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成人の侵襲性インフルエンザ菌感染症の臨床像と原因菌の特徴

(IASR Vol. 35 p. 232-233: 2014年10月号)

はじめに
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、パスツレラ科に属するグラム陰性短桿菌で、乳幼児の多くは本菌を鼻咽頭に保菌しており、髄膜炎、下気道炎、中耳炎、副鼻腔炎などの原因菌として重要視されている。本菌は、菌体の周囲に莢膜を有する有莢膜型(a~f 型の6種)と莢膜を有さない型別不能株(non-typable H. influenzae : NTHi)に分類され、本菌による感染症は、菌血症から全身に播種される侵襲性感染症と局所的な非侵襲性感染症に大別される。今回、成人の侵襲性インフルエンザ菌感染症について調査を実施したので報告したい。

疫学的状況
本邦においては、2008年12月にHibワクチンによる任意接種が開始され、2013年4月の予防接種法改正によりHibワクチンは定期接種化されることになった。これに伴い、侵襲性インフルエンザ菌感染症が全数把握対象疾患(5類感染症)に追加された1)。2013年4月~2014年8月までの期間に、感染症発生動向調査に基づく全国から届出のあった侵襲性インフルエンザ菌感染症について発生状況をまとめたところ、年齢分布においては、4歳までの小児と60歳以上の高齢者に集中して発生が認められ、二峰性のピークを示した(本号1ページ特集図1を参照)。臨床像としては、小児においては、菌血症、髄膜炎、および菌血症を伴う肺炎それぞれの病型における発生数に差は認められなかったが、高齢者においては、大半が菌血症または菌血症を伴う肺炎を呈していることが今回初めて確認された。

また、成人の侵襲性インフルエンザ菌感染症については、全国の医療機関および地方衛生研究所の協力の下、2013年度から始まった「成人の重症肺炎サーベイランス構築に関する研究」(大石班)において菌株の収集を行い、現在、国立感染症研究所において解析を実施している。送付された菌株の解析状況をに示した。2014年7月末現在7株送付されており、年齢分布は57~95歳、臨床像はすべての株が菌血症を伴った肺炎由来であった。7症例中4症例に、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺非小細胞癌などの基礎疾患が認められた。これらの分離株について次項で述べる方法により解析を行った結果、すべての菌株がNTHiであった。海外ではこれまで、成人、特に高齢者のNTHiによる侵襲性感染症は散見されてはいたが2, 3)、本邦においては、COPDの増悪4)などの非侵襲性感染症に関する報告が主であった。今回の結果により、本邦においてもNTHiは、高齢者における侵襲性インフルエンザ菌感染症の主要な原因菌であることが推測されることから、今後さらなる侵襲性感染症に関する発生状況の監視および分離菌株の莢膜型別を継続実施することが重要であると考えられる。先にHibワクチンが導入された海外では、ワクチン導入によるNTHiによる侵襲性感染症への原因菌の変化に関する報告がされている5, 6)ことから、本邦においても本感染症に対して注視する必要がある7)

莢膜型およびNTHiの決定
莢膜型の決定は、通常a~fの莢膜型に特異的な免疫血清を用いた生菌凝集法により実施される(有莢膜型)。一方、NTHiについては、免疫血清による生菌凝集反応の確認のみでは確定できない。電子顕微鏡による菌体観察も有効な方法であるが、PCR法によって確認可能である。莢膜型特異的PCR法8)および莢膜の産生に関与する遺伝子bexBおよびbexAの保有を確認するPCR法9)によりNTHiの判定が可能である。今回送付された7株についても、これらの方法によりすべてNTHiであることが確認された。

薬剤感受性
インフルエンザ菌の薬剤耐性には、β-lactamase産生による耐性機序(β-lactamase producing ampicillin- resistance: BLPAR)とβ-lactamase産生によらない機序(β-lactamase non-producing ampicillin-resistance: BLNAR)等が重要視されており10)、特に、BLNARの増加傾向が懸念されている。送付株にはβ-lactamase産生株は認められなかったが、BLNARは2株確認された。また、他の5株は、供試6薬剤(ペニシリン系、カルバペネム系、セフェム系)に対して感受性を示した。

まとめ
世界的にNTHiによる成人の侵襲性インフルエンザ菌感染症が増加しつつある。本邦においても高齢者を中心にNTHiによる侵襲性インフルエンザ菌感染症の発生割合が増加するものと予想されることから、今後の動向監視が重要であると考えられる。

 
参考文献
  1. IASR 34: 111, 2013
  2. Dworkin MS, et al., Clin Infect Dis 44: 810-816, 2007
  3. Kastrin T, et al., Eur J Clin Microbiol Infect Dis 29: 661-668, 2010
  4. Moghaddam SJ, et al., Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 6: 113-123, 2011
  5. Agrawal A, et al., J Clin Microbiol 49: 3728-3732, 2011
  6. Shuel M, et al., Int J Infect Dis 15: e167-173, 2011
  7. IASR 34: 185-190, 2013
  8. Falla TJ, et al., J Clin Microbiol 32: 2382-2386, 1994
  9. Davis GS, et al., J Clin Microbiol 49: 2594?2601, 2011
  10. IASR 31: 92-93, 2010
 
国立感染症研究所感染症疫学センター 石岡大成 大石和徳
 

 

 

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