国立感染症研究所

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岡山県におけるA群ロタウイルスの検出状況(2010/11~2012/13シーズン)

(IASR Vol. 35 p. 68-69: 2014年3月号)

 

我々は、岡山県におけるA群ロタウイルス(RVA)流行状況を把握するため、(独)国立病院機構岡山医療センター小児科の協力を得て、胃腸炎患者におけるRVA検出状況および検出ウイルスのVP7遺伝子型(G型)分布状況について継続的な調査を実施しており、2000~2010年の10シーズンについては本誌既報1, 2)である。今回はRVAワクチンの国内導入前後の時期にあたる2010~2013年の3シーズンの状況について報告する。

2010年9月~2013年6月までの3シーズン(9月~翌年8月を1シーズンとする。2012/13シーズンは6月まで)のウイルス性胃腸炎を疑う患者糞便1、288件(2010/11:438件、2011/12:410件、2012/13:440件)を対象とし、RVA検出市販キット(ELISA法またはイムノクロマト法)による検査を実施するとともに、陽性例についてGouveaらの逆転写PCR(RT-PCR)法3) またはシークエンスによりG型を同定した。

検査の結果、262検体(20.3%)からRVAが検出された。シーズン別検出率は2010/11が30.1%、2011/12が18.5%、2012/13が12.6%と低下傾向がみられ、シーズン別検出率に大きな変動がみられなかった前報2)とは異なる結果であった。に検査数およびRVA検出率の経時的推移を示す。RVAの検出率のピークは、前報よりやや早く1~3月、ピーク時の値は前報2)同様44.3~69.7%と高率であったが、2010/11シーズンに比べて2011/12、2012/13両シーズンは、やや低い傾向であった。また、2011/12、2012/13両シーズンは、少数ながら夏季(6、7月)にRVAが検出された()。

次に、RVA陽性262件のG型別結果を示す。3シーズンを通してのG型別割合はG3型65.7%、G1型30.5%、G9型2.3%、G2型1.1%で、その他にG1&G3の混合感染例が1例認められた()。シーズン別では、2010/11、2011/12シーズンは2008/09、2009/10シーズンに引き続きG3型が優占型となったが、2011/12シーズンにはG1型の割合が増加し、2012/13シーズンは6シーズンぶりにG1型が優占型となった。

我々は、2011/12シーズンの岡山県において、これまでに検出されたことのないタイプのRVAを報告した4)。このウイルスは、VP7およびVP4遺伝子型(P型)がG1型プロトタイプのWa株と同じG1P[8]型であるのに対し、VP6、NSP4およびNSP5/6遺伝子型はG2型プロトタイプのDS-1株と同一であるという、異なるgenogroup間(Wa genogroupとDS-1genogroup)の遺伝子再集合体(リアソータント)に由来する株であった。さらに、この株が同シーズンに検出されたG1型全体の71.4%を占めて広く流行したことも明らかにした4)。本株を簡易的に見分けるには、通常のGおよびP型別に加え、NSP4およびNSP5/6遺伝子の全長を比較することが有効と考えられる4)。そこで、2012/13シーズンにおけるリアソータント株の流行状況を明らかにするため、G1P[8]と同定された49株についてRT-PCR法 によりNSP4およびNSP5/6遺伝子全長をそれぞれ増幅し、両者の鎖長を比較した。その結果、25株(51.0%)がリアソータント株と推定され、これまで遺伝的に不安定であるとされてきた異なるgenogroup間のリアソータント株が、2シーズン連続で広範な流行を起こしたことが今回初めて明らかになった。

わが国においては、RVAワクチンとしてRotarix®(GSK社)が2011年11月から、RotaTeq®(MSD社)が2012年7月から導入された。今回、ワクチン導入前後にあたる3シーズンのRVA流行状況を解析したところ、ウイルス検出率の低下傾向や、リアソータント株の2シーズン連続の流行など、これまでにない状況が観察された。期間・地域ともに限定された調査であるため、これらの状況とワクチン導入との関係は明確ではないが、今後従来とは異なる流行パターンに移行するおそれもあり、広範囲での継続的かつ詳細な監視体制の強化が必要である。また、今回2シーズン連続の流行が明らかとなったリアソータント株は、今後新たな流行株として定着する可能性も十分に考えられるが、本株は通常の型別のみでは発見できないため、簡便かつ確実な検査法の開発が望まれる。

 

参考文献
1)葛谷光隆, 他, IASR 26: 4-6, 2005
2)葛谷光隆, 他, IASR 32: 71-72, 2011
3)Gouvea V, et al., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
4)Kuzuya M, et al., J Med Virol, 2013 Sep 16. doi: 10.1002/jmv.23746 (Epub ahead of print)

 

岡山県環境保健センター 濱野雅子 木田浩司 藤井理津志 溝口嘉範 岸本壽男        
岡山県食肉衛生検査所 葛谷光隆        
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 金谷誠久 福岡義久

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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