国立感染症研究所

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韓国と台湾におけるE型肝炎の疫学的状況―文献レビュー

(IASR Vol. 35 p. 12-13: 2014年1月号)

 

WHOによると、毎年、世界全体では2,000万人のE型肝炎の感染があり、300万人を超える急性患者の発症、5万7千人の関連死亡があると推定されている1)。分かっているところではG1~G4までの4つの主要な遺伝子型(genotype)があり、血清学的には単一とされる。通常、G1は途上国にみられ、地域レベルのアウトブレイクを起こすものの、先進国でみられるG3はアウトブレイクを起こさない。世界的には急性感染や死亡の大半がG1あるいはG2で占めているとされる。最近では、タンザニアで3か月間で690例に達する急性熱性疾患のアウトブレイクがあり、46検体中15検体からE型肝炎ウイルスが検出され、遺伝子型の検索中であることが報告されている2)

本稿においては、近年の韓国および台湾におけるE型肝炎の状況について文献的なまとめを行う。

韓 国
韓国では現在、E型肝炎はサーベイランス対象疾患となっていないため、国としての発生動向に関するデータが存在しない。医療従事者はもっぱら輸入感染症のような認識を持っている可能性があるという。しかし、2002~2011年に把握された18例のE型肝炎のヒト感染症例のうち、2例のみがインドからの輸入例であることが分かっており3)、他の16例は高侵淫国への旅行歴はなかった。1例は肝移植を要する症例であった。このうち2010年と2011年の各1例からはG4が検出されており(他症例は未検査)、2011年の54歳男性の症例については野生イノシシの生血を摂食したことが分かっている。韓国国内のブタに関する調査では14.8%が抗HEV抗体陽性であったという情報や、生ガキから8.7%の割合でHEV RNAが検出されたことがあったという情報がある3)。後者の遺伝子型はG3であった。以上より、韓国国内におけるE型肝炎のヒト感染は稀ではあるが、G3およびG4が循環しており、人獣共通感染症として、あるいは食品媒介感染症としてのリスクがある3)。他の報告では、2006年6~9月にかけて、健康診断受診者484人より無作為に選んだ147人(年齢中央値45歳)における血清疫学調査の中では4)、23.1%(Wantaiアッセイ法)あるいは14.3%(Genelabsアッセイ法)の陽性率が得られており、年齢が高いと陽性率も高かったとの報告もある4)

台 湾
台湾におけるE型肝炎は、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎などとともに第三類法定伝染病に指定されている(A型感染は第二類法定伝染病)。台湾CDCのホームページによると、2005~2009年にかけて年平均12.8人(計64人)の孤発例の発生であり5)、地域的な偏在は認められていない。うち約3割(21人)は海外からの輸入例であるとされる5)。G4を中心とする遺伝子型が観察されてきた。A型などの他のウイルス性肝炎と異なり、地域流行を起こしておらず、もっぱら孤発例のみであった。その頻度は、10万人あたり0.03~0.06と推定されていた6)。660人を対象とした調査では、養豚業者では29.5%の血清抗体陽性率で、一般住民と比較して3.5倍の状況があり、また、年齢が高いと陽性率も高かった6)

 

参考文献
1) WHO, Hepatitis E (Fact sheet N280, Updated July 2013), Media Centre http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs280/en/index.html
2)WHO/ Regional Office for Africa, Epidemic & Pandemic Alert and Response (EPR), Hepatitis E in Tanzania, 5 Dec 2013 http://www.afro.who.int/en/clusters-a-programmes/dpc/epidemic-a-pandemic-alert-and-response/outbreak-news/3954-hepatitis-e-in-tanzania.html
3)Jeong, S-H, Gut and Liver  5(4): 427-431, 2011
4)Park HK, et al., BMC Infectious Diseases 12: 142, 2012
5)台湾衛生福利部疾病管制署ホームページ, 急性病毒性E型肝炎
http://www.cdc.gov.tw/professional/ThemaNet.aspx?treeid=beac9c103df952c4&nowtreeid=D6EB4C91D2B18132&did=659 

6)Lee J-T, et al., PLoS ONE  8(6): e67180, 2013

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 砂川富正

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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