国立感染症研究所

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北海道内献血者におけるHEV感染の状況

(IASR Vol. 35 p. 7-8: 2014年1月号)

 

北海道においては、ALT値が500 IU/Lを超える献血者から高い頻度でHEV RNAが検出され、2001年には国内初となる輸血後E型肝炎が確認された1)。また、2004年には道内の飲食店でブタレバーやホルモンを食した家族13名のうち7名がHEVに感染し、1人が劇症肝炎で死亡するという事例が発生した(IASR 26: 266-267, 2005)。その後家族の1人が献血し、その血液を輸血された患者が急性肝炎を発症するという2例目の輸血後E型肝炎が確認された2)。この他にも、道内では原因不明肝炎患者の多くからHEV RNAが検出され、北海道はE型肝炎の侵淫地区と考えられている3)。これらの状況を踏まえ、日本赤十字社では献血者のHEV感染実態調査として、2005年から試行的に20本プール検体を用いたリアルタイムRT-PCR法によるHEV RNAスクリーニング調査(HEV NAT)を北海道で開始した。本稿では北海道内献血者のHEV感染状況の概要を紹介する。

2005年1月~2006年2月まではすべての献血者を対象に、それ以降は血清学的スクリーニングで陰性かつALTが60 IU/L以下の献血者のみを対象にHEV NATを実施した。調査対象となった献血者は2013年10月までに延べ約240万人となった。陽性検体については、HEV特異抗体検査、RNA定量、分子系統解析を行い、また陽性者には献血前の喫食歴調査を実施した。

陽性者は道央、道北地区の都市部を中心として全道各地からみつかっているが、道東地区は比較的少ない。9年間の平均陽性率は0.011% (1/8,737)で、年間陽性率については、2006~2008年にかけて月に8名以上の散発的な小規模集団発生が起こったため若干上昇したものの、その後大きな変動は見られていない(図1)。また、月別陽性率にも大きな変動はなく、顕著な季節性は認められず、1年を通して感染者が確認されている(図2)。また、2005年には陽性率に男女間の違いは見られなかったが、その後男性優位の傾向が続き、男性は女性の約1.3~5.6倍高い(図1)。陽性者の多くは中高年だが、献血者数もこの年代に多く、年代別陽性率には有意差は認められていない。

HEVは少なくとも4つの遺伝子型に大きく分類されるが、このうち国内でヒトから検出されるHEV遺伝子型は、輸入感染例を除いて3型と4型である。北海道内の急性E型肝炎患者の約半数は4型株である。一方、HEV NAT陽性献血者においては4型が占める割合は全体のわずか約7%に過ぎず、大多数は3型である。この比率の差は遺伝子型による病態の違いを反映していると考えられる。すなわち従来から指摘されているように、3型株より4型株のほうが顕性化・重症化しやすいためと考えられる3)。遺伝子型についてさらに詳細に解析すると、3型、4型ともに複数のサブタイプに分類される。この中には北海道土着株と考えられるクラスターも存在し、これらが優占種となっている。また、各サブタイプの出現頻度は地域で異なっているため、感染源・感染経路は地域に密着したものと推測される。さらに、献血者から得られたHEV株の一部は、そのゲノム配列が北海道産あるいは国内産のブタ由来株と非常に高い類似性を示し、加えて、陽性者の約7割は献血前にブタレバーやホルモンなどの動物内臓肉の摂取歴があることから、zoonotic food-borne感染が主要な感染経路であると示唆される。しかしながら、明らかに摂取歴のない感染者も存在するため、未知の感染源・感染経路が存在する可能性も依然として残っている。

陽性者の約8割は、献血時にはIgM型、IgG型のいずれの抗HEV特異抗体も検出されないため、HEVに感染して間もない時期に献血したと考えられる。また、陽性献血者を詳細にフォローすると、HEV RNAは約2週間~最長2カ月間にわたって検出された。HEV感染は免疫抑制状態にある患者を除いては慢性化することはないが、HEVは比較的長期にわたって感染者の血中に存在すると考えられる。さらに、約4割のHEV感染者は、経過観察中にALTが100 IU/Lを超えて軽度から重度の肝炎を発症することが確認された。逆に約6割は不顕性感染で経過した。

北海道内献血者においては約9年間にわたってHEV感染が広く定着している実態が明らかとなった。HEVの主要な感染経路は経口感染と考えられるが、感染に気付かないまま献血する者も存在し、稀ではあるが、輸血によってHEVが伝播する可能性もある。輸血後に原因不明の肝炎を発症した場合はHEV感染も考慮する必要がある。

 

参考文献
1)Matsubayashi K, et al., Transfusion 44: 934-940, 2004
2) Matsubayashi K, et al., Transfusion 48: 1368-1375, 2008
3) 阿部敏紀,他,肝臓 47: 384-391, 2006

 

日本赤十字社
北海道ブロック血液センター品質部 松林圭二

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