者745例の年齢群を6カ月ごとにみると、6カ月以上1歳未満の群が238例(32%)と最も多く、次いで1歳~1歳6カ月の群が125例(17%)、6カ月未満の群が101例(14%)であり、症例の約7割が2歳以下の乳幼児であった。患者数が著明に減少した2012年は、22例のうち6カ月未満の群が10例(45%)と、6カ月以上1歳未満の群の5例(23%)を上回り、最も多かった。

日本におけるHibワクチンは、米国に遅れること約20年、2010年11月の子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業により公費助成が始まり、多くの5歳未満児に接種されるようになった。2011年以降にみられたJANIS参加医療機関当たりのH. influenzae 分離患者数の劇的な減少は、Hibワクチンが普及した効果を反映していると考えられた。また、年齢群別の髄液からのH. influenzae分離患者数は、これまで報告されていたように頻発年齢である2歳未満、特に6カ月以上1歳未満の群に多かったが、2012年は6カ月未満の群の症例数が6カ月以上1歳未満の群よりも上回っており、これもHibワクチンの影響が考えられた。

日本においてHibワクチンの導入が遅れた理由の一つとして、侵襲性インフルエンザ菌感染症罹患率が低かったことが挙げられる。しかし、200床以上の医療機関の1/3 ~1/4 を占めるJANIS参加医療機関に限ってもワクチン導入前は年間 200例以上のインフルエンザ菌による5歳未満の髄膜炎患者が発生しており、Hibワクチン導入の意義は高かったと考えられる。2013(平成25)年度からは侵襲性インフルエンザ菌感染症が感染症発生動向調査の対象疾患となった。海外では、Hibワクチン導入後、非莢膜型やb以外の莢膜型による感染症が増加することが報告されている。また、Hibワクチンの接種率が低下した場合には、Hib感染症が再び増加することも考えられ、今後も患者および病原体のサーベイランスが重要と考えられた。

 

新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「新たな薬剤耐性菌の耐性機構の解明及び薬剤耐性菌のサーベイランスに関する研究」(H24-新興-一般-010)代表国立感染症研究所細菌第二部 柴山恵吾

 

国立感染症研究所実地疫学専門家養成プログラム(FETP) 涌井 拓
国立感染症研究所細菌第二部 鈴木里和 柴山恵吾

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